066 拳に誓って
「ふーん、まあともかく出港はできるってことだよね。それでラインさん、復旧船団の人と話したってことだけど、この天領の扱いをどうするのかは決まったの?」
ルッタがそう切り出した。現在のアンカース天領はハンターたちがひとまず維持させているに過ぎず、その後の復興についてはジナン大天領からの人員によって行われることになる。自分たちがいなくなった後のことについてルッタが気になるのは当然のことではあるだろう。
「そうだね。まず領主一族はまだジアード大天領で健在だから彼らが戻ってきて治めることになるね」
「へぇ。ラインさんがってわけじゃないんだ」
ラインは大天領の元上級貴族という話だし、今作戦の司令官で、天領を持つことを望んでいるとも聞いている。またアンカース天領の領主一族は真っ先に逃げ出したために領民の求心力は失われているとも言われていた。
であれば……とハンターたちの間ではそのままラインがアンカース天領の領主になるのではという噂があったのだが、そのつもりはラインにはないようだった。
「実のところ、そういう話は出立前にもらってはいたのだけれど断ったよ。私は私だけの天領が欲しいんだ。これ見よがしに餌を見せられて動くのも好きではないし、ここだと柵が多過ぎる。負債もね」
そう言ってラインが苦笑する。
実際彼がこの島を治めるという選択も用意されていたが、それは島を救った英雄という求心力を領主一族が欲していたためだ。受ければラインは一族の娘と婚姻し、領主の一族に加わることになる。それでは己の力で領主への道を切り拓こうと故郷を出てきたラインの目的にはそぐわない。ラインもまた夢追い人だ。彼は望んだものを望んだように手に入れたいと考えていた。
「それと脱出した領民だけではなく、沈んだヴァークレイ天領の流民も受け入れるらしいね。今は救助されている途中か、ジナン大天領などで難民生活を送っているはずだけど、用意が整えばここにやってくるだろうね」
「ああ、そうなるよね。やっぱり」
「ふむ。何かあるのかいルッタ少年?」
このアンカース天領の領民も相当数が犠牲になっている。であれば元ヴァークレイ天領の領民を新たに招き入れることは流れ的にも予想はつくことだ。そしてラインは目の前の少年が何か目的があってそのような話題を振ってきたのだと察した。
「実はね。マガリさんってアーマーダイバー乗りがヴァークレイの難民と一緒に来ると思うんだよね」
「マガリ? その人物は君の知り合いかい?」
「うん。ウチの元クルー。ヴァークレイに家族がいたから船を降りて助けにいったんだ。乗り手としてはランクE程度だけど、整備の方は……ウチで働いてたし、ランクCクラン辺りならメインだって張れると思うよ」
その言葉にラインが目を細める。
元風の機師団で腕も保証されている整備士。家族のために船を降りたのであれば、黄金の夜明けに引き抜くのは無理でもこの天領にとっては有用になる人材だろうとラインは考え、またルッタもラインがそう考えてくれることでマガリの助けになれればと話を振っていた。
「そうかい。使える人材は多い方がいいからね。マガリくんの名前は覚えておこう」
「うん。よろしく」
そのやり取りにギアたちが何も口出ししてこないことから、問題はないのだろうとルッタが考えていると、続けてイシカワが声をかけてきた。
「おうルッタ。そんじゃあここでお別れだけどよ。次に会うときはヘヴラト聖天領でだな」
「そだね。イシカワさん、試合で当たったら容赦はしないからね」
そう返すもののルッタとしてはイシカワを相手にするのは現状のままでは厳しいと感じていた。
(竜雲海上でなら十中八九『まだ』負けはしないだろうけどなぁ)
模擬戦でも話していた通り、イシカワが機体性能を七割ではなく十割発揮できるようになるのであればまだしも、現状では隙をついて倒せる自信がルッタにはある。
しかしそれは竜雲海上でのこと。地に足をつけて機動力が殺される闘技場では、あのブースターお化けのトッツキマシンに勝つのは容易ではない。オマケに今回でルッタの戦い方は知られ、さらにイシカワは盾を手に入れたことで隙がさらになくなっている。そのため、今のルッタはイシカワと闘技場で戦った場合の勝ちの目がまだ見えないでいた。
(けれども、だからこそ面白いんだよね)
ここまで何度か死にかけてきたが、それは相手の力量よりも己自身の、特に肉体面の未熟さが主な原因であった。だからこそルッタは望んでいる。本気で戦える相手を。勝ち目の見えない強敵を。
「じゃあなルッタ。クロスギアーズで会おう」
「うん。次に会うときはクロスギアーズの闘技場で」
クロスギアーズ。それはアーマーダイバー乗りにとっての憧れの、最強の剣闘士を決めるための舞台。そしてふたりは拳を突き合わせ、彼の地で再び再会し、戦い合うことを誓うのであった。
現在のブルーバレットではヘッジホッグに勝つのはかなり厳しい。だから大会で勝ち上がるには機体のビルドを見直す必要があるんですね。今章は残り一話!




