第19話.場所がわかった!
「発信機の反応が出た。この近くだ、半径25メートル以内に発信機がある」
ぴたりと足を止めたミカが言った。四人の間ににわかに緊張が走る。雑踏の真ん中。人通りは多いが、あの仮面の人間たちを視界に捉えることはできない。
「どこに?隠れてるってこと?」
「精度が悪くてすまないが、これ以上絞り込むことはできない。わかることは25メートル以内に反応があるってことだけだ」
「なるほど」
「ここからはしらみ潰しだな」
「オーケー。裏道からゴミ箱の中まで探していこうか」
ナナコがそう言いうと、それぞれが周囲を見回した。しかし、裏道からゴミ箱の中まで探してもあの時の仮面たちの影も形もない。
「いないんだけど。その発信機って本当に大丈夫?半径25メートルってそんな隠れる場所ないよ」
「機能に問題はないと思うんだがな」
メイがぴたっと足を止める。一瞬の間の後に言った。
「半径25メートルって」
「ああ」
「球ってこと?」
ミカが目線を下に向ける。
「地下か」
手分けしてもう一度探索すると、一軒の空き家の中に地下に通じる階段を見つけた。地上の喧騒と暑さに対して、空気からはひやっとした冷気を感じる。
「どうしましょう、そのまま入っちゃって大丈夫でしょうか」
「んー。そうだね、何か作戦はある?」
「え!?作戦ですか、催涙弾を中にほうりこむとかですか」
ミカがホルスターから拳銃を取り出して、弾薬を確認しながら言う。
「適当にガスなんぞ使ったら我々も突入できなくなるぞ。ちょっと人探しをするだけだ、必要なのは作戦じゃなく挨拶だな。他人の家にあがるんだ、お邪魔しますって言いな」
「そうだね、お邪魔します」
堂々と正面から侵入していく四人。地下室というより洞窟の方が近いだろうか。何人かで手分けして掘られたような、場所によって素材とクオリティの違う地下道を進む。空気は少し湿っていて冷たい。いくつかの分かれ道を超えて、背丈ギリギリの天井の低い小部屋に行き着いた。
「待て、これは見覚えがある」
そこには壁に乱雑にかけられている仮面と、真っ黒な戦闘服。あの時襲撃者らが着けていたものと同じ物のようだ。
「これって」
「奴等の装備だな。私がつけた発信機は……ここだ」
ミカは小さな金属の装置を、戦闘服の端から取り出した。
「あら、本体はいなくて服だけかぁ」
「そうだな、足取りはここまでか。何か手がかりがあれば」
そう良いながら部屋を物色していく。壁に立てかけるように銃がいくつも並んでいる。机の上には何かの機材も置かれている。
「何か色々機材も置いてるね」
「リロードの機材だな」
「リロード?」
言いながらナナコが拳銃の弾倉を交換するジェスチャーをする。
「ああ、いや。そうじゃない。なんて言えば良いか。実包を組み立てる機会とでもいうべきか」
「銃の弾を作ってる?」
「そうだな」
「へぇ、銃弾って手作りするんだ」
「どこかの神さまみたいに空中から鉄砲の弾が湧いてくるわけじゃないからな。人間は人の手で一つずつ作るんだよ。きっちり火薬の量も計ってな」
「そっか」
話をしながら探索を続けていると、奥の方から何者かの声が聞こえた。
「誰かいるのか〜?」
「……ふぁ」
思わず返事をしようとするメイの口にミカが手のひらで蓋をした。人差し指を唇に当てて静かにしろとジェスチャーをする。四人はわかれて近くに隠れた。
「誰もいないのか〜?」
言いながら足音が近づいてきた。物陰に潜んだまま息を殺す四人。地下室ゆえの暗さで気がつかず、いよいよ目の前に迫った時にミカが拳銃を抜いて飛び出した。片手で腕を後ろ手に捻りあげると、もう一つの手で背中に拳銃を押し付ける。
「動くな!」
「うげっ!?」
ドンっと音を立てて身体を机に押し付ける。
「よし。背中に銃が当たってるのがわかるだろう?動くんじゃない。引き金に指が入ってしまってるんだ、揺れると思わず引き金を引いてしまうかもしれん」
「痛い、痛い!」
ミカがさらに拘束する腕にグッと力を込めた
「っ!!??」
「よし、大人しくしろ。そして口を閉じろ。良いな?地下は暗くて手元が狂うぞ。大きな声を出されたら慌てて撃ってしまう」
一呼吸置いて、ミカが続ける。
「大きな声はいらない、地下は響くからな。子供を寝かしつけるような優しい声で喋るんだよ。わかるな?」
拘束された女が黙って頷いた。背丈はミカと同じくらい、ピンと立った獣耳が頭の上に乗っかっている。苦しそうに眉間にしわを寄せている、ミカたちと同族に見える。
「よし。わかったら黙って首を縦に振れよ。口からくだらないものをひねり出すのはそれからだ」
女が黙って頷くのを確認すると、ミカは続ける。
「名前は」
「な、名前?」
「おいおいおい。お前の名前を聞いてるんだよ、他に誰がいるんだ?」
同族をひねりあげて尋問するミカ、そこに容赦はない。
「なんかミカちゃん怖いね〜」
「ね〜」
「うるさいよ!こっちは一生懸命やってるんだから邪魔をしないでくれるか」
ナナコとメイの言葉にミカが言い返した。
「は〜い」
「お前たち、なんでもできるからって緊張感なさすぎだぞ。まぁ良い」
ほら、とミカに促されて拘束された少女が口を開いた。
「な、名前は、ツムギ」
「よし。じゃあツムギ、端的に聞くぞ。先日の空飛ぶ魚号の襲撃者はどこだ」
「襲撃者?」
言った瞬間にミカがグッと力を込めて彼女の腕をひねる。
「ぐぎ!」
「どこだ?と聞かれたら場所を答えるんだよ。見当違いな言葉を吐くんじゃない」
「ふふふ……」
にやけ顔を浮かべる女を見て、ミカはもう一度無言で締め付けを強くする。
「っ!あれらは第一発掘現場に向かっているはずだよ」
「第一発掘場だと?あそこはもう掘り尽くして、今は無人の施設のはずだが」
「それが地下深くに居たんだ。旧世界の支配者が、それはエルフが神と呼ぶモノだ。見つけたんだよ」
「なに?」
「だから見つけたんだ。旧世界の支配者を、彼らは生きている。神話の世界の生き証人だ、まさに神の復活なんだ!」
ツムギと名乗った少女は続ける。その瞳からはどこか狂気を感じる。地下室の頼りない灯りがジジっと音を立てた。チカチカと弱々しく明滅する。
「わからないの?いけよ彼の地へ。穴掘り狐を追って、奈落の底を覗いてこい。我々は辿り着いてしまった、獣人もエルフも関係ない。神が望むならネズミの古巣に火ぐらい放つさ。お前たちも行けばわかるよ」
「神さまならここにもういるさ」
ミカがそういうと、ツムギは口角を上げた。腕をひねられたまま、不敵な笑みを浮かべている。
「……」
「……」
しばらくするとツムギが口を開いた。
「あの、もしもし」
「……ん?」
「良ければ、そろそろ捻り上げている腕を離してもらえないでしょうか。聞くことが無いなら。ずっと痛いんですけど」
ミカは他の三人に視線を送ったあと、ツムギを解放した。
「ああ、ほら。うたってくれてどうもありがとう。これでお前は自由の身だ」
ツムギと名乗った女を解放した。彼女はミカをジトっと睨みながら、ひねられていた手首をさすっている。
「この隠れ家、もう少しセキュリティをしっかりした方が良いぞ。悪いやつが入ってくるかもしれん」
「いたた……そうだね。暴力ネズミが出て行ったら、すぐに戸締りをすることに決めたよ。南京錠をいくつか買ってきた方が良さそうだ」
そうして穴倉から外に出た四人は、太陽の光に目をくらませながら言った。
「さあ追い込んできたぞ」




