004 喰らう牙
ルッタ単独によるシャーク・ホットスプリングの群れの討伐は危なげなく完了した。
ルッタの使用したのは魔弾筒の重弾で、貫通した穴は大きいが、挽肉と化す散弾に比べればマシで素材も形を残して確保ができていた。
そしてスプリッターシャークも、シャーク・ホットスプリングも回収できるものはすべて回収し終えたルッタは、素材整理やデュアルセイヴァーの解析を終えた後にシーリスやリリと共に夕食を摂っていたのである。
「ルッタ。アンタってやつはランクBを楽勝でやっちまいやがって。もうアンタにゃあのクラスじゃあ物足りないってか」
「そんなことないよシーリス姉。今回は相性の問題が大きかったよ。量産機だとカウンター狙いじゃないと一撃で仕留めるのは難しいし、あーいう突撃しかしないノーキン相手の方が俺はやり易いんだよね」
「突撃しかないって……あいつら、浮かんでる水の中を転移して襲ってくるじゃないのさ」
ルッタの反論にシーリスが眉をひそめる。シャーク・ホットスプリングの厄介なところは戦場内に移動の阻害となる高温水の塊が無数に浮かび、さらには距離が離れていてもその中を転移して縦横無尽に視覚外から襲いかかる戦術にあった。
けれどもルッタは首を横に振る。
「俺も魔力が視えるようになったからね。周囲はすべて警戒しているし、出がかりはすぐに分かるよ」
「それが分かるのあんたぐらいなもんでしょ」
視えるからといって避けられるなら苦労はしない。今のルッタは三百六十度に目があるようだとシーリスは感じた。
「リリだってできる!」
「あー、そりゃそうかもね」
ロブスタリアのボイル焼きを頬張りながら言うリリにシーリスが肩をすくめて頷く。実際、リリには可能なのだろう。彼女の場合、本当にスペシャルなのはオリジンダイバーという機体よりも当人の性能の方なのだ。
「あとはルッタが単純に成長したというのもあるかな」
「そう?」
首を傾げるルッタにマッシュポテトをもりもりと食べているリリが頷く。
「以前のルッタは、速度を目で追いきれずともタイミングを測って対応してた。今はルッタ自身の反応が速いから、タイミングの取り方がスムーズになってる」
「なるほど。確かにそういう感覚はあるかな。単純に慣れなのかと思ってた」
「それもある」
「まあ、だよね」
「でも多分、無意識化で身体強化が働いてるのが大きい」
「そうなの?」
驚くルッタにリリがアスパラガスのベーコン巻きにマヨネーズをつけてモリモリ食べながら頷く。
魔力がある世界なので、魔力を用いて肉体的な強化も可能ではある。そもそもアーマーダイバーがない時代の人間は生身で飛獣と戦い、天領を維持していたのだ。
そうした戦士の一族が島を維持する独立した天領もわずかには存在するし、この大陸の外ではそれが普通で、リリ自身も武器があれば生身で飛獣を倒すことは可能だ。もっともリリ単独で空は飛べないし、オリジンダイバーとは戦闘効率が違いすぎるのでやらないが。
「戦いで必要な目とか、負荷の多いとき、体を支えるときにわずかに発動している。アンが計測したから間違いない」
「となると鍛えれば意識的にやれて、素手で飛獣とかと戦えたりする?」
少しだけ期待した目でルッタは尋ねたが、リリは首を横に振った。
「ルッタの魔力は多くないし、資質は平均。意識的にできても本当にわずか」
「そうなんだ。ま、そりゃそうか」
ルッタはアーマーダイバーも量産機にギリギリ乗れる程度の魔力しかない。リリの言う無意識的な強化率も大したものではないのだ。
「でも、そのわずかな差が乗り手にとっては大きな差になる。そっちの方面を鍛えるのは悪いことじゃない」
「ルッタは今が成長期だからねぇ。貴族様ほどじゃなくても、魔力だって増える。何かしらの足しにはなるだろうさ」
「なるほどなー」
そう言いながらルッタが強く頷いた。
アーマーダイバーに限らず人型の機械は人間の性能を増幅することを目的とした道具だ。それで非力な子供であるルッタがドラゴンを殺せるのだから、ルッタから発せられるのがわずかな力であろうと、それが増幅されれば大きな力になり得る。
「ところでさ、ルッタ。成長で思い出したんだけど大牙剣……アレ、やっぱり『成長』してるんだね?」
話題を変えてきたシーリスの問いにルッタが「まあね」と言って頷いた。それはクィーンビー戦で起きたイレギュラーに端を発していた。また先ほども同じイレギュラーが発生したのも確認できた。となれば、もはや偶然や見間違いではないだろうことは明白だった。
「クィーンビー戦では緑光の放電が起きて、今回はソレに加えて紅の炎が噴き上がった」
先ほど見た光景を思い出しながらルッタは頷く。そしてこう告げた。
「多分大牙剣はガルダスティングレーとクィーンビーの力を吸収しているね」




