026 お前じゃい!
「まったく、最後の最後でこいつかよ」
『弟と共同作業! 悪くない』
ドバンッと雲柱が発生し、中から巨大な鮫のような怪物のビッグジョーとフレーヌと片腕のブルーバレットが竜雲海上に飛び出した。もっともビッグジョーからはすでに命の炎は消えている。高級素材であるアルカンシェルフェザーは無事ではあるものの全身穴だらけで既に息絶えていたのである。
「甲殻のない飛獣相手だと倒すのこれだと楽でいいなぁ。ボロボロになるし、素材回収厳しいけど」
ルッタは弾丸を撃ち尽くしたガトリングガンを見ながらそう口にする。急ぎ遺跡を出たためにブルーバレットがあの場から持ってこれたのはこのガトリングガンとバケツマガジンポッドひとつだけであった。せめてふたつと欲をかきたい気持ちはあったが、残念ながら彼の直感はそれを死亡フラグと感じ取っていた。
そして、そんなこんなで遺跡から脱出したルッタたちが今では目の前でプカプカと竜雲海上に浮いているビッグジョーと遭遇したのはつい先ほどのこと。どうやらこの異常事態に反応して動き出した個体のようで、前回の狩りの時とは違って傷つけずに仕留めろといったオーダーもなく緊急事態であったためにルッタはリリと協力してソッコーでこの飛獣を始末したのであった。
(眷属のいないハグレだったけど、大型飛獣もここにはいたんだな。となると、もう少しでここらの海域も侵入禁止になってたかも)
瘴気溜まりと化した海域は飛獣が増えやすく、大型飛獣などが棲み着けば危険度は一気に上がるために航路としては外されることとなる。もちろん柵があるわけではないので雲海船が勝手にその海域に入るのを止めることはできないが、侵入禁止になっていればヘヴラト聖天領を目指している風の機師団がリスクを考えてナッシュの依頼を受けなかった可能性は高い。
『はー、めちゃくちゃだなぁ』
そして離れた場所でルッタたちの狩りを見ていたナッシュが苦笑いをしていた。
さしものラダーシャ大天領の闘技場序列一位も竜雲海の上ではランクD相当のハンターでしかない。近接戦に限定すればランクBにも相当するだろうが、ルッタとリリの狩りに参加できるほどの腕前ではなかったので大人しく見物に徹していたのだ。
『ふぅ、ようやく竜雲海の上まで戻ってこれた。太陽が眩しい』
「そうだねリリ姉。それに……あっちは凄いことになってるみたいだね」
ルッタが視線を向けた先は直下にノートリア遺跡があるであろう渦を巻く竜雲海だ。渦の周囲には赤色の放電が走っており、その姿はまるで台風のようだとルッタは感じていた。
『ああ、凄いな。こりゃ、まるでタイフーンだ』
「へぇ、タイフーンってこういう感じなんだね。人工的に発生したものなんだから天然物とは違うんだろうけど」
タイフーン。それは竜雲海の流れが激しい海域に発生し、渦を巻いて荒れ狂いながら消滅するまで周辺海域を動き回る自然現象だ。ノートリア遺跡はソレを人工的に発生させて何かを行う施設のようだった。
(タイフーン号の名はタイフーンを乗り越えられるようにって意味が込められているってオーエン班長が言ってたな。まあ、確かにアレを乗り越えられるように考えて造ってたんなら頑丈だよね)
そんなことを考えながらもルッタはリリとナッシュと共にビッグジョーの虹色の飛膜アルカンシェルフェザーの切り取り作業を始めていた。竜雲海の流れが早く、早々に素材確保をせねばどこぞに流れるかも分からぬ状況だ。
けれども作業をしながらでもルッタは聞かずにはいられないことがあった。
「ねえリリ姉、アレって遺跡が起こしていることなんだよね?」
位置を考えれば間違いなく遺跡の、その中心にあるプリンの塔によって発生した現象なのは間違いない。けれどもアレが一体何を目的として今の状況が起きているのかがルッタには分からなかった。
『うん。あの遺跡はね。竜雲海の浄化装置のひとつなんだって』
「浄化?」『装置?』
ルッタとナッシュが首を傾げる。
『そうなの。とは言ってもアトラスの補助を目的としたものらしいんだけど』
『アトラスってあの? まさか神柱アトラスのことかい?』
ナッシュが目を丸くして口を挟んできた。
『うん、そうだよ』
リリが頷く。
神柱アトラスとは神によって生み出され、今なお世界を支え続けているとも言われているアーマン大陸中心に存在する巨大な塔だ。
竜雲海上なら晴れていればどこにいても確認できるほど大きな塔で、雲海船はアトラスと太陽の位置から自分達のいる海域を割り出している。それは竜雲海で生きる者にとっては当たり前の、彼らの生活の支えにもなっている存在だった。
『アトラスは大陸の中心で竜雲海の流れを生み出しながら瘴気の浄化をしつつ再び世界に循環させていくための装置なんだって』
『あの神柱が……そんな話、聞いたこともなかった。リリさん、それはあの遺跡から直接聞いたのかい?』
『うん。教えてくれた。でもこの大陸は広いから、時々瘴気溜まりみたいな場所ができるところがあるの。あの遺跡はアトラスの力が及ばない時の補助として、代わりに浄化する役割を与えられた施設だったんだって』
なるほど……とルッタは頷く。
ノートリア遺跡周辺は元々瘴気溜まりができやすく、それを解決するために遺跡が設置されていたと。アトラスの役割が竜雲海の浄化で、ノートリア遺跡はそのサポートだった。先ほどの光景を考えれば、スケールの大きさも含めて納得はいく。けれども、だとすればひとつの謎が浮かび上がる。
「でもリリ姉さ。遺跡は今日まで動いてなかったよね。結構前から瘴気溜まりができてたのに」
そう、稼働はしていなかった。それが今動き出したのはどういうことなのか。そして、その答えをリリは持っていて……
『それはね』
リリは怒りを含んだ声でこう口にした。
『遺跡を破壊して施設のものを奪おうとした盗っ人たちのせいなんだよ!』
Q 遺跡の正体は?
A 超巨大空気清浄機
竜雲海を維持するための最重要施設を破壊して金目のものを奪って逃げようとしたトンでもねえヤツらがいるらしい。リリ姉もお怒りだよ。




