006 九つ目の可能性
「おいおい、冗談キツいぜ。どうしてそういう結論になる? ふたりして俺を担いでるんじゃあないだろうな」
艦長室にやってきたオーエンとルッタの報告を受けたギアは頭を抱えていた。
ふたりが夕食後にデュアルセイヴァーについての報告に来ることは彼も事前に聞いていた。
とは言ってもデュアルセイヴァーについてはアンカース天領でザイゼンたちが先に調べていたわけだし、その報告書もギアは受け取って確認している。つまり、ある程度は調べ終わっている状態なのだ。だからこんなにすぐ厄介な情報が飛び込んでくるなど、ギアは想像もしていなかった。
けれども今の彼は頭を抱えて、ふたりから渡された報告書を穴が開くほどに眺めている。
一笑に付せればどれだけ良いかと思いながらも、ギアは口頭でも説明された、とある可能性について軽視はできないと理解していた。
「俺らもアーマーダイバーの整備についちゃぁ一流だっていう自負はあるが、何分自分たちの機体ばかり見ていたからな。必然的に知識はイロンデルタイプとフォーコンタイプに寄っちまってる。だから修理屋として複数の機体を見てきたルッタの見解がメインになってはいるが……的外れとは思えねえぜ」
オーエンがそう告げる。問題は二基の機導核を搭載したデュアルセイヴァーの性能……ではなく、もっと根本的なものだった。
「まあ、あくまで私見だからもっと別の人の意見も聞きたいところだけどさ。ともかくね。報告書に書いた通り、あの機体の形状はタイプ的には万能型のコルボータイプに近いんだよね」
「コルボーか。確かにうちの整備士じゃあ専門外だな」
ギアがそう返す。
断崖大陸アーマンは地球と同サイズの面積が広がっており、八天領もそれぞれバラけて存在している。
この場で一番近い八天領のヘヴラト聖天領が生産しているのはスピード重視のイロンデルタイプで、二番目に近いゴーラ武天領が生産しているのはパワー重視のフォーコンタイプだ。ここまでに遭遇した他の量産機はラギット兵天領の安定重視のモワノータイプと、ヴァナーフ竜天領の瞬間出力重視のカゾアールタイプがあり、コルボータイプはその二天領よりもさらに遠いリザイン黒天領の量産機で、極めて平均的な性能をウリにしている機体だった。
扱いやすいために人気の高い機体ではあるが、リザイン黒天領は距離があるためにコルボータイプをこの近辺で見ることはほとんどない。そのため、基本風の機師団の整備を行なっているオーエンたちでは判断がつかず、修理屋をしていたために複数のアーマーダイバーにも見識のあるルッタが確認をしてコルボータイプに近いことが判明したのであった。
「でも設計思想がまるで違うんだよね。コルボータイプはモワノータイプほど壊れにくくはないけどオールマイティに活躍できるのがコンセプト。でもデュアルセイヴァーは頑丈なフレーム構造を参考にしてるだけで、中身の構造はカゾアールタイプに近いんだよ。まあ機導核を二基搭載してるから出力にも余裕があるし、いいとこ取りが可能だってことなんだろうけど。でも機体をミックスしているにしてはどうにも規格のチグハグ感がないんだ。だから、あの機体って設計自体は新規で起こしてるっぽいんだよね」
「ええと、つまりどういうことだ?」
首を傾げるギアにルッタが「だからさー」と言う。
「デュアルセイヴァーは新規に設計された新しい機体だってこと。ザイゼンさんは型番とか調べてたけどさー。書かれてるのはダミーなんじゃないかな」
「それで最初の結論になるわけか。だが他の八天領が隠れて作ってるってことだってあるだろうよ」
「そりゃあね。ないとは言えない……というよりはその可能性の方が普通は高いと思うよ。けどさ。あの機体には既存では確認できない別軸の技術体系が混じってるっぽいんだよ」
その言葉にギアの目が細まり、オーエンがため息を吐きながら補足する。
「現在のプラントは八つ。ひとつ発見されるたびに新規の設計も発見され、ある程度は他のプラントにも情報を共有化してアーマーダイバーはこれまでに八度進歩してきた。そうだろギア艦長」
その言葉にギアが頷く。実際、イロンデルタイプならばスピード、フォーコンタイプならパワーと、新しいプラントが発見されるたびにそれぞれで造られる機体は何かしらの優位性を持っており、各プラントではそれらの技術のダウングレードしたアーキテクチャを共有することで全体での基本性能も増してきた。
「ああ、そうだ。だからルッタはデュアルセイヴァーが九番目のアーマーダイバープラントで作られた可能性があるって考えたわけか」
ギアの問いにルッタとオーエンが頷く。
「……その意味分かってて、言ってるんだよな?」
ギアが頭を抱えながら尋ねる。
オーエンが口にしたように、現在アーマーダイバーを製造可能なイシュタリア文明の遺産『プラント』はこの大陸で八つしか確認されていない。だから八天領なのだ。だからこそ天領は互いに自治を行なっていてそれぞれが対等だという建前があっても、八天領の権力だけは絶対だった。
けれども九番目のプラントが発見されたとすれば、大陸の状況そのものが変わってしまう。
「そりゃあね。人類の生存圏はアーマーダイバーの数で決まってると言っても過言じゃあないし。八つあるプラントからアーマーダイバーが一定量供給されているから現在の天領が維持されてる。だからゴーラが無茶していても他の天領は何も言えないし、タイフーン号もこうやって迂回してヘヴラトに向かってるわけだよね」
「そうだ。仮定の話ではあるが、ゴーラがアーマーダイバーの供給を止めれば、世界の8分の1のアーマーダイバーはいずれなくなる。となれば単純に考えて、現状の天領の8分の1が運用できなくなるってぇ計算になるわけだ」
「逆に考えれば、プラントがさらに増えればアーマーダイバーの数は増える。そうなれば天領の数も当然増えるって話だよね」
それはとても単純な話だ。もちろん、すぐにそうなるというわけではない。けれども八天領のどれかが欠けでもすれば数十年かけてゆっくりと人類の生存圏は狭まっていくだろう。その逆もまた然りである。
だからこそルッタたちの示した可能性はとても厄介なのだ。九番目のアーマーダイバープラント。それはこの世界の人間にとってあまりにも魅力的過ぎる。
「新たなアーマーダイバープラントの発見は俺たちハンターの……いや、人類の夢だ。俺たちが生きる世界を広げるための希望だ」
その言葉は決して大袈裟なものではない。ハンターであれば誰もが一度は夢見る偉業だ。
ハンターでなくともそうだろう。だが、だからこそギアは眉間に皺を寄せざるを得ない。
「それがよりにもよって旧人類を滅ぼそうとか戯言を言っている連中の手にあるってことかよ」
「そういうことだ艦長。これが各天領に知れ渡ったら、アルティメット研究会に手を出すこと自体が禁じられるかもしれない」
「あー、やっぱりそういう方向になる可能性もあるの?」
眉をひそめるルッタにオーエンが頷く。
「あるな。天領が四つ襲われて、ランクS飛獣を作ろうとしたってのは許されざることだ。だが、所詮は対岸の火事。外から見れば飛獣被害で墜ちた天領のひとつと大差ないと考えるだろうさ」
「それよりもアルティメット研究会が八天領に加われば人類のさらなる繁栄が期待できる。問題があるなら交渉で対応すればいい……なんて考える天領は多いだろう。いや、多いというよりは大多数がそうだろうな。相手の持っているカードがデカすぎる」
「じゃあさ。ヴァークレイ天領を墜とした罪も帳消しってこと?」
「感情の問題ならスケープゴートを用意してそいつに責任をなすりつければいいだけのことだ。それこそヒムラの単独犯に仕立て上げたりな」
何しろルッタたちの知る限り、アルティメット研究会として旧人類の抹殺などと口にしたのはヒムラだけなのだ。どの道、伝達手段の乏しいこの世界での情報操作など容易いこと。
「ザイゼンさんは納得しなさそうだよね。ああいう連中からならプラントを押収しちゃうって手段は取れないの?」
「俺らもよくは知らないが、すでに稼働しているとすれば、恐らく使用者との誓約が発生している。破壊は可能でも奪うのは無理だろうな。プラントを生かすなら最終的には交渉してあちらを受け入れるしかない」
「つまり……」
ギアが苦々しく、こう口にした。
「アルティメット研究会は人類の希望である八天領……いや、九天領の一角になり得る可能性があるってことだ。ムカつく話だがな」
え? プラントを奪う手段?
そいつなら前話で飯食ってたよ。
そりゃ狙われるよね。




