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はい、本日は姉の所で体育大会があります。

がやがやワイワイ。外部からその体育大会を見に来ている他校生。主に女子が多く、男子も割かし多い。

そんな所に、私は重たい重箱を持って、保護者テントへ移動。保護者テントと言っても学校の生徒の身内であれば誰でも入れるというテントなので、気にしない。ちなみに私は去年と一昨年も、姉の応援で来ている。姉以外は基本的に目に入らないのだ。何故ならば、父さんから自家用カメラを渡されているからだ。この時、私はまさか盗撮されているとは夢にも思っていなかった。主にヤンデレ教師とか。とかとか。

「萌ー!」

「あ、姉ちゃん」

菫色のジャージに身を包んだ姉は、やはり美少女だ。隣に座っている小学生がドギマギしている。一体誰の身内なのだろうか。

「今何時だと思ってるの!!」

昼前ですが。

「重箱五段も埋めるの大変なんだよ。キッチンの破壊神にはわからないだろうけど」

「誰がキッチンの破壊神よ!」

「もう面倒臭くなってきたらからさ、適当に突っ込んできた」

栗金時は流石に作れないけど。前日準備をしたにも拘らず(三段用分)、父さんが「こんなの見つけてきた」と言って物置から見つけてきたのは、五段重だった。いつ、そんなの使う機会があったんだ。ないだろ、絶対に。そして、姉と私しか食べないのだからそんなには使わないだろう。と言えば、父さんは「携帯」というたった四文字。漢字にするとたった二文字の熟語に私は逆らえる事はできなかった。父さんは一番最初に、自分の連絡先を登録してほしかったのだという。娘バカめ。

「そっか。じゃあ行ってくるね。次は借り物競争なの」

「わかった」

えーと、カメラのセットはこれでいいっけ?

カメラを弄りながら、赤いランプが点灯しているのを確認して姉を一生懸命撮る。ちなみに我が家のドン達はお仕事で居ない。

もうすでに走者が走っているらしく、複数人の男性生徒が玉投げの用の玉の下に置かれた紙を次々に取って行く。しかし、えらく足が速い。なんというか全員陸上部員に見えてきた。そして、なんかやたら皆顔が良いような。なんだかんだ見ている内にその中の一人がこちらにやってきた。

全体的に色素の薄い人がやってきた。前髪は長いのに、吊り上った目は悪人面を強調している。確かにその顔立ちはとても整っているが、今までシャバの空気吸ってました感がこう、凄いというか。

「ひいいいいっ!!!?」

「あった!そこの女動くな!!」

「は、はいっ!」

もうすでに恐怖で動けません。

腰に手を差し込み、ヒョイっと持ち上げられた。最近こんな事多いが、私の体重、結構重いよ?姉の40キロ台と違って私もっとあるからね。

ちなみにカメラは置いてきた。余談だが、今日の私はスキニーの花柄パンツで、上は白いパーカーである。

一位とはいかないまでも、二位でゴールした私達は紙に書かれているモノをゴール傍に立っていた金髪の生徒が確認している。

「…………お前、ハジメか?」

「楓雅、知り合いか?」

「この間、ちょっと……。それよりこれ書いた人誰ですか。城先輩もよく見つけられましたね、安産型の尻なんて、一種のセクハラじゃないですか」

安産型の尻!!?

なんかそれ、最近よく耳にする。主に、颯とか颯とか颯とか。連絡先を交換した後、颯からのメールが凄かった。もといウザかった。十回に一回は安産型のお尻がどれほど良いかという話をされる。

「ついさっき見たからな。花柄スキニーパンツに白いパーカー。で、でっかい重箱が目印だ」

最後の余計。

その後、すぐに降ろされた私はやけに、自分のお尻を気にした。骨盤矯正しようかな。

そして、一位に到着した人の隣に座って、終わるのを待つ。

「佐賀?」

「…やっほー」

「………飼育員さん?」

強烈な印象を残したそのド派手な頭髪と、愛くるしい顔立ちは忘れられない。なんといっても、飼育員さんは大学生か、社会人のような落ち着いた雰囲気をだしていたのにも関わらず高校生だったのか。しかも私と同い年。

「飼育員?」

「ここの、学校の生徒だったんですか」

「城さんはそんなに気にしなくていいよ。ちょっと動物園で困ってた所を助けてあげただけだから」

「そうか。いまいち話がよく見えないな」

城さん、と呼ばれた人は体育座りをして、終わるのを待っていた。律儀だな、この人。

「律儀、って思った?」

「え?」

飼育員さんが複雑そうな笑みを浮かべた。

その表情になんの意味があるかはわからないけど、飼育員さんは、アホそうな頭髪でいるのに、今のその表情は、よく父さんが見せる笑みに近かった。

「………城さんは、自分を少しでもよく見せたい。表面だけの人間なんだよ」

「なんですか、それ」

「萌ちゃんはさ、どうしてここに来ちゃったの。萌ちゃんは、内側の方を見る人間だよ」

飼育員さんの言っている言葉がわからない。

「それだけじゃダメなんですか」

その言葉は、姉自身をも否定している。私は、姉が好きだ。この世でたった二人だけの姉妹。お互いが大切で、お互いを認め合っている。だからこそ、姉は家族を溺愛するし、そんな姉を、私も大好きなのだ。

「…え?」

私も城さんと飼育員さんの間に座り、グランドの土をぼんやり見る。

「綺麗なだけの世界なんてどこ行ったってありません。どこの世界だって、利用して利用されての世界です。優しさで世界を守れるなんてありえません。そこには何かしらの策略があるんです。それで、大抵の人が幸せになれるんですから安いものだと思います。だから、」

「偽善でも、人に幸せを与える事ならいいんじゃないか?って言いたいのか」

「はい」

城さんはウザったそうに髪を掻き揚げそうになって辞めた。自分のその顔付がコンプレックスなのだろうか。決して、その前髪を上げる事もなければ、横に流す事はない。

「俺は、そういう風には思えない。綺麗事は所詮綺麗ご」

「城先輩っ!!!なんで萌さんとゴールしてんスか!城先輩、何引いたんスか。安産型のお尻ッスか!!?なんで!俺が引く予定だったのに」

「颯、三位の旗のとこに座れ」

金髪の人が、颯の頭をグイグイと押して強制的に座らせる。なんで、紙の内容の中身を知っているんだ。

「せ、せめて萌さん、俺と城先輩の間に座ってほしいッス」

「っち。いや」

「舌打ち!?俺の横に来てくださいよ!俺が萌さんのお尻触れないじゃないッスか」

「萌ちゃん、もう保護者テントに戻りなよ。いいよね?楓雅」

「あー…いいんじゃ、ないか?」

飼育員さんが、私の顎を固定して颯の方が視界に入らないようにし、隣に座っている城さんは更に颯の視界に私が入らないように、身体を張ってくれている。

「ちょっと、待て。体育委員に確認を取る」

「早急にお願いね」

「なんなんスか!俺にも萌さん触らせてください!」

「颯、煩いぞ」

トランシーバーを使って体育委員とやらに連絡を取っている金髪の人は、颯を押さえつけるように、颯の頭に手を乗せて動きを封じている。

「……あぁ、保護者テントに戻って良いらしい」

「短い間ではありましたが、お世話になりました」

そして、私は逃げるようにその場から去り、再びカメラを構えた。今度こそ姉の勇姿をカメラに収める為だ。

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