059 ハッチーママ激おこ案件
ギィインッ
そんな硬質な音が響き渡り、フレイムナイトビーの炎に包まれた片腕が宙を舞った。
「炎でできてるから柔いのかも……なんて思ったけど」
合体して刃渡りが倍になった大牙剣のリーチであれば、フレイムナイトビーの全身を覆う炎もブルーバレットには届かない。そう判断したルッタがフレイムナイトビーと対峙し、さっそく右腕を切り落とした。
「真っ当に硬いんだな、コイツ」
単純にフレイムナイトビーは硬かった。関節部分を全力で斬ってようやく斬り裂けるほどの硬度だ。さらに出力がオリジンダイバーに準ずるだけあって、パワーもスピードも並ではない。またその後に斬られたはずの右腕が炎となって再び生えるほどの再生力も持っているのだから強敵だった。
「やっぱり部分的でも治されちゃうんだなー」
『これ、なかなか手間だよルッタ』
ブルーバレットとフレーヌが並走しながら、そんな言葉を交わす。アンを除いた三機のシルフたちも先ほどから魔導銃を撃ち続けているがクリーンヒットでダメージを与えても、そう時間がかからずに修復されている。
(厄介っちゃー厄介か。とはいえ、あっちも辛そうではあるんだよね)
クィーンビーの様子を窺ってみれば、甲殻のヒビが徐々に増えていっているのが分かる。
(ランクSになるための進化途中だったんだから、まだ体が出来上がっていないんだ。それに加えて天導核を取り込めてないから出力はランクAのまま。コアから絞り出す様に魔力を捻出しているはず。本来のランクSはこんなもんじゃないんだろうね)
これが実際に完成されたランクS飛獣になっていたら、恐ろしく厄介だったに違いないとルッタは予想する。召喚上限数は大幅に増え、また天導核を元にしたコアから供給される桁違いの魔力によって負荷をほとんどかけずに召喚体を再生し続けられていたはずだ。
(そこに通常の群れも加わるんだから普通の天領じゃあ襲われたら詰み。ラインさんの言う通り、ランクS相手じゃジナン大天領でも防衛に徹する選択しか選べないのは当然か。だけど……)
ルッタが再びフレイムナイトビーと斬り合い、そしてぶつかり合った瞬間に魔導散弾銃を放とうとして、けれども相手の肩部ニードルバレットが向けられたことで即座に回避行動をとって避けた。
「チッ、反応も悪くない。そりゃこっちが撃てるんなら相手も同じか。でもさ」
『リリもいる!』
入れ替わるようにブルーバレットとフレーヌが交差して、フレーヌのキャリバーがフレイムナイトビーを一刀両断する。
「「ギギィ」」
そこに二体のフレイムナイトビーがニードルバレットを撃ちながら迫り、それらを躱わしながらルッタとリリはそれぞれ応戦。さらに残りの一体がルッタへと近づくが、再びブルーバレットとフレーヌが入れ替わって、反撃を行って相手にダメージを与えていく。
まるで変幻自在の動きにフレイムナイトビーたちは困惑して上手に反撃へと移れない。ワンテンポ遅れた動きではルッタたちに届かない。
「リリ姉、連携上手くなったね」
『うん。ルッタと遊ぶためにイシカワを見て覚えた』
「さっすが」
リリにイシカワほどのフォロー力はないが、戦闘能力の高さがそれをカバーしている。その性能差故にルッタへの負担がイシカワの時よりも大きくなっているが、ルッタとてアーマーダイバー乗りの矜持から泣き言など言わずに喰らい付いていく。
(まあリリ姉が連携を覚えただけで十分。相手はオリジンダイバーに匹敵する出力だ。リリ姉の動きに追いつけなきゃ連中とも張り合えない)
「仮想オリジンダイバーと考えれば、これはこれで良い経験かな」
『ルッタが嬉しそうでリリも鼻が高いよ』
多少のふざけた会話が漏れようとも戦闘にはなんら支障ない。
ふたりは会話のテンポで互いの状況を把握すらできている。
「それで親玉の方はどんな感じかな……と、うわぁ」
クィーンビーの周辺の空気が歪んでいるかの様にオーラが立ち昇っている。それは恐らく苛立ちや殺意などといった負の感情が魔力となって湧き上がっているのだろう。
「リリ姉、女王様苛ついてるね」
『子供に任せて高みの見物が失敗。再生の負荷で自分の体も痛い痛い。当然の反応かな?』
「まぁ、そりゃそうか」
『そして、それでも自分で前に出る気概がない臆病者……でもそろそろ限界』
その言葉が終わる前にガチガチガチと顎を鳴らしながらクィーンビーが突如動き出した。
『ほらね』
「ありゃ本当だ」
同時にフレイムナイトビーも突進してきたが、それはルッタたちへではなくクィーンビーに向かっていく。
「なんだ? フレイムナイトビーが炎に戻って、クィーンビーを覆っていく?」
『焼身自殺?』
「違うと思うよ」
広がる炎と共に全身の甲殻が鋭角化していく。戦うための姿へと変わっていく。
「パワーアップしたってとこかな。けど、リリ姉に斬られた腕は治ってない。再生能力はなさそうだね」
『うん。来る!』
リリがそう口にした直後、ルッタの視界が真っ赤に染まった。
(が、ハヤッ)
そしてブルーバレットが弾き飛ばされた。




