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ど派手な二人だった。
金色に輝く頭髪は肩よりも長く、それでいて、全く不潔感はない。むしろより美しさを際立たせていた。
もう一人は、水色の髪を、緩いサイドテールにして、肩に流している。随分と中世的な顔をしていると思ってしまうのは、その髪色故だろうか。よくよく見れば、髪以外は似ているその二人は、共通して、肌が白く中世的な顔立ちで、長身で、スラッと伸びた手足は、世の男性が羨むんじゃないかという程。
まぁ、メンズ誌って見た事無いけど。芸能人よりは綺麗な顔立ちをしている。それも、この場に居る、斗鬼や平岡さんにも負けていない。
「佐賀に相談したい事があるんだが、」
「あぁ、特に双子の弟君は同類嫌悪って奴で嫌いかな」
ニッコリと、笑う平岡さんはこれ以上ないまでにキラキラしたオーラを放っていた。
「えぇー。僕は平岡さんのそんな所が割りと、好、き、だ、よ」
水色の彼も負けず劣らず、ぶりっ子で性格の悪い平岡さんを打ち返した。わざわざ「好きだよ」の部分を強調するように、区切りながら話した彼に、私の背中が粟立った。それは斗鬼も一緒だったのか、視線を若干下向きにしつつ、腕を擦っていた。その気持ち、おおいにわかります。
「それより、佐賀は?」
「あはははは。きっもちわるー」
そう微笑む平岡さんは、空気をあえて読んでいないのか、金髪の人をガン無視している。
「佐賀は?」
威圧を込めて言った金髪の手が、胃を抑えていた。
「佐賀先輩ならさっきまで居たと思ったんですが…」
ちなみに、私は佐賀という人を知らないが、斗鬼の言っている事は間違いないだろう。どう考えてもカップが一つ多いのだ。しかも飲み掛け。何故。
「………じゃあ、斗鬼でもいい」
「でもってなんですか。いいですよ、わかりました。コーヒーで良ければ淹れてきます。茶菓子はいつもの棚にあるので、自分で取ってください」
斗鬼がオカンのようだ。そして、その横で腹黒いやり取りをしている平岡さんと水色髪の背景はきっと、漫画だったら、真っ黒にベタ塗されている事だろう。
「悠雅を止めてくれ…!」
「お言葉ですが、僕には無理です」
悠雅、というのはきっと今現在進行形で、平岡さんと腹黒いやり取りをしている彼の事だろう。
「ところで、そこの女子生徒は」
「………か、彼女は…」
チラチラとこっちを見てくる斗鬼はきっと冷や汗ダクダクだろう。
一つ溜息を吐いて、私の隣に何気なく座っている金髪の彼に視線を向ける。
「実は私、記憶喪失なんです」
「は?」
二人共同じタイミングで同じ言葉を発したが、その意味合いは全くの別物である。斗鬼は冷たい目で私を見てきて、金髪の彼は私に同情の目を向けてきた。
「どこかで、後頭部を強打されたようで、頭は痛いしで散々になっていて気絶していた所、目を覚ましましたら、このソファで寝ていたんです」
「お、お前…っ!」
同情の、眼差しがより一層強くなった気がした。
「すまない、うちの会長が…!あの人の代わりに謝らせてください!」
何故か、全ての原因は平岡さんに押し付けられた。
私の真正面では斗鬼が、実に詰まらなそうにコーヒーを飲みながら、煎餅に齧り付いていた。
「……ひ、平岡さん…?」
思わず聞き返してしまった私に、金髪の彼は平岡さんに指をさして、言った。
「あそこの性格悪そうな茶髪が、平岡さんです」
知ってます。
きっと、斗鬼も同じ事を思ったのだろう。さっきまでなかった眉間に、皺が寄っていた。
「仕事は全部、佐賀と和泉さんに任せっきりだし、うちの弟が来るとあーやって、口喧嘩ばかり。蓮華先輩が居れば、多少はマシですが、それでも蓮華先輩に引っ付きながら嫌味の応酬を繰り返すばかりで、俺は兄としてどうやってアイツを止めたらいいのか、どう接したらいいのか、わからなくて、いつも佐賀に相談しているんだ」
「その事について、人選間違ってるって何度言わせたら気が済むのか相談したいんだけど」
とりあえず、あれを止める良い方法が思いつかないとそう言いたいのか。チラリと二人を見やれば、放送禁止用語が乱舞していた。聞かなかった事にしたいが、一度気にし出すと自然と耳に入ってくる。精神衛生上、大変悪いです。
「ちなみに、今までどんな対処法があったんですか」
「佐賀には、面倒だから兄弟の縁切ってしまえばと言われました」
いきなり最終的な所から手を出したのか。それは最初に相談されて言う事じゃない。
「ですが、それは出来るはずなく、一週間程悩みましたが、結局拒否しました」
……一週間も、そんなに真剣に悩む事?
所詮、それは高校生の戯れ事というやつで、本気ではない。簡単に言うとからかわれているのだ。
「和泉さんにも佐賀と全く同じ事を言われました」
「補足すると、その時の和泉先輩は悠雅の詰まらない悪戯に引っ掛かってボロボロだったんだけどね」
……時と場合によるって事か。
ていうか、タイミング悪すぎるというか、どれだけあの水色頭に悩まされ続けてきたのだろうか、とそっちが気になる。あ、後、私の姉ちゃんが姉ちゃんで良かった。あの人相手なら、そこまで悩む事はないだろう。ちょっと周りが煩わしいというだけで、私はあまり気にしない。主に、比べられるという意味合いで、だが。姉は姉。私は私。世の中には、同レベルの兄弟と、どちらかのレベルが高くて、どちらかのレベルが低い兄弟とか沢山居るのだ。遺伝子が同じだろうと、考え方や興味の対象、行動に知能、容姿等全て一緒な兄弟なんて気持ち悪いだけではないか。
「…逆に考えてみればいいのではないでしょうか」
「逆?」
「はい。例えば、平岡さんが二人居ると考えてみるとか」
「気持ち悪い事言わないでくれる!?」
「学園が崩壊するぞ、それは…!」
「失礼だね、君達」
自分の悪口には敏感なのか、尽かさず平岡さんからのツッコミが入る。
「それに比べ、あの水色頭は一人じゃないですか。何か悪さする毎に、食卓やお弁当箱の中身をなすびとピーマンで埋めてしまえばいいんです」
ちなみに、姉の嫌いな食べ物の代表である。
「それでも辞めないなら、彼の服一式を女物に変えてみるとかいかがですか」
思考の海に落ちたらしい、金髪の彼は声を掛けても反応しなくなった。
「萌も充分性格悪いよね」
「私の考えじゃないし。父さんの考えだし」
さも当然といった顔で言った所、斗鬼の同情心を煽ったのか、とんでもない事を言い出した。
「それは、細い紐を首に括り付けて、大型バイクで引き摺り回したかった、とかそんな事を考えていた親?」
「逆にそれは誰の親なの?」
純粋な問い掛けに、斗鬼は視線を逸らした。




