060 蒼い弾丸は緑光に染まる
「クッ、あぁあああ!?」
その強烈な一撃に苦痛の声を上げながらもルッタはアームグリップを手放さない。
衝撃の中で咄嗟にフットペダルを踏み込んで勢いを殺し、空中で二回転した後にフライフェザーを羽ばたかせて体勢を整えた。
「ヤッバ。速かった」
ルッタが冷や汗をかきながらそう呟く。恐らく今の一撃はルッタがアーマーダイバーに乗ってからここまで受けた攻撃の中で最速のものだった。
「反撃のタイミングもとれなかったよ。クソッ」
その罵声は己に対してのもの。何しろ大牙剣を盾にして相手の攻撃を受けていなければ大破していた可能性すらある強烈なタックルをブルーバレットは喰らったのだ。油断していたつもりはなかったが、クィーンビーの変化に対応しきれなかった己の脆弱さをルッタは恥じた。
『ルッタ!』
「大丈夫だよ。問題ない」
リリの声にルッタはそう返してフットペダルを踏んでブルーバレットを加速させる。タックルを受けた負荷で体が悲鳴を上げているが、相手はこちらを死に体と認識してすでに狙いを定めてきている。
(速度は『覚えた』。二度目なら)
そして再びクィーンビーが真っ向から突撃していく。
「うおおおりゃッ」
ジャッキー流剣術『竜狩り』。
高速アタックを瞬時に躱わしながら一刀を放つその技をルッタはタイミングよくテンキーもどきを叩いて発動させ、今度こそはクィーンビーにカウンターで一撃を見舞うことには成功した。
「グッウゥウ」
しかし、それでも弾かれたのはブルーバレットの方だった。吹き飛ばされるブルーバレットの中で強烈なGを感じながらもルッタが歯を食いしばって操作を続ける。
「なんてヤツ!? 斬れはしたけど」
相手の甲殻に刃を当てることには成功した。けれども斬り裂けない。傷はつけられたが、勢いに負けて機体が跳ね飛ばされていた。
(厄介だな。キャリバーの出力ならもっと刺さるだろうけど、それでも致命傷は難しそうだ)
あの速度域の中で関節部でも狙わなければ、相手に有効なダメージを与えることは厳しいだろう。或いはかつて対峙したドラゴン相手のようにダメージを一点に蓄積させるか。
(けど、やらなきゃね。これでつまづく程度なら、どの道アイツは殺れない)
脳裏に浮かぶは幼き日の黒い影。そしてルッタが再び動こうとした時にリリから通信が入る。
『ルッタ、また来る』
「全部カウンターで……いや、なんだ?」
咄嗟の判断で迫る何かを魔導散弾銃で撃つと爆発が起きた。そして爆発する前にわずかに見えたのは丸い蜂型の飛獣だった。
「リリ姉。爆発するヤツがいた」
『うん。攻撃しながら召喚してばら撒いてるみたい』
「まあ突進だけじゃあ味気ないよね」
そう言いながらルッタが再び突撃してきたクィーンビーの攻撃を避けてカウンターで斬り付ける。やはり弾かれはするが、今度は動きを逸らすように機体を動かして衝撃を弱め、自身のダメージは最小に、相手には小さくとも確実にダメージは蓄積されるように仕掛けていく。さらに追撃のスーサイドビーを魔導散弾銃の散弾で撃って近付かれる前に爆発させた。
「リリ姉、そっちにもいった」
『大丈夫。えいっ……と。むぅ、やっぱり出力が弱い』
リリもルッタと同じようにクィーンビーをカウンターで斬り付ける。だがキャリバーの刃も甲殻を斬れはするが、斬り飛ばすほどには斬れていない。それはやはり領都上空で発動したブーステッドによって機体の出力が低下しているためであった。
「フレーヌでも刃を通しきれないか。それに傷ついた甲殻も修復してる。斬られた足を修復できないところを見る限り、中身を傷つければ再生はできない気がするけど」
とはいえ……とルッタは思う。
クィーンビーの全身を覆う炎は速すぎる動きのせいで機体に熱が伝達する前に距離が離れるから、それについてはあまり脅威ではない。またクィーンビーの甲殻はルッタたちの攻撃した箇所こそ修復してはいるものの、徐々に全体的にヒビが入っていっているのをルッタは見逃してはいなかった。
「うーん。相手も無理をしているし、このままチマチマ削ってもいけそうだけど……でもそれだと最悪逃げられるかな?」
今は怒りが支配しているせいかクィーンビーは自ら戦っているが、本来は守勢側にいる臆病なタチだ。それは現在イシカワたちが相対しているヒムラも同じようだとルッタは感じていた。
彼らがどこかで我に返って自分たちの不利を悟れば逃走の可能性はある。もっとも、それで天導核が確保できれば天領奪還という依頼自体は達成だ。
「それはそれで俺たちの勝ちではあるけど」
『ねえルッタ。リリ、早く終わりにしたいかも』
「リリ姉?」
基本的にリリは確実に、正確に仕留めることを是としているために戦闘を急かすタイプではない。
だからその要求はリリにしては珍しいことだった。
「何かあるの?」
『上がね。ちょっと気になる』
「上?」
『なんとなくだけど』
上と言って思い付くのはギアが指揮をしてタイフーン号を中心に戦い続けている領都の防衛部隊だ。
(もしかしてシーリス姉たちが危ないのか?)
リリの言葉にどことなく焦りを感じたルッタが眉をひそめ、であればどうするかと思案する前にリリが口を開いた。
『うん、決めた。リリがフォローするからルッタが仕留めて』
「リリ姉がフォロー? うん、分かったよ」
ほとんどひとりで完結しているリリがフォローを口にすることはやはり珍しい。けれども彼女がそう言ったのであれば、それは確実に実行してくれるだろうという信頼があった。
「分かった。頼んだよリリ姉」
『うん』
であれば、ルッタも与えられた己の役割を全うするだけだと頷いた。
「ギチギチギチギチッ」
『ムンッ』
そして迫るクィーンビーに対して、フレーヌがキャリバーを構えて待ち構える。
(正面から受け止める? それはさすがにフレーヌでも……いや)
任せると言ったのだ。
ルッタはクィーンビーの軌道を読み、フットペダルを踏み込んで両者と交差する地点に向かって加速していく。
「ギィィイイイ」
対してクィーンビーは太く鋭い顎を前面に向けて全身の力で貫くような形に自身を変形させていく。噛み付く形をとれば、場合によっては噛まれながら頭部に一撃を受けるかもしれない。最高速度による衝角アタックを仕掛けるつもりで突き進み……
「ギッ!?」
途中、何かに引っ掛かる感じがあった。
(アレはアンたち?)
それはいつの間にかガトリングガンを手放したアンも加わったタレットドローンのシルフたちによる妨害だった。四機が二機ずつワイヤーを繋げて十時の形でクィーンビーの軌道上に待ち構えていたのだ。
(シルフの出力じゃあ止められない。だけど、遅くはなった)
シルフたちがワイヤーと共に吹き飛んだが、クィーンビーの速度は確実に減速した。
『ありがとうみんな。フレーヌ、お前も今日ラストのお勤めだよ』
そしてリリの意思を受けてフレーヌから白銀の光が放たれる。
『ブーステッド発動』
それこそが最近までフレーヌはロックされていて扱えていなかったオリジンダイバーの特殊機能のひとつ。増大した出力によってフレーヌのルミナスフェザーが肥大化し、そこにクィーンビーが激突して両者の間に魔力光のスパークが起きた。
『ルッタ!』
「ォォオオオオオオオ!」
リリの声に反応してルッタが吠える。
大牙剣に繋がっているアームグリップのトリガーを三連続で引きながら、テイルブースターで機体をさらに加速させる。また、高速で回転する刃から放たれる魔力刃は、かつて見た緑光の放電を放ってもいた。
(これってガルダの? いや今は考えるな)
戸惑いは一瞬。回転音は咆哮の如き唸り声をあげ、突き進む姿は緑光に包まれた蒼い弾丸の如く。
「グッ、ギィ」
対してクィーンビーもその存在に気づき、己の危機を察知して動こうとするが、それを見逃すリリではない。
『うん、駄目』
フレーヌの機体から銀煙が噴き出るが、リリは構うことなくさらにフットペダルを踏み込んで逃れようとするクィーンビーの動きを封じる。そして……
「コイツで終わりだクィーン!」
放たれた緑光纏う蒼き弾丸はクィーンビーと交差し、直後に飛獣の巨大な頭部と胴体が真っ二つに斬り裂かれた。




