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俺の萌は今日も変わらずに可愛い。

そう思いながらカメラを回す。制服も可愛かったが、私服も可愛い。早く二年経たないだろうか。卒業式が終わったら迎えに行ってやらなきゃだな。それからその後で、親御さんに挨拶して…。やる事が沢山だな。

「阿澄先生!仕事サボって何をしてるんですか!」

「木野か」

木野蓮華は、将来の姉になるのか。生徒が姉とは、妙な気持だな。

「もうそんな時間だったか」

「早く持ち場に戻ってくださいよ!会長じゃあるまいし!」

「はぁ」

深い溜息を吐き出す。

平岡を生徒会長に推薦したのは俺だった。

成績優秀で、品行方正で誰もが認めざるをえないようなそんなカリスマ性を秘めている生徒だと思っていた。事実、生徒達のいざこざが起きれば、上手い事収めていたところを見ると、別に生徒会の仕事が嫌いな訳ではないようだが、真面目に仕事をする気もないのだろう。

「……全く、アイツは。またサボったのか」

「…はい。阿澄先生は、前から会長の事を気にしていらっしゃいましたよね」

「あぁ。アイツは、無駄に人を惹きつけているだろう。だから、アイツにはそういう仕事が誰よりもあっていると思ったんだ」

綺麗な事も汚い事も知っているアイツになら、会長職を任せられると思ったのは本心からだった。

けど、俺はアイツが本心から何がしたいのかは知らない。

ただ、何も目的も持たずにヘラヘラと笑ってるだけだったのかもしれない。

「なぁ、木野」

「はい、先生」

「平岡がもしも、会長を降りたいって言ったらどうする?」

「私は…。会長がもしそんな事言ったら、私は止めないと思います」

「そうか」

本人は隠しているつもりだろうが、木野は平岡の事が好きだ。しかも、平岡はそれを知っている。木野の気持ちに気付いていてなんでもないフリをして、木野を利用する。

「木野」

「なんですか、先生」

少し不機嫌そうに言う木野に、苦笑が漏れる。

「平岡は辞めとけよ」

木野は、それから何も言わなかった。

俺が萌用に立てて置いたカメラを一度、片付けていると、木野に服の裾をツンと引っ張られた。

「知ってますよ!」

悪戯っ子のようにニコリと笑って木野は、先に生徒会用テントに行ってしまった。





「ねぇ、アナタ。アナタ一体なんなのかしら」

トイレに席を立った所だった。

体操着を着た、綺麗な女の人達が、私の行く手を阻んでいた。誰だろう後ろの人かな。あ、ちょうど、女の人が立ってた。私、邪魔か。

「アナタよ、アナタ!そこのチンチクリン!」

「……私でしょうか」

辺りを見回すと、次々に視線を逸らしていく人達は薄情だと思う。

「平岡様や、佐賀君達に近寄って何を企んでいるのかしら?」

「………はぁ」

平岡っていう人と、佐賀っていう人のファンという事なんだろうか。

果たしてそれが、私の知っている人達なのであれば、なんと趣味の悪い事か。

「もう近付かないでいただきたいのだけど」

「………はぁ」

というよりも、もう近付きたくないのだが。それを多分許してくれないのは、ご本人達なのだろうけど。

「わ、私の颯君にまで手を出して、酷いわ!」

「………はぁ」

そう言って泣き出したのは、安産型のお尻の子だった。

あの男、相当の安産型好きの変態だったのか。もう近付かないでおこう。携帯に登録してある連絡先後で消そ。

「城さんとも、どういう関係なのよ!」

「………はぁ」

どういうって、ついさっき存在を知ったばかりですが。

「楓雅様が優しいからってその優しさに付け込むだなんて最低!」

「………はぁ」

フーガって誰。

好き勝手言ってくるこの人達は暇なんだろうか。暇なんだろうな。

とりあえず、相槌だけしとけばいいのか、何も咎められる事なくどんどん激しさを増していく女の人達はきっとこの学校の生徒さんだろう。

「ちょっと、聞いてるの!?」

「………はぁ」

「だいたいね、蓮華さんの親族か何かは知らないけれど、我が物顔で保護者テントに居るのはどうかと思うわ。不審者として、警備員に受け渡してもい」

「どうぞ、よろしくお願いします」

私はもうすでに飽きていた。

何が悲しくて姉の体育祭など見に来なければいけなかったのだろうか。ちなみに、うちの女子校にはそんな体育祭などという行事は存在しない。学校祭はあるのだが、姉を呼ぶどころか、両親も呼んだ事がない。

なぜならば、私が学校祭の日時を教えないからだ。

「ちょっと!」

「本人が希望しているなら、警備員に受け渡しま」

「ちょっと待ってください。荷物取りに行ってきます!」

急いで保護者テントに戻り、荷物を纏めているとテントの前を歩いていた斗鬼とバッチリ目が合ってしまった。

「萌?」

「あ、斗鬼」

「なんで、ここに」

「姉がここに通っているもので」

「そう」

競技が終わったばかりなのか、斗鬼は少し疲れているようだった。

「帰るの?」

「うん。飽きたし、帰るよ」

「んじゃあ、校門まで送ってく」

「ありがとう」

斗鬼は紳士的にさりげなく私の荷物を持ってくれた。

斗鬼は、アレだよね。弟に欲しい。見た目アレなんだけど、中身はとても良い子。斗鬼が弟なら、私ブラコンになってるね。

「お待たせしました。帰る準備は整ったので帰ります」

「ちょっと待ちなさいよ!」

「なんですか」

「なんで斗鬼君まで一緒なのよ!」

「さっきバッタリ会いまして」

顔を歪めるお姉さま方は、まるで般若のようだ。

複数の般若に囲まれた私と斗鬼はちょっと怖気付いた。

「…………なんで、厄介事背負ってるの」

そんな斗鬼の呟きに気付かない程私は、お姉さま方の話を聞いていた。

「とにかく、アンタ達自分の番はどうしたわけ?次、女子の障害物競走だったよね?男子のはもう終わったよ」

「斗鬼君、これはね、その」

「言い訳はいいよ。早く行ってくれない?それと、もうこういう事しないでくれない。良かれと思ってしてくれているかもしれないけどさ、」

そこで私は一つの強い視線に気付いた。

その視線を辿ってみると、そこには我が親友の姿があった。視線が合うと、親友は元から吊り上った大きな目を、更に大きくさせ不意に、口を手で覆って、私に背中を見せてブルブルと体を震わせていた。

笑っている!

私は、その瞬間、その場でその親友をド突きたかった。が、堪えた。

「萌?」

「斗鬼、ちょっと待ってもらえる?ド突いてくるから」

「唐突過ぎて、何がなんだかわけがわからないんだけど」

「ド突く」

「いや、色んなとこ端折らないでくれる?余計わけわかんないんだけど」

ド突く。

そんな使命感が私の中でグルグルと渦巻く。

そして、我が親友はそんな私を見て、手を挙げたかと思えば大声で私の名前を呼んだ。

「もえもえー!!!!」

「ド突く!!」

「はぁ!!?」

戸惑う斗鬼を余所に、私は我が親友をド突いた。

萌にも友達が居るんだよって話でした。

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