056 オイルスラッシャー
「ヒムラ! 聞こえているか日村京介!!」
『うん? その声……まさか財前さんか!?』
対峙する相手の中から突如響いたザイゼンの声にヒムラが反応した。
『アンタ、知り合いだったのか?』
「ああ、私は昔連中に捕まったことがあってね。彼は私と一緒に捕えられて……そして、逃げられなかった」
訝しげな顔でのラインの問いにザイゼンがそう返した。
「次に私がヒムラのことを知ったのは彼がアルティメット研究会に所属する蟲使いとして賞金首になった後だったよ」
それから顔を歪めて吐き捨てるように口を開く。
「かつての被害者が加害者となって、今では旧人類を抹殺する新人類を名乗ってる。本当に笑えない話さ」
『その笑えないあいつ、ネオヒューマーって言うらしいぜザイゼンさん。ライン団長、俺はアイツとは相性悪いんでナイトビーって言う人型飛獣の方を叩かせてもらうわ』
『分かった。しかし、あのヒムラの乗る機体……あれは高出力型か?』
相手にふたつの機体反応があるも当然見えているのだろう。ラインの言葉には戸惑いがあった。
『デュアルセイヴァーって新型だってさ。機導核二基持ちなんだと』
『なるほど。信じ難いが反応は確かにそうだな。それに』
ニンジャとポルックス、それにシトロニエが三方から撃ち始めているが、デュアルセイヴァーはバックパックに格納されていたもう一対のタクティカルアームを可動させ、肩装甲を可変展開させた盾を使って攻撃を防ぎ続けている。
『なんであの機体は四本のタクティカルアームを自在に扱えるんだ!?』
『まるでふたり乗っているような動きだが……』
その様子にカインとラインが驚きの声をあげる。
アーマーダイバーの操作の基本は肉体の延長線にある。アームグリップとフットペダルは補助具であり、実際はコックピットシートの首裏部分にある感応石を通じて機体と同期し、乗り手の思念で動かしているのだ。だから肉体に備わっていない部位を思念で操作するのは難しいし、戦闘中にタクティカルアームを自由自在に動かすことはできないというのが一般的な認識だ。
それは卓越した操縦技術を持つルッタにしても同様で、そのために動きの再現をひとつのアクションとしてテンキーもどきに登録することで操作の幅を広げているわけだが、デュアルセイヴァーのタクティカルアームはそれぞれが自由自在に動いているようにしか見えない。
『何かしらの仕掛けがあるということか。新人類様は私たちの予測を飛び越えてくるな』
「何が新人類だ。そんな戯言は洗脳された操り人形が口にしているだけの世迷言に過ぎない」
『それは誤解だよ財前さん。僕は洗脳なんてされていない』
「どこが誤解だ。その物言いが洗脳されている証左だ日村京介。お前は騙されているんだ」
ザイゼンの怒気に呼応するかのようにニンジャが、それに続くようにポルックスが撃ち続けるが、デュアルセイヴァーには当たらない。
『可哀想に財前さん。あの時、あなたは逃げてしまった。だから知らないだけなんだ。残っていれば僕らは素敵な家族になれたはずだったのに』
「残っていればだと? 私を虫に食わせようとしたあの連中と家族にか? 冗談じゃあないな」
ザイゼンが己の頭部に刻みつけられた傷痕を指でなぞる。あの場に残っていれば洗脳すらされずに蟲に食い殺されていたとザイゼンは理解している。けれどもヒムラは首を横に振って『それが誤解なんだよ』と口にした。
『食べたいんじゃない。僕らはただ一緒になりたいだけなんだ。ねえ財前さん。今からでも戻ってきておくれよ。それがあなたのためでもあるんだ。ほら、こちらにはあなたの子供もいるんだ。ああ、奥さんもね』
「!?」
その言葉にザイゼンの目が見開かれた。
「セレナが……俺の子供が生きているのか?」
『そうだよ財前さん。そうなんだよ。だからあなたが戻ってきてくれればすべてが丸く収まるはずさ』
まるで癇癪を起こす子供をあやすようにヒムラは言う。
『まあ、あの子は幼いからまだ家族になれるかは『試していない』けれども、きっと大丈夫さ。彼も家族になれるはずだ』
その言葉は心の底からザイゼンを案じているようで、けれどもだからこそザイゼンは激昂した。
「試す? 家族になれるだと? お前は、お前たちは一体俺の子供に何をしようとしているんだ?」
『そんなに興奮しないでよ財前さん。子供と言ってもあなたはまだ彼に会ったこともないじゃないか』
「それはッ、アイツらが奪ったからだろうがッッッ」
ザイゼンの怒りに呼応するかのようにニンジャがポルックス、シトロニエと連携して仕掛けるが、デュアルセイヴァーの防御は崩せない。二丁の全自動式魔導散弾銃によって牽制され、タクティカルアームの盾によって防がれる。
『無駄だよ財前さん。無駄なんだ。君たちでは不十分だ』
相手の火力を前に盾という要素こそ増やさざるを得なかったが、オリジンダイバーのシトロニエを含めても受けるプレッシャーはルッタとイシカワのコンビを相手にするよりもずっと小さい。崩落のダメージで性能が低下した他の機体もそれほどの脅威とは思えなかった。
またルッタたちが挑んでいるクィーンビーはすでにランクS相当の能力は持っている。いかにルッタとたちといえど勝てるはずはないと、それ故に自身は防御に徹して待っていれば良いと……
『あ?』
そんなヒムラの受け身の心が油断を生んだ。
ヒムラの話には重要な要素が抜けていて、微妙に会話が成立していません。
ヒムラは家族になり得るザイゼンの幸せを願っています。ザイゼンの息子は家族になれるかもしれないから大切に考えています。奥さんは家族になれないどうでも良い存在なのでついでのように付け加えています。ザイゼンも家族になれば同じ考えになるので、奥さんはどうでも良くなると思っていますし、息子も家族になれなけば処分するけどザイゼンは理解してくれると思っています。そして恐らくそれは事実です。
ザイゼンでもそうなのでこっちの世界ではまだ帰属意識の薄いイシカワは即落ちします。多分パイルバンカー八本持ちのブースターお化けなデュアルセイヴァーとか乗りこなす強化人間になるので割と洒落になりません。




