061 家族という命より重いもの
『ジャイアントキルウェポン……ルッタ少年はそんな隠し玉まで持っていたのか』
クィーンビーの最期はラインたちのいた場所からでも確認ができていた。
そして現在の彼らの視線はクィーンビーを葬ったルッタの持つ大牙剣チェーンソーモードに向けられている。それは通常の魔導剣の二倍はある大剣で、普通に考えれば長さの分、必要な出力も増えているはずで、量産機であるブルーバレットでは本来扱えないであろう兵装だ。けれどもルッタの一撃はランクSに届こうという飛獣をも屠っていた。そのことに疑問を覚えたイシカワが、何か知っているようであるラインへと視線を向ける。
ちなみに「何も……なんだって? なぁヒムラさんよぉ?」とかドヤっていたのはただのハッタリなので、イシカワも普通に驚いていた。
「じゃいあ? ライン団長、なんだよそりゃ?」
『イシカワは……そうだったな。君は一応新人だった。ならば知らないということもあるか。ジャイアントキルウェポンというのはランクB以上の飛獣を仕留めることを目的としたアーマーダイバー用兵装のことだ』
「へぇ。そういうカテゴリーの武器もあんのか。俺も欲しいな」
『君のパイルバンカー四連は十分それに匹敵するとは思うけどね』
「かもしんねえ。けど俺も欲しい!」
理屈ではないのだ。浪漫がそこには詰まっている。憧れは誰にも止められないのだ。
その様子にラインは苦笑しつつも『そうかい』と返した。
『あの手の武装はあまり効率は良くないし、ギリギリまでチューンナップするから使用制限も厳しい。そもそもランクB以上なんて早々やり合わないうえに、戦うことはあっても雲海船の武装と絡めて数と火力で押して倒すのが普通だからね。まあ、必要性が薄いからあの手のは基本オーダーメイドになるよ』
「うーん」
『選択するのは君だ。止めはしないが、作って一度も使用せずに置物になる……なんてことはザラなのでそういう覚悟はしておいた方がいいかもしれない』
「なーるほどねぇ。言いたいことは分かったよ。今は他に欲しいものもあるしおいおい考えてみるさ」
その言葉にラインの眉がピクリと動いた。
目の前にいる最強クラスのオールドルーキーが欲するもの、それがなんなのかに興味が出たのだ。
『ちなみにその欲しいものというのは何かな?』
「ん、盾だよ。盾」
けれども帰ってきたのは至極真っ当な返答だった。
ここまでは飛獣メインの戦闘だったイシカワもあの二丁散弾銃を前に苦戦した経験から己の機体のビルドを再考し始めたのである。そして、この選択は後のクロスギアーズにおいてルッタたち対戦相手を苦しませる大きな要因の一つとなるのであった。
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「あーあ、僕の負けか」
イシカワとラインが大牙剣等の話をしている間、四肢を破壊されて捕縛されたデュアルセイヴァーの中でヒムラがそんなことをぼやいていた。
己の機体はもう動かず、心臓室内に用意していた戦力であるポーンビーもナイトビーもクィーンビーもすべて死んでしまった。
今頃、島上ではクィーンビーとの魔力パスが切れたキリングビーたちが大混乱となっていることだろう。群れとして統制の取れた行動はもうできないし、このまま制御を取り戻された島の高度が元に戻ってしまえば完全に詰みだ。飛ぶことに特化した飛獣は竜雲海の外では著しく弱体化する。この天領は確実に取り返されてしまうだろう。
もっとも、それはヒムラにとってはもう『どうでも良い話』であった。
(まあ、結果は出たしねぇ。クィーンビーはランクS飛獣としては不適格。求めていたのは個の強さ。アレは違う)
ヒムラもクィーンビーの進化状況を確認している過程で、ある程度の結論は出していた。
ランクSに至ったクィーンビーは確かに強いだろう。それはそれで有効活用できるし、至れたのであれば使うつもりではあった。けれども、ランクSの彼女ができることの多くはランクAのままのクィーンビーを複数体用意することでも十分に事足りる。
(もっとも群れを兵隊として運用することを考えれば合格ライン。というよりは他の候補よりも上だろうね。だから半分勝って半分負けたというところかなぁ)
ランクAまでならば自分たちだけで育てることはできる。クィーンビーはランクSに無理に育てるよりもランクAのまま複数揃えて運用する方が適切だろうとヒムラは考えていた。
(ルッタくんとイシカワさんのアドバイスも添えて送れたし、僕の役割は果たした。何も問題はない)
また、つい先ほど今回の結果報告を添えた飛獣をヒムラは外に送り出している。
それは通常の蜂と同程度のサイズの飛獣であるためにこの場の誰にも気付かれてはいない。
必要なのは結果だ。それさえ、届けられれば最低限の役割は果たせただろうと。
「あとは後始末だけか。はは、それだけは残念だよ、まったくね」
そう言って億劫そうにヒムラがコックピットから外に出ると、フライヤーの上に立って彼に向かって魔弾銃を構えているザイゼンの姿が見えた。
またポルックスはニンジャと共にこの場から離れているが、シトロニエとヘッジホッグは何が起きても良いようにデュアルセイヴァーを囲む形で構えている。逃げ出すことはできそうもない。
「やあ財前さん。こうして顔を合わせて話すのは久しぶりだね」
「そうだな。だからこそこんな形で再会するのはとても残念だよ」
ザイゼンの表情は硬い。ヒムラの様子は不気味なほどに落ち着いている。
それは敗北を感じている者の雰囲気ではないとザイゼンは感じ取っていた。
「そうだね。それで、僕を捕まえるのかい?」
「ああ、アレから五年も経ったんだ。お互い聞きたいこと、話したいこと……積もり積もった話がたくさんあるだろう? あれから君に何があったのか、私は非常に興味があってね。どうやら妻たちも世話になっているようだしね」
「うん。まあ、そうなるよね」
諦めた顔で日村が肩をすくめる。
「けど、悪いね財前さん。僕は僕の家族を危険に晒すつもりはないんだ。だから期待には応えられないと思う」
その言葉にザイゼンは「ああ、分かってる」と返した。
「洗脳されてるお前がそう返すことは分かっているさ。だから残念だ。すまないが容赦はできない。お前にはセレナの……妻のことを、子供のことを、お前の組織のことを洗いざらい話してもらわないといけない」
今すぐにでも飛びかかって、口を割らせたい。そんな想いがザイゼンの中で湧き上がる。
愛した女の顔と、まだ見たことのないはずの子供の顔が脳裏にちらついている。
だから、どんなことをしてでも絶対に喋らせると……そう意気込むザイゼンの前でヒムラは魔弾銃を取り出した。
「ヒムラ!?」
それを見てザイゼンがトリガーにかけた指の力を強めるが、ヒムラは迷わず手に持つソレの銃口を白いミトラを被った己の頭部へと向けた。
「財前さん、僕はここまでだ」
「ハッタリだ。お前にそんなことができるものか」
ザイゼンは知っている。このヒムラという男はかつて誘拐されてからずっと泣き続けていた。
何かあるたびに怯え、助けを求めて、すぐに連中に従順となって監禁室から出ていった。だからザイゼンは彼を連れて逃げることができなかった。そんな臆病で、恐怖と暴力に屈するのがヒムラという男だ。平和な世界に生きていた日本人だ。それがザイゼンの知っているヒムラだ。人間の性根はそう変わるものではないと……けれどもザイゼンの本能はそれは違うとも感じていた。
『待てザイゼン殿。違う。やる気だ。そいつは』
そこにシトロニエの中にいるラインが慌ててそう声を上げる。彼の特異な観察眼はザイゼン以上にヒムラの本気を感じ取っていた。その言葉にザイゼンの頬を冷や汗が伝い、銃口を外して一歩踏み出しながら、その手を伸ばす。
「止めろヒムラ。お前はッ」
「それじゃあね財前さん。未来で君も家族になって」
その言葉はただただ本心からのもの。そして心の底から家族と呼べる者たちの未来と、
「ロシエルくんと共に歩んでくれることを祈っているよ」
ザイゼンの幸せを祈りながら、ヒムラは笑って自分の頭部を撃ち抜いた。




