第10話.超音速でぶっとぶ!
「さあて、じゃあぶっ飛ばしちゃおうか」
ナナコが立ち上がった。腕を組んで、まっすぐにゴーレムと呼ばれた四脚の機械を見据える。紺色のスカートが風になびいた。空中から虹色の光が漏れ出たと思うと、大きな砲が彼女の左右に一門ずつ出現した。電磁加速砲だ、弾体を電磁気力で加速させて射出させる兵器。長大な砲身は個人が使用するには大きすぎるだろう。
「はじけろ!」
ナナコの掛け声と共に砲塔がキラリと光った。超音速の弾体が、衝撃波と共に音を割って宙を駆けた。光を伴ってゴーレムの腹部にぶち当たる、真っ黒な外殻の装甲がチョコレートみたいに溶けて貫通した。
キュボッ!
不思議な音を響かせて、その胴腹に二つの穴があいた。光の筋はそのまま反対側まで貫通して、入場した穴とは比較にならないほどの大きな裂け目を反対側に生じさせた。内容物が粉砕されて飛び出す。巨大な金属の塊が、一瞬宙に浮くほどの衝撃。ぱちぱちと火花が弾けるような音がする。誰が見たって再起不能なのは確実だ。
「んー。ちょっとやりすぎたかなぁ」
片割れが突然機能停止に追いやられ、何かを感じ取ったのか、もう一体のゴーレムが急遽方向転換してナナコの方を向いた。
「先輩!ナナコ先輩ー!気をつけて!」
「大丈夫……って、うぇえ!?」
スイカが何かをゴーレムに向けて投げつけた。大きく振りかぶって手から放たれたそれは、どこかで拾ったような金属片だった。一瞬手元で光ったと思うと、不自然な加速でゴーレムの足の関節にぶち当たって、それを折り砕いた。砕け散ったかけらがナナコの側をかすめて飛んでいった。たまらず彼女はその場にふせる。
「ちょっ!?っと危なかったかも!?」
「すみません!次は真ん中に当てます!」
そう宣言すると、もう一発。先ほどよりも大ぶりな獲物を手に持つと、大きく振りかぶって投擲した。またも手から離れた瞬間に加速して、目にも追えないスピードでゴーレムの胴体にぶち当たった。べごんと大きな音を立てて装甲が凹む。光の破片が周囲に飛び散った。バランスを崩したゴーレムはよろめき、そのまま自分が這い出てきた地の裂け目に転落していった。轟音を立て砂煙を上げながら暗闇に落ちて消える。
「大丈夫ですか!?すみません!」
「んー。大丈夫大丈夫!ナイス援護!」
ナナコにスイカが駆け寄って謝る。ナナコはにっと笑顔を見せながら、スイカの肩を叩いた。二人で奈落を覗き込む。どうやらあのゴーレムが戻ってくることはなさそうだ。
「結構大変だったね」
「疲れました」
「負傷した人は……?」
「エルフの方々は、メイが守っていたので大丈夫だと思います」
「それなら大丈夫だね、スイカちゃんも怪我はない?」
「全然平気です!」
「じゃあ一件落着だ」
顔を上げると、はるか上空よりエンジン音が聞こえる。気がつけば空には大きな飛行船が浮かんでいた。
「本当に倒してしまうとはな」
どこに隠していたのか、小さなライトを手に持ちながら瓦礫の中からミカが這い出てきた。チカチカと上空を飛ぶ飛行船に何かしらの信号を送っている。
「獣耳ちゃん、お迎えかな?」
「そうだ。本当にお前たちも行くのか?」
「もちろん。私はついていくよ!」
「ええ!?」
スイカが驚きの声をあげた。
「いつ決めたんですか?」
「さっき。獣耳ちゃんたちの方も見てみようと思ってね。スイカちゃんとメイちゃんはどうする?」
「私は、私は一緒に行きます。メイは……?」
そう言って探すと、にゅっと近くの建物からメイが顔を出した。
「僕はまだ砂エルフたちと一瞬にいるよ。この砂と、あとこの機械人形も調べてみる」
「そっか。じゃあまたあとでね!」
「あい」
メイがひらひらと適当に手を振る。上空から縄梯子が降ろされた。風に流されながら揺れるそれをミカは器用に掴む。
「よし、捕まれ!」
「オッケー!よろしく」
「お願いします!」
しっかりと三人が縄梯子を掴むと、上空を泳ぐ大きな魚はさらに高度を上げた。プロペラの音が夜の空に響く。
「じゃあ、メイちゃんまたね!アリサちゃんもまた会おうー!」
「さよならー!」
大きな声で、夜空を飛びながらナナコとスイカはお別れの挨拶をした。突然の出来事に、ぼうっと見上げるもの、何か言うものなど対応は様々だ。エルフからすると敵の飛行船ということになるが、しかしこれに対して攻撃するものは一人も居なかった。長老とアリサもメイの隣で笑顔で手を振っている。エンジン音は遠ざかり、夜の闇に消えていった。




