055 終わらないウェーブ
今章最終戦前の最後の地上戦況報告です。
戦闘中断して複数話挟むのも間伸びするので今話はいつもより長めです。
「あー、こりゃあしんどいな。なあノイマン。お前さんは突入部隊に入ったほうが良かったんじゃあないかい?」
ルッタたちがいよいよ決戦という頃、アンカース天領の領都の上を浮かぶ雲海船の中でランクBクラン『スカルクラッシャーズ』のクランリーダー、ツァイス・カールが苦い顔をしながら、そんなことを口にしていた。
蜂型飛獣の猛攻は留まることなく続き、持ち堪えてこそいるが、戦い続けるハンターたちの疲労は確実に蓄積していた。すでに雲海船も二隻が落ち、今目の前でも黒煙を吐きながら領都に不時着しつつある船も見えている。
であれば、血脈路の中に消えた突撃部隊の方がまだマシだったんじゃないかと思っての愚痴であったが、問われた方は苦笑いで『馬鹿言え』と返す。
『俺がいなきゃアンタの艦はとっくに落ちてるし、俺は土の中で無駄死にしてたと思うぜぇ』
エースアーマーダイバー乗りのノイマン・リヒターがそう返す。
「ウチのエースが随分と弱腰だな」
『テメェのエースだから進言するのさ。身の丈にあってねぇことは考えるなってよ』
キラービーを一体落としながらノイマンがそう口にする。
『いいか団長。ランクSモドキの飛獣なんざお子ちゃま釣り師に任せとけ。アレでどうにもならねえならどのみち終わりだっての』
「ホホォ。随分とあの小僧を評価するなぁ。まああそこまでボロクソにやられたらそうなるかい」
『ハッ、ウチのガキよりも小せえのに良い様に遊ばれたんだぞ。マジで落ち込んだわ。けどなぁ、それ以上に分かっちまうんだよ』
「分かる?」
首を傾げるツァイスにノイマンが頷いた。
『あの小僧。ありゃぁ、ひと握りの天才じゃねえのよ』
そう言ってノイマンが迫るキリングビーへと魔導剣を持って突撃する。
『あいつの動きは真似できる。俺でもいつかは辿り着ける。だからよー。ほいジャッキー流剣術ってなー』
そして迫るキリングビーをグルリと機体を回転させながらかわし、マニュアル操作の竜狩りモドキで一刀両断した。
『オリャ、自分がこれからどれくらい強くなれるか分かんなくてワクワクしてんだよ!』
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「絶対に近づけるな。ウォォオオオオオオ」
スカルクラッシャーズとは逆の場所で戦い続けているのは永久戦士団とナッツバスターだ。その中でもっとも前線で戦っているのは永久騎士団団長のザクロ・ベイカーであった。この場の指揮はナッツバスター団長のルーナ・シャルダンに任せて、自身はただひたすらに敵を屠り続けていたのである。
元よりザクロは己が指揮官に向いているとは考えていない。クランの名の通り、自分を永久に唯一個の戦士であり続けると定義しているが故に。
もっともその永久もそろそろ終わりに近づこうとしている気配をザクロは感じていた。
「ウオォオオオオオ」
ザクロに向かってスーサイドビーの群れが一斉に襲いかかってきたのだ。
爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。爆発。
間断なく迫るスーサイドビーの神風アタックに神経をすり減らしながらもザクロは魔導銃で撃ち続け、爆破の影響範囲外で仕留め続けるが……
「ヌッ」
『団長!?』
クランメンバーがその様子に叫ぶ。
「ここでジャムるかよ」
ザクロが苦く笑う。
それは戦いの上では常に起こり得る不幸だ。魔導銃も銃であるために撃てば薬莢を排出する。魔鋼弾は召喚というプロセスで構築されているために排出されてしまえば術者である乗り手との繋がりも消えて薬莢も自然消滅するのだが、魔導銃から出る過程で弾詰まりを起こして物理的接触が維持され続けてしまうとパスも繋がった状態と判定されるため、消滅できずに手動で外す必要が生じてしまうのだ。
『団長に近寄らせるな』
『畜生。死なせてたまるかよ』
退がるザクロをスーサイドビーが追い、それを仲間たちが撃ち続けるが、それでもスーサイドビーの猛攻は止まらない。バックパックウェポンが一斉に放たれ、勢いよくさらなる爆発が起こるがスーサイドビーは止まらない。飛獣たちもこの場で最も脅威なのが誰なのかを理解していた。故に殺意の塊となって突き進んでいく。
「ヌゥウウウ、かくなる上は」
ザクロが魔導戦斧を振り被る。至近距離で斬りつければ爆発に巻き込まれるが、それでも直撃よりはマシだと……
『あっぶないねえ』
けれども振り下ろす前にスーサイドビーが次々と爆発していく。近づいてきたのは緑色をしたマッシブなフォーコンタイプの機体で、マガジン式の半自動魔導散弾銃を持って撃ち続けていた。
そして、迫るスーサイドビーをバックパックウェポンの多連装魔導砲で次々と落としながら、腰にマウントしてある魔導銃を外してザクロ機へと投げ渡した。
『代えの魔導銃だ。使いな』
「ルーナ団長か。助かった」
ルーナ・シャルダン。ランクBクラン『ナッツバスター』のクランリーダー。これまで雲海船のブリッジで指揮をしていた彼女が出てきたのだ。
そしてザクロ機がルーナ機に並んで撃ち始める。
「アーマーダイバー乗りは引退したと聞いていたが」
『今日は気分が乗ってるから特別だよ。まあ長時間は無理だけどね』
ルーナは潜雲病が発症したことでアーマーダイバー乗りを降りている。潜雲病は竜雲海に潜り続けた人間、特にアーマーダイバー乗りに多く発症する病だ。体内に溜まった竜雲の魔力が結晶化して生え始め、生えた箇所の人体から石英化し続けて最終的には死に至る。
この生えた魔力結晶はアーマーダイバー搭乗時の機体フィードバックと共鳴して生え際辺りから激痛が走るため、発症した者は乗り手を引退せざるを得なくなるのだ。
だから今もルーナは痛みに耐えているだろうし、長時間の操縦はできないはずだが現在の状況は彼女も前に出ざるを得ないところまで来てしまった。
それを理解しているからこそザクロはルーナに戻れとは言えない。
「……助かる」
『ふふん。殊勝だねザクロ・ベイカー。まあいいさ。背中を預けあった仲になったんだ。終わったらクラン同士で飲もうじゃないか』
「分かった。だが、ウチの団員を潰すなよ」
『安心しな。戦友相手なら優しく撫でてやるさ』
そう言い合って両者は再び戦いに集中する。
敵の波は未だ途切れることはなく、銃声と爆発音がさらに響き渡り続けた。
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「あーあ、団長まで出張ってきちゃったか。無理しちゃって」
ナッツバスターの副長、黒兎人のチルチル・リンランがタイフーン号の甲板の上で撃ち続けながら、離れた場所で動く機体を確認してそうぼやく。
潜雲病に発症したルーナをもっとも近くで見守ってきたのは副長のチルチルだ。ルーナの出撃に思うところがないわけじゃない。
「まだ死なんでくださいよ団長。アンタにはまだまだ団長でいてもらわんと困るっすから」
ルーナがアーマーダイバー乗りとして死にたがっていることは彼女の部下なら誰もが知っていることだ。魔力結晶に侵され続けてベッドの上で砕けて果てるよりも、仲間と共に誉ある最期を……それはアーマーダイバー乗りなら誰もが想うもの。だが、それでもとチルチルは思い、その直後に起きた凄まじい爆発音に己の意識を目の前に戻す。
「うわぁ、派手っすねぇ」
ランクCクランの雲海船の一隻が保有していたランクA遺跡兵器である百爆箱弾頭が飛獣の群れの中心で爆発したのだ。一斉に発射される百の爆裂弾を内蔵した特殊弾頭を撃ち出すその兵器はギアの指示により、もっとも効果的なタイミングで放たれて敵を粉砕していく。
その中心にいたフォートレスビーも死にかけており、それに気付いたシーリスが放ったアーマーバスターライフルが直撃して崩れるように倒れていった。
「ヒュー、やるっすねえ。うぉっと」
爆煙に隠れて近づいてきたスーサイドビーの爆発をジェットの操作するシールドドローンが庇ったことでチルチル機は事なきを得た。
「ジェットの旦那、あんがとっす」
『ふん』
『ちょっとチルチル、集中力切れてるわよ』
「すまんす」
(はは、まったく少数精鋭とは言ったもんすか)
シーリスとジェット、それにギア率いるタイフーン号。彼ら風の機師団はランクBでありながら、ランクA相応の実力を持つと言われているクランだ。
一方でシーリスは自分がリリやルッタには及ばないと考え、それをコンプレックスとしているようだった。そして、その認識は間違いなく事実ではあるのだが、それでもシーリスも確かにランクA相応の実力者ではあるのだ。この場にいるハンターの中でもトップクラスの実力者であるのは間違いない。
「ここで畳み掛ける。拡散ドラグーン砲撃てぇええ」
ギアの指示により放たれる拡散ドラグーン砲の一撃によってキリングビーたちが次々と落ちていく。
(全く頼もしい。頼もしいっすけど……)
チルチルの視界にさらに二体のフォートレスビーが接近してくる姿が見えた。キリングビーの群れは未だ途切れることはなく、敵の戦力の底は見えない。終わりは遠く、チルチルたちの心は摩耗していく。
「ルッタくん、早く済ませてくれないとまずいかも」
チルチルの額を冷たい汗が伝う。
ここまでが大善戦であるのは間違いなく、自身らの能力を100パーセント以上に発揮しているのは確かであり、けれども物量は奇跡の如き戦果をも喰らい尽くさんと迫ってきている。
そして地上でのタイムリミットが刻一刻と近づく中、島内部の戦いは今……
次回より今章の最終戦始まります。
ちなみに半自動魔導散弾銃はサイガ、百爆箱弾頭はコンテナミサイルのイメージで大体あってます。
また本日より新作も始めました。
タイトルは『収納おじさん(修羅) ~最弱の中年探索者は収納スキルでラスボス系能力『時間操作』に目覚めました~ 』となります。
URL:https://book1.adouzi.eu.org/n6332iz/
頭のおかしい普通のおじさんが人外の仲間と共に探索する現代ダンジョンものです。ますぷろ共々よろしくお願いします。




