063 戦士の休息
「ラインさん!」
制御室の中から疲れた顔をしているラインが「やあルッタ少年」と言って手を挙げる。
「見回りご苦労様。通信での報告は受けていたけど問題はなさそうだね」
「まあね。話した通り、幼虫とサナギ含めて反応があるのは全部潰したよ。色々とキッツイのがあるけどね。あっちは壊して良いか分かんないから放置してある」
「ああ、だから虫系は嫌なんだ。後で火葬するにしても地下で燃やすのは不味いからね」
うんざりした表情のルッタとラインの様子に「何? 何?」と好奇心が湧き上がるイシカワだったが、その後に実物のゴアパックを地上まで運送して火葬する作業に参加させられ、現実を知ることとなる。無論イシカワは吐いた。
「ラインさん、リリ姉は中?」
「ああ、彼女も今は眠ってるよ。機体共々随分と無理をしたようだからね」
「ブーステッドだったっけ? アレってそんなにキツいの?」
「乗り手の負担はあるけど、慣れてないのに無茶をし過ぎたのが一番の要因かな。いくらオリジネーターとはいえ、最後の発動は無理やり搾り出したようなものだから。アレがトドメになったみたいだ」
「えーと。大丈夫なの、それ?」
基本的にリリはどんな時でも飄々としている。それは自然体であることが自身のスペックを最大限に発揮できるから……という話であったが、先ほどの戦闘後のリリはそれを取り繕うこともできないほどに消耗していた。
「魔力切れってだけだから、休めば元に戻るよ。ウチのアベルもカインの治癒魔術でひとまずは落ち着いた。そのカインも魔力切れで気絶してはいるけど」
「カインさん、そういうこともできるんだ」
「まあね。私の従者だからね」
誇らしそうにラインが言う。
カインが治癒魔術を使える。それが彼らの一族であるアルトマン家が、アベルも含めてラインの従者に選ばれた経緯でもあった。
「それでライン団長。あんたが部屋から出てきたってことは一通りケリが付いたってことで良いんだよな?」
「そうだね。地上の方もそれなりに被害は出ていたようだけど一先ずケリはついた。ああ、タイフーン号は無事だよルッタ少年」
被害もあると聞いて、わずかばかり不安な表情になったルッタがホッとした顔をする。
クィーンビーとの戦闘後、すぐにルッタは地上に戻ることを提案したのだが、制御室が使えるようになって地上とも有線経由で繋がるようになったので連絡を入れたところ、ギアから「問題ないのでそちらの仕事を進めてくれ」との返答があったのだ。その時点では地上は壊滅していないということぐらいしか分からなかったので、ここでルッタもようやくひと安心できたというわけだった。
「クィーンビーを討伐した辺りで、地上の飛獣たちは統制が取れなくなって、瓦解したようだからね。まあ彼らは魔力のパスで繋がったクィーンビーの眷属たちだ。後は闘争本能だけで挑んでくる個体を中心に掃討に入って、今は落ち着いたとギア団長から報告を受けたよ」
「ハァ、それを聞けてようやく安心できたよラインさん」
「すまないね。緊張の糸が切れそうだからとギア団長からは落ち着くまでは話すのを止められていたんだ」
クィーンビーという本命は仕留めたが、突入部隊はほとんどが満身創痍。動けるのはルッタとラインのみ。それを聞いたギアはルッタの負担を考え、防衛部隊への救援を止めさせ、ひと通りのカタがつくまでは情報を止めておくことにしていたのだ。
「過保護過ぎない?」
「過ぎないよ。ただでさえ君に任せ過ぎて大人は不甲斐ない想いをしてるんだ。与えられた仕事ぐらいは全うしたいと考えるのは普通だよ」
ラインが苦笑してそう返す。
「ふーん。まあ良いけど。それで、この天領の方は大丈夫だったの?」
「そちらもなんとか。クィーンビーに魔力を吸い上げられていた分、本調子とは言い難いけどね。それでもちゃんと操作はできたし今は少しずつ浮上し始めている。後半日もすれば、以前と同じ高度にまで戻っているはずだ」
その言葉にはルッタもイシカワも安堵した。
竜雲海に潜ったままでは、蜂たちを追い払えてもまたすぐに別の飛獣に住みつかれてしまうだろう。天導核の状態次第では上昇もできずに、結局はこのまま沈めるしかない可能性もあった。
「本当に良かったよ。それにしても今回の件、ルッタ少年やイシカワ、君たちには本当に助けられた。正直に言って当初予定していた参加クランだけでは対処は不可能だっただろうからね。いや、間違いなく全滅していただろう」
ラインは戦力が足りなければ作戦中止を……とは以前に言っていたが、緊急依頼なのだから実際に取り下げられていたかは怪しい。そうなればハンター軍団は全滅していた可能性も否定はできない。それだけの戦力がヒムラの側にはあった。
「役に立てたのなら何よりかな。報酬はあの二基搭載型のフレームと武器を希望するよ」
「アレ欲しいのか? 燃え滓だぞルッタ」
「そうだけど、構造を解析すれば可能性はあるかもだし。後はあの全自動式魔導散弾銃も欲しいんだよね」
主張するところは主張するルッタであった。
下手に遠慮するよりもブルーバレットの強化の方が大事なのだ。それに今回の貢献度から考えればラインも否とは言えない。
「ふーむ。魔導散弾銃は問題はないが……あの機体はな。まあ要望にすべて応えられるかは相談になるが、叶うように話は進めてみるよ」
ラインの返答にルッタがよっしゃと拳を握りしめる。
「なあルッタ。アレ……全自動魔導散弾銃って量産機で扱えるか?」
「うーん。多分? ガトリングガンは魔力コストはかからないにしてもチェーンソーモードで魔鋼砲弾は常に三発キープ状態だからね」
牙剣はバックパックウェポンとほぼ変わらない魔力コストを必要としているために、ガトリングガンで浮いたバックパックウェポン分の魔力コストは埋められている。
「今装備させてもドラムマガジンの総弾数二十発の内、半分くらいかなぁ……召喚弾で顕現できるのは。それでも連射できる利点はあるから、もしくは普段は普通の魔導剣装備で行く? むむむ」
「まあ、そう言うことは後で考えれば良いさ。それで……だね」
そう言ってからラインが目を細めて申し訳なさそうな顔でルッタたちを見た。
「こんなことを一番活躍した君たちに頼むのは非常に心苦しいんだが……お願いしていいかい?」
「うん? いいけど」
「なんだよ?」
話している途中でラインはゆっくりと座り込んで、それから制御室の壁にもたれかかって目を閉じ始める。
「実は私も限界で……ちょっと……眠るんで、後……頼んだよ」
そして疲れ果てた顔でその場でカックリと眠り始めたのであった。その様子にルッタとイシカワが肩をすくめて笑う。
「しゃーねーな。俺らは俺らで反省会でもすっか?」
「そだね。今回は色々と考えることも多かったし」
そしてルッタとイシカワが周囲の警戒はしつつではあるが、デュアルセイヴァー戦やクィーンビー戦での反省会を始めた。
そうやって貪欲に、どこまでも余さず己の力に変えようとする姿勢こそがふたりが強者たる所以なのかもしれない。
島喰らいの章はあとちょっとだけ続くんじゃよ。
次回、イシカワの洒落にならない事実が明らかになります。




