005 オーバーエッジ
大牙剣。
それは黒牙剣と白牙剣のふたつが組み合わさることで大剣となり、刃として構成されている白と黒の竜牙が回転することでチェーンソーモードへと変形するという、男の子の夢が詰まった浪漫武器だ。
二秒以下の発動を三回しか発生させられないという縛りはあるものの、その威力は計八十本の牙それぞれから発せられる高出力の魔力刃を次々と当てていくという力技により、ランクA飛獣でも容易に斬り裂くことが可能である。
しかし、それはクィーンビー戦において想定外の動きを見せた。あの戦いではチェンソーモード時にガルダ・スティングレーと同じ『緑光の放電』を放ったのだ。
また、今回の戦いではクィーンビーから噴き出ていた紅の炎も混じっていた。
何故にそのようなイレギュラーが発生したのか……と戦闘後にルッタは疑問に思っていたのだが、その理由は調べれば呆気なく判明していた。
「三十本ある白牙の一部がランクA飛獣の能力を取り込んで昇華した……ねぇ。確かに魔獣素材の装備は成長することがあるとはいうけど」
シーリスが眉をひそめながら、そう口にする。
ハンターといえど、魔獣素材の装備にまつわる話を聞くことはあっても見ることは少ない。
実際、以前に出会ったナッシュの機体ノーバックの魔獣製の装甲も試合以外では使用されないし、大牙剣も消耗の大きな可変用パーツなどはあらかじめ予備を多く積んでいて、それはルッタの稼ぎによって維持されていた。
機体も武器も消耗品であるアーマーダイバーではワンオフの装備は贅沢品の類で、維持費がバカにならないのだ。
「調べた結果、緑竜の牙が五本、赤竜の牙が八本できてたよ。まあ元々黒竜の牙に昇華処理できていたわけで、白牙も昇華直前の状態ではあったんだから不思議ではないんだけどさ」
大牙剣の刃は八十本の竜の牙で構成されており、五十本は昇華処理で黒牙にランクをあげたものだ。残り三十本は量産機では出力が出せないという理由で処理しなかっただけで、何かのきっかけがあれば昇華する可能性は十分にあった。そのきっかけがガルダ・スティングレーとクィーンビーとの戦いだったのだろうとルッタは理解している。
「ただシャーク・ホットスプリングを仕留めても反応はなかったから、ランクAクラスを仕留めないと昇華はしなさそうかな」
「贅沢過ぎるだろ」
「グルメなんだよ」
そう言ってルッタは肩をすくめた。
「ふーん。それで使ってみた感じはどうだったのさ? 強い?」
「まあね。放電や炎が出ている分、魔力刃の範囲も広がってるし、あと威力も上がってる……かな。多分」
「多分?」
「元々ランクA飛獣でも切り裂けてたからね。オーバーキル過ぎて分かんないよ」
「あー、なるほど」
ただでさえ強力過ぎる武器だったのだ。現時点において切れ味が増そうが、甲殻も持たないシャーク・ホットスプリング相手ではさほどの違いはなかった。
「それにテストしても緑光の放電は出なかったしね。アレは多分斬った飛獣の魔力を吸収して、それを変換して放ってるっぽいんだよねぇ」
「だから実戦でなければ発動しない……か」
「うん、そうだね。戦闘後は、溜めた分は蒸発? しちゃうから持ち越せないし」
「飛獣の血を啜って力を貯める武器かい。ますますおっかなくなったねぇ」
「まあ、元々ブルーバレットだと出力が足りないから昇華させずに白牙も残してたわけだからね。エネルギーを別口で用意してくれるならブルーバレットでもこのまま使い続けられるし、ちょうど良かったよ。ただ」
「……ただ?」
「まるでこっちの意図を汲んでるみたいでちょっと怖いよね?」
「アレはルッタを主人と認めているから……考慮してるんだと思う」
ルッタの言葉に対して、ペペロンチーノを巻き取ってモリモリ食べながらリリがそう口にする。
「うーん、そうなのかな? ねえシーリス姉。リリ姉の言葉を疑うわけじゃないけど、そういうことって実際にあるの?」
その問いにシーリスは少し考え込みながらも頷いた。
「そうだねぇ。実例が多いわけじゃあないけど、そういう話を聞くことはあるね。どちらかというとアーマーダイバーではなく、人間用の装備に寄るけど。確か、魔獣使いに近い感覚らしいって話だったような」
「へー」
魔獣使いは、竜雲海では小型飛獣を用いた連絡係として、島上では使役した魔獣で畜産業や警備などを行う職業だ。
対飛獣戦で直接的な戦闘を行うことは少ないが、斥候などでは重宝されているとルッタは聞いていた。
とはいえ、天領の正式な領民ではなかった港町暮らしのルッタは職業持ちと出会うことは少なく、魔獣使いもこれまでに見たことはない。
(まあ、いずれアレと戦うことを考えれば強化されるのは悪いことではないよね。問題はランクB程度だと食べてくれないっぽいことだけだけど)
そしてそんなことをルッタが考えていると整備班長のオーエンが食堂に入ってきた。
「おうルッタ。そろそろ飯食い終わったか?」
「ああ、うん。もう終わってるよオーエンさん」
すでに食後で、まだ食べているのはリリだけであった。
「ルッタ、また整備?」
「いんや、デュアルセイヴァーで分かったことの報告を艦長にするだけだね」
「へぇ。なんか分かったのかい?」
「うーん。やっぱり機導核が二つ使われてたってのと、相互干渉を防ぐ特殊素材を使ってたっぽいってことぐらいかなぁ。制御方法は不明だし、今すぐ流用できるようなものはなかったよ」
「じゃあすぐにパワーアップってわけにもいかないか」
「だねぇ。干渉を防ぐ素材が判明したら色々と面白いことはできそうなんだけどさ。それじゃあシーリス姉、リリ姉。行ってくるね」
そういってシーリスとラーメンをズルズルすすっているリリに断ってから、ルッタはオーエンと共に食堂を出て艦長室へと向かい始めた。そして食堂を少し出たあたりでルッタが口を開く。
「やっぱり、アレは話すのは不味いよね?」
「ああ、整備班にも全員口止めしといた。あと話すのは艦長までで止めといた方がいいだろうよ。無用な混乱はさせたくねえ」
通路を歩きながらオーエンがそう返す。
言葉を交わすふたりの表情は明るくなかった。
デュアルセイヴァーを調べた結果、機体性能についてはルッタが述べた通り程度のことしか分かっていない。
けれども、それとは別の、もっと危険な可能性に彼らは気づいてしまった。
それはとてもではないが一クランだけで抱えられるようなものではなく、このアーマン大陸全体をも揺るがしかねない恐るべき可能性だった。そう、それは……




