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「いやー。疲れた疲れた」
「おい、平岡」
「なーにー?」
「なんで俺等は、堂々と保護者テントで茶を飲んでるんだ?それと、お前次は生徒会のテントに居ないといけないんじゃないか?」
「なーんで、僕が仕事しないといけないんだろうねー」
暢気にお茶を啜りながら、五段重の風呂敷を開こうとしている平岡さんの手をペチリと叩くが、平岡さんの手は止まらない。イライラしてきたので、バンッと力いっぱい叩くと、ヒラリと躱されて、思いっきり五段重に当たった。痛い…ッ
「なんで生徒会に入ったんだよ」
「学校の評判下げる為だけど?」
誰だ。この男を生徒会長に推薦したのは!
多分、前髪の長い男の人と同じ事を思ったのだろう。私と同じく口端を引くつかせている。とりあえず、颯に平岡さん回収に来てとメールしておいた。あー、携帯って便利。全く、阿澄先生が私の携帯を壊さなければ、スマホでこんなに苦労しなかったものを。
「萌ちゃんに紹介するね。僕の友達の城翠。翠は颯のバスケの先輩なんだよ」
ヒョイと、スマホ取り上げられ勝手に操作されている。
「はい。僕と翠の連絡先入れといたからね。ついでに阿澄先生のも」
「とんでもなく余計なモノを入れましたね。これで私が監禁でもされたら平岡さんのせいですよ」
「なぜ、そこで阿澄先生の名前が出てくるんだ?」
バッと、平岡さんと二人して、城さんの方に振り向いた。そういえば、事情を知っているのは平岡さんと斗鬼だけだった。
「…阿澄先生ってね、実は……」
ごにょごにょと内緒話をしている平岡さんと城さんは、時折吃驚したような小さな声を上げる。
それを何回か繰り返すと、今度は城さんから同情の目を向けられた。
「お前、可哀想な奴だな」
「なんて事言い出すんですか」
しかも言っている事がストレート過ぎる。お前はストレートしか投げられないピッチャーかよ。と思わず思ってしまった。もしも、私の肩がアスリート並に出来上がっていたならば、豪速球を投げ付けていただろう。
「ところで、本当に行かなくていいんですか?」
「お弁当食べてから行くよ」
「これは、お姉ちゃんと私のお弁当です」
「これ二人で食べるの?ブーちゃんになっちゃうよ。ねぇ、翠」
ブニッと私の鼻の天辺を押して、私の鼻を潰してくる。しかも尋常じゃないぐらいにグリグリと押し付けてくるので、バシッと平岡さんの腕を殴る勢いでどかした。
「あぁ。今よりふっくらして可愛いんじゃないか?」
「私、今凄く城さんをド突きたいって思いました。初対面の人に対して初めての経験です」
「良かったじゃん。初経験おめでとう」
「ちなみに平岡さんはいつもド突きたいって思ってます」
「僕が、萌ちゃんにド突いてあげようか」
「ごめんなさい」
即座に謝罪するが、既に平岡さんの手は私の頭を鷲掴んでおり、その握力は私の頭蓋骨を握りつぶそうとしているようだ。
「とにかく、平岡さんは今ここでご飯食べるよりも先に仕事してください。仕事しない人に食べさせるご飯はありません」
「えー」
「えーじゃないだろ。お前と違って木野の妹はよく出来た人間だな」
えっへん。と胸を反らして、自慢げにしていると平岡さんから可哀想な物を見るような目で見られた。主に、胸を中心的に。
「貧乳ちゃんは単純に僕を追い返したいだけだよ」
「喧嘩売ってんですか」
「萌ちゃんが買った所で、ボロカスに負かされるの目に見えてわかるよね」
えぇ。それはもう。
無言で明後日の方向を向こうとすれば、平岡さんの手がそれを阻む。
「とにかく。木野の妹が言っている事は間違っていない。平岡はすぐに生徒会のテントに戻るべきだ」
「仕事放置してるのは君だって一緒だろ」
「俺の仕事は、颯に全部押し付けてきた」
「二人でどんぐりの背比べしててください」
どっちもどっちじゃないか。だから、颯からメールがなかなか返ってこないのか。
一見有能そうな二人は、不真面目なサボり魔だった。
「会長!こんなとこに居たんですか!アンタ、今の時間テントで待機のはずでしょう!」
「やぁ。楓雅。いつも忙しそうだね」
「忙しくさせてんのはアンタだ!」
怒り心頭でやってきた、平岡さんと同じ属性の弟を身内にお持ちのお兄さんだった。
見た目アレなのに、中身が常識人っぽく映るのは、私の周りでまともな人が一人も居ないからだろう。
「お腹空いたから、早弁しようかなって」
「平岡は“早弁”という言葉が驚く程似合わないな」
「その五段重の事ですか?」
「なんでお前が食付くんだ」
サッと五段重を背後に隠して、サッと視線を逸らす。
「俺等の昼食ですから」
私の死亡フラグが立ちました。
お兄さんが平岡さんを連れて行ってくれた時、城さんも一緒に立ち上がって行ってくれたのが救いだった。三人の姿が見えなくなった所で、姉にメールを一通送った。
「あの、会長」
何故か妙に、蓮華先輩の妹にちょっかいを出す会長は最近楽しげだ。それは、最初に出会った、あの生徒会室の時から少しずつ気にしてきた。
「なんで、ハジメにこだわるんですか」
「こだわってるように見えた?」
「はい」
「翠もそう思う?」
「ああ」
三人並んで歩きながら、さっきから疑問に思っていた事を口に出す。
溜め込むのは、悠雅の事だけで充分だ。
「…まいったなー…」
本当に困った時、会長は頭を掻く癖があると、以前に佐賀が言っていた事を思い出す。
「……こんなつもりじゃ、なかったんだけどなぁ…」
会長がボソリとそんな事を言った事には、俺と城さんは気付かなかった




