002 鮫狩りリターンズ
「うーー、私も出たいのに」
「フレーヌは今は出さない。そう決めたでしょ。諦めなリリ」
ルッタがガレージに入ると、そこにはブスッとした顔のリリと肩をすくめるシーリスがいた。
ジェットの姿はその場にいないが、彼は元々当番で周囲警戒に当たっていたので、すでに出撃中であった。
「シーリス姉、リリ姉どうしたの?」
「自分も出るんだってグズってる」
「私だけ仲間はずれ。悲しいよルッタ」
しょんぼり風味なリリの言葉に、ルッタもシーリスと同じ顔になって首を横に振った。
「そこはしょうがないじゃん。リリ姉は前回、無理してフレーヌを壊しちゃったんだからさ」
「ぐぬぬ」
リリの愛機であるオリジンダイバー『フレーヌ』は整備ドローンによる修理を急ピッチで行っているが、未だ完調とはいかない状態だ。すべてはアンカース天領奪還の際、クィーンビー戦においてリリがフレーヌに無理をさせ過ぎたためであった。
(結局、あの二度目のブーステッドでフレーヌの中身の回路が随分と焼き切れたらしいし、アーマーダイバーならもう乗り換えするしかないって有り様だったって話だからなぁ。それでもう動けるところまで治ってるんだから、さすがはオリジンダイバーっていうところなんだろうけど)
フレーヌの損傷は整備ドローンによる自動修復能力でも時間はかかるらしく、とりあえず再び戦闘可能なまでには動くようになっているものの、今は無理をしないようにということでリリには待機が指示されていた。何しろ、現在の彼らの敵は飛獣だけではないのだ。
「リリ姉。今はゴーラ武天領軍が動いてるんだからさ。何かあった時に戦えないと困るでしょ」
「うーー」
現状の一番の問題はそれだ。
ここまでで得た情報により、次の目的地であるシェーロ大天領までの間でゴーラ武天領軍とカチ合う可能性はかなり高いと予想されていた。そんなときに最大戦力が動けない……なんてわけにはいかないので、まだ完調ではないフレーヌを動かすわけには行かなかったのである。
「そんなわけだルッタ。ジェットの旦那はいつも通りに船を護るが、リリは出せない。あたしのレッドアラームも調整中でね。甲板の上でのサポートに徹しさせてもらうよ。できるね?」
「問題ないよ。前回の戦いじゃあふたりには頑張ってもらったからね」
そのやり取りの通り、アンカース天領の防衛部隊も損耗は激しく、レッドアラームもツェットも今は修理後の慣らしの段階だ。つまるところ、現状で万全の機体はブルーバレットだけであった。
「まったく、一番の前線で戦ってたブルーバレットが最も消耗が少ないってんだからね」
「大したもんでしょ」
「大したもんさ。ブルーバレットもお前もね」
素直な賞賛にルッタが微笑み、それからリリを宥めながらブルーバレットの中へと乗り込む。
『ルッタ、今日はお前の独壇場だ。無理をするなとは言わん。言わんでもしないし、最大の成果を上げて帰ってくると信じているぞ』
「うーん。プレッシャーをかけてくるね艦長」
『ふん、期待しているってことだ。甘んじて受け入れるんだな』
「了解!」
この風の機師団にはリリがいる。だから彼女とフレーヌが最大戦力というのは変わらない。
けれどもここまでの旅路で積み上げた実績が、ルッタがリリと並ぶ存在であることを証明している。
すなわちエースと。もはやルッタはリリと共に風の機師団のダブルエースであるとタイフーン号のクルーの誰もが認めるところであった。ギアの言葉はその証左だ。
(怪我もしてらんないね。まったく)
そのプレッシャーを良い意味で受け止めながらルッタはアームグリップを握り、フットペダルに足を置いた。座席の首裏に設置された感応石を通して己が機械の体と一体化する感覚を得ながら、ルッタの思考が戦闘モードに切り替わり始める。
「そんじゃあ相棒。行こう」
そして青と黒の竜騎兵が動き出す。
「やり残していた宿題だ。きっちりと片付けておこうじゃあないか」
迫り来る飛獣は『シャーク・ホットスプリング』。超高温水と次元跳躍を行う、極めて危険なランクB飛獣だ。そしてそれをソロで討伐することで『鮫殺し』のふたつ名を正しい形に上書きする。それこそが今回のルッタのミッションなのであった。
温泉シャークはまだ見てねえんですよね。




