054 予測不能少年
ここに至ってはヒムラも己の判断が誤りであったと認めざるを得なかった。
アルティメット研究会の今回の襲撃はランクS飛獣の入手と同時に現在の自分達と旧人類の戦力を比較する意味もあった。けれども彼は見誤っていたのだ。その場にいたイレギュラーの存在を。
『でもねラインさん。仕方ないとは思いませんか。オリジンダイバー二機だけじゃなくてオリジンダイバーに匹敵する戦闘力を持つアーマーダイバーが他に二機もいるだなんて想定外過ぎるでしょう』
『はは、その点だけは同意しよう。同情はしないけどね』
それはラインにとっては望外の幸運であった。
ルッタとイシカワがここまでやれることは彼としても想定外のことだ。
そもそもラインはルッタたちがここまで辿り着いているとは思っていなかったのだ。ヒムラも知らなかった隠し通路は特に障害もなかったため、ふたりだけで戦っているルッタたちを追い抜いているだろうと考えていたし、ヒムラがルッタたち相手の防衛に集中している隙を狙えれば……とも期待していた。けれども実際に蓋を開けてみれば、ルッタとイシカワはとっくに心臓室に到着して戦闘に入っている……どころか、ルッタはラインたちの接近に気付いてヒムラの誘導すらも対応してくれた。出来過ぎな状況だ。
『それにしてもルッタ少年。ここまですでに辿り着いていたことにも驚いたが、よく我々に気づけたな』
「ああ、それはアンが反応してたんで、なんとなく?」
ルッタの視線が血脈路の入り口にいるフレーヌ専用タレッドドローン『シルフ』の一機であるアンへと向けられる。
アンは崩落時、リリの乗るフレーヌの元にではなく、ブルーバレットがパージしたガトリングガンを携えてルッタの側にいたのだ。ガトリングガンとバケツマガジンを乗せた重みで戦闘可能な状態ではないため、アンは離れた場所で待機していたのだが、フレーヌの接近を感知して『手振り』でルッタに伝えたのである。
通信反応でもあれば或いはヒムラも気付けたかもしれないが、アンがパタパタと動いていただけなのだからルッタが気付けたのも偶然だし、アンの手振りの意味もルッタにしか分からない。結果として仕留められはしなかったが、奇襲によってクィーンビーに損傷を与えるのには成功していた。
『さすがルッタ。以心伝心』
「うん。アンとだけどね」
リリの想いはルッタには届いていない。
(ともあれだ。上手く挟撃の形にはなった……けど、アレはちょっと難しいな)
そんなことを考えているルッタの視線はラインたちの機体に向けられている。彼らの機体は崩落の影響でかなりのダメージを負っている。一番マシなのは領都での無茶な操作で負荷がかかったものの物理的な損傷の少ないフレーヌで、他の機体ではランクSに近い飛獣を相手取るのは難しいだろうと。
(やれるとすれば……俺とイシカワさんとリリ姉。ラインさんは分からないし、デュアルセイヴァーもいる。だとすれば)
空間内の緊張が徐々に高まっていく。
その中でルッタはフットペダルを踏み込んでブルーバレットを加速させる。最初の一歩を踏み出したのはこの場で最年少の少年だった。
「ラインさん、クィーンビーは俺とリリ姉がやるよ。他を頼んでいい?」
『何? いや、分かった』
ルッタの意図を汲み、ラインもデュアルセイヴァーに向かって動き出す。
『え、俺は?』
「イシカワさんはデュアルセイヴァーをお願い。あんまり壊さないでね」
『無茶言うなー』
『ルッタと共闘。ふふふ、イシカワは駄目。リリじゃないと駄目ー』
リリが嬉しそうにフレーヌを走らせ、クィーンビーに向かうブルーバレットと並走する。
なお、ラインたちのお守りを任せられるのは他人に興味の薄いリリよりもなんだかんだ面倒見の良いイシカワの方が適任だろうという判断からであり、どちらに信頼を置いているのかというよりもどちらが適任かで選んでいた……ということは言わなくても良いことなのでルッタも口にはしない。
その様子にヒムラが目を細めて笑う。
『へぇ、クィーンを相手にたった二機でねぇ。まあ、戦力比で言えば仕方ないかもしれないけど……で、僕の相手はあなた方と言うことか』
ヒムラの目にはオリジンダイバーのシトロニエ、高出力型アーマーダイバーのポルックス、ニンジャ、それにイシカワのヘッジホッグが近づいてくる姿が映っている。対して残り十体ほどとなったナイトビーもデュアルセイヴァーを中心に動き始める。そして……
『ヒムラ! 聞こえているか日村京介!!』
『うん? その声……まさか財前さんか!?』
突如響いたザイゼンの声にヒムラが反応した。




