第18話.発信機はどっち!?
砂漠の上を煙を吹いて疾走する一つの車。大きなピックアップトラックのハンドルをミカが握っていた。だだっ広い砂の丘を、たった一台だけが大きなエンジン音を響かせながら走っている。
「ミカちゃん、本当に一緒にきて大丈夫なんだよね」
「ん?どう言う意味だ」
「ほら。上司っていうか、あの船長ちゃんの許可とか?」
慣れた手つきでエアコンの吹き出し口を操作しながらミカは言う。
「ああ、話はしたよ。それにアレとはいまさら上司と部下って関係でもない」
「そうなの?」
「私の姉だよ、アレは。双子のな」
「あ、そうなんだ。確かに髪の毛の感じとか似てるよね」
人差し指と親指で、自分の髪の色をつまんで見せる。
「ふっ、白兎みたいだろう?」
「んー。うさぎって感じはしないかな、だって耳が違うし。ちゃんと褒め言葉を選べるかわからないけど、私は綺麗だなって思ったよ」
そうか、と笑ってミカは前を向き直った。
「それで、発信機の場所までってどれくらいかかりそう?」
「そうだな。一時間くらいか。ちょっとした町だな、砂漠の外の人間と砂漠の中の人間が交流する場所だ。物も人も色々集まってる」
「へぇ、面白そうだね」
「面白い。そうだな、活気のある場所だ」
……
町には石造りの家が並んでいた。旧世界の文明を利用していた砂エルフや獣耳たちとは毛色が違う。踏み固められた道には屋台が並び、ラクダや牛などをひいた人間もいた。
「沢山人が居ますね、獣耳の人もいるし、砂エルフも。あっ、あの人は頭に鳥の羽がある!」
「おい。あんまり他人の見た目についてなんのかのと喋るんじゃない。上品とは言えんぞ」
「す、すみません」
興奮したスイカをミカが諌めた。
「それで、これからどこに行けば良いの?」
「ふむ、発信機の電波が良くないな。近づけば反応すると思うから、少し歩き回る必要があるか。砂が舞うと電波が遮断されるんだ」
「そっか、ちょうど町の観光もできていいね」
ナナコが言う。
「……ちゅーちゅー」
どこで手に入れたのか、知らないうちにメイがエナジードリンクの缶から飛び出たストローを咥えていた。
「あ、メイ。またエナドリ」
「んー?」
「エナドリばっかりで、ちゃんとご飯食べてる?」
「ん?」
「ん、じゃなくて。大丈夫?ご飯食べてるの?」
「昨日食べた〜」
「昨日とかじゃなくて、ご飯は毎日食べなよ。エナドリばっかり飲んで食べないと健康に悪いよ」
「あーい」
スイカはメイ以外の二人に向きなおって言った。大通りの左右には食べ物の屋台が並んでおり、それぞれが良い匂いを漂わせている。
「いっぱいお店出てるし、何か食べませんか?」
「良いね!食べよう食べよう。あのパンみたいなやつ気になる!」
ナナコがのっかる。言うが早いか早速一つの屋台を見つけて店の人に話しかける。
「お姉さん、それなに。パン?」
「パンみたいなものだね、揚げてるよ。中身は豆とじゃがいも」
「じゃあ両方四つずつ!」
「まいど!」
四人並んで揚げたパンをかじる。バターの風味が口中に広がる。
「あつっ、うわっ!?中からバターがたれて来たよ」
「美味しい!ジャガイモにバターと油の暴力が加わって、カロリーかけるカロリーって感じですね!」
「これで健康になる」
「……健康?」
メイの健康発言にミカの頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。油を油で揚げるようなカロリー爆弾が健康とは。揚げパンを食べ終わる頃に、スイカがまた別の食べ物を人数分持ってきた。手のひらより大きなそれらにメイが後ずさりする。
「何これ」
「さあ、クレープみたいな感じかな。チーズが大量に入ってたから買っちゃった。これは絶対美味しいと思う。とろとろチーズが人間を裏切ったことは歴史上ないから」
「もう食べられない」
メイがギブアップした。じゃあとミカに渡すもそれも辞退される。
「もう先のパン一個で十分だ」
「えぇ、じゃあ……ナナコ先輩?」
「んー。一個だけ」
スイカの手からクレープを一つ取る。三つの巨大なチーズクレープがスイカの手元に残った。
「じゃあ三つとも食べちゃいますよ。ああ!?安心安全のとろとろチーズ!」
「……おぉ」
ぱくぱくとチーズの塊を綺麗に平らげてしまったスイカを見て、ミカはなんとも言えない声を出した。
「ちょっと眠くなってきたかも。眠気覚ましにデザートが必要ですね」
「いや、眠くない。デザートも必要ない」
「私には必要なんです。デザートが!甘味がないと脳にエネルギーが!脳には糖分が沢山必要なんです」
炭水化物にはない糖分の重要性を話しながら、スイカは近くのお店で甘い豆のドーナツを四つ買った。当然ながらメイとミカが断ったため、彼女の手の中に三つのドーナツが残った。
「ああ、しょうがないなぁ。二人ともいらないなら勿体無いから私が食べちゃいますね」
「わざとやってるのか?」
あっと言う間にドーナツが消えた。
「うーん。やっぱり水分補給が必要ですね」
「水ならあるぞ」
「いえ、水はちょっと。ミネラルとの兼ね合いが良くないから。あっフルーツならちょうどミネラルも水分も適量含んでいますね」
そう言いながらスイカがフルーツをカットしているお姉さんに近づいていく。三分後、山盛りにカットされた果物のお皿を抱えたスイカが帰ってきた。満面の笑みで。
「それ、全部食べきれるか?」
「みんなで食べたら大丈夫ですよ」
結局、九割スイカが食べた。
「お腹いっぱいですね」
「ああ、そして発信機の場所がわかった」
ミカがそう言った。




