第12話.発掘現場へいくぞ!
「んー。旧人類への手がかりが欲しいね」
「船長さん、旧人類って今はどこにもいないんですよね?」
「いないも何も何千年も前の伝承だよ。いるはずもないし、実在したという証拠もない。ただ口伝で語り継がれているだけだ」
「そっか」
「もし望むなら、今我々が発掘中の現場を見学していくかね。それが君らの助けになるのかはわからんが」
「できるなら、ぜひお願いしたいです」
船長はその言葉に頷いて見せる。
「ところで、発掘の現場ってどうやって決めてるんですか」
「だいたい事前調査でアタリをつけている。次は先程四脚戦車が出現したというエリアの予定だったのだが、砂エルフとかち合ってしまったからな。予定変更せざるを得ない」
華奢な身体には似合わない声色で、船長はひとつ溜息をついた。
「権利を主張するだけで新人類の発展に寄与しない。何も見えていない砂エルフどもには我々も困っているのだがね」
「はは……」
スイカは苦笑いを浮かべた。アリサたち砂エルフが獣耳の人たちの話をする時の言いようも凄かったが、逆側からもやはり恨みつらみが溜まっているらしい。
「砂エルフちゃん達とのいざこざはいつから続いてるの?」
「……考えたこともなかったな。生まれた時からそう決まっていた気がする」
「ふぅん」
ご馳走様、と二人は同時にコーヒーカップを置いた。
「この飛行船は今、第三発掘現場に向かっている。到着はおよそ6時間後になるだろう」
「6時間?結構かかるんだね」
「砂漠は広いからな。いくつかの場所を掘っているが当たりもあればハズレもある」
船長は立ち上がって言った。話は終わりらしい。
「何にせよ君らは客人だ。部屋を一つ用意してあるから、そこで仮眠でもとっておくと良い」
「ありがとうございます」
二人が礼をすると、船長は部屋を出て行った。入れ替わりに一人の少女が部屋に入ってくる。
「あっ、ミカちゃん」
「部屋を案内する」
ミカはボロボロの戦闘服ではなく、ぴかぴかの軍服に着替えていた。
「怪我は大丈夫?」
「この程度は負傷にもならん。良いからついてこい」
そう言って案内されたのは、荷物置き場かと思うような小さな部屋だった。実際木箱がいくつか積み上がっている上に、埃っぽい。
「飛行船だからな、居住スペースはそんなに広くない。申し訳ないが……」
「さんきゅー!ミカちゃん!」
バツが悪そうなミカをナナコが抱きしめた。獣耳をさわると、やめろやめろとミカが手を振った。
「はぁ、はぁ。とにかく、私はもう行く。この部屋では自由にしててくれ」
ミカは赤くなりながらそう言って去っていった。そして6時間後。小さなはめ込み式の窓の外に太陽が再び昇っているのが見える。乱雑に積まれた荷物の隙間で眠っていたスイカが目を覚ます。ナナコはまだ半分目を瞑っている。寝ぼけているらしい。
「到着したみたいですね」
「うん〜〜?」
扉を開けて外に出る。そこら中から忙しいそうな声が聞こえてくる。通路の向こう側からミカが歩いてきた。
「到着したぞ、船を降りる。準備はいいか」
「はい」
「何を持っている」
「ん〜〜?」
ナナコが小脇に抱えている枕を見てミカがつっこんだ。彼女がぼうっとしたまま指を振ると枕が消えた。
「準備はいいのか?」
「……うん。寝てないよ〜」
「あはは」
目をこすりながらナナコが返事をする。スイカは笑い声で答えた。
「まぁ良い。行こう」
踵を返して外に向かうミカ。二人もそれに続く。鉄板でできた無愛想なタラップを降りる。一晩振りの砂の大地が彼女たちを迎えた。東に昇る太陽が全てを美しく照らしている。乾燥した風が一つ吹いた。乾いた砂の独特なお日様の香りが運ばれてくる。
「んー。目が覚めた」
「すごいですね」
大型のダンプや重機がそこかしこで動き回り、砂や瓦礫を掘ってはどこかへ運搬している。大規模な採石場のような様子だ。慌ただしさを感じる中、ミカは一歩足を踏み出した。
「この現場は、もうほとんど掘り尽くされた後だ。我々はこのような発掘場をいくつか持っている」
「へぇ〜」
「こちらでも四脚戦車が出土している。現在掘り出しているところだが、起動したという話は聞いていない」
「昨晩動いていたゴーレムはレアケースなんだ?」
「動くのを確認したのは初めてだな。化石燃料で動く戦車は起動することができた。しかし、まだあのデカブツは動力すら解析できていない」
「なるほどね〜」
制服の視察団は「あれは何だこれは何だ」と質問しながら大きな採掘場を一周した。車両や建物の一部など、一部の出土品は砂の下から出たものだとは思えないほどに形を残していた。原始的なものであれば、砂を払えば直ちに稼働する火器すらも見られた。まるで一生懸命手入れを続けたアンティークのように。
「こんなに綺麗に保存されているなんて」
「想像以上だよね。不思議だ」
スイカの独り言にナナコが答えた。
「でも武器ばっかりですね」
「そりゃ必要ですから、優先して掘っているんですよ」
作業中のゴーグルをつけた少女が振り返って言った。手にはハンマーのような道具を握っている。
「戦いに使う道具以外にも、生活に使う道具もあれば、当時の生活を知る手がかりも出てきます。でも今の世の中で一番必要なのは」
「武器ってこと?」
「そうです」
「そんなに荒れてるんだ」
「それは……」
ゴーグルの少女が何か言う前に、ミカが入ってくる。
「もし地面の下に自分たちを滅ぼせるような強力な兵器が眠っていたらどうする?それを自分たち以外の人間が手にしたら?」
「んー」
「今は小競り合いだ。大きな戦争もない。だが砂漠の中での争いもあれば、当然砂漠の外からの圧力もある。身を守るためにも抑止力が必要だ」
ふぅっと息を一つ。
「別に理解して欲しいとは思っていない」
「まぁ理屈はわかるよ」
「そうか」
さて、とミカが続ける。
「私はもう行くが、お前たちは好きにしたら良い。しばらくは飛行船もここに停泊する予定だ。船内のあの部屋は自由に使ってくれて構わない」
「部屋ってあの物置……あ、いや、ありがとうございます」
「私も持ち場に戻ります」
そう言って、ミカとゴーグルの少女は去って行った。二人残されて、これからどうしたものかと思った時、物陰から見覚えのある黒い頭がにょきっと姿を現した。
「あ、メイちゃん」
「うん」
「メイ、どうしたの?」
メイがひらひらと手を振って応える。
「ちょっと、話したい」
「ん〜。じゃあ、一旦部室戻ろうか」
「あい」




