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第三十五話 間奏〜或いは小夜曲〜


――ピロリン♪

『最後の文章を読ませて貰った。御苦労様。お陰で必要なピースは全て揃った。彼らはこの事件を無事に解決できるだろう。約束通り、キミは解放しよう』

「本当か⁉︎」

“ガチャリ……バタン”

 廊下の奥でドアの開閉する音がした。恐る恐る廊下を窺うと、もう人の気配は無かった。

――ピロリン♪

『私は約束を守るのさ、これで終幕だ』

 終幕……その文字を見た瞬間、身体からどっと力が抜けた。同時に耐え難い疲労感と空腹が襲ってくるのを感じる。すると脚本家が部屋に入ってきた。

「お疲れ様!いやぁ、良かったよ。夜食でも食おうや」

「今回のは本当に疲れた……舞台本番以上の疲れだ。しかし原稿に無いアドリブを演じさせるなんてどういうつもりだ?唐突な展開が続いて、本当に事件が起きたかと思ったよ」

「悪かったなぁ。ほら、前に稽古中いきなりアドリブ始めて、脚本を全部書き直す羽目になった時があったろう?モデルと演ったヤツ。あの逆を試してみたくなったんさ」

「仕返しのつもりかい、一人何役させるんだ」

「悪かったよ。お陰で良い作品になりそうだ」

 そんな会話をしながらエントランスホールへと移動する。天窓から見える空は薄らと白けていた。もう明け方か……

「今夜の夜食はなんだろうな」

「もう夜じゃないな、早めの朝食になっちまった」

 アポロン像の横を抜けて厨房へと入る。業務用の大型冷蔵庫を覗くといつも通り、脚本家と俳優の棚にプレートが並んでいた。この冷蔵庫は特注品で、中の棚が細かく区分されており、文化荘の住人全員分の食事が給食よろしくプレートに乗せられて各自の棚に入る様になっている。それぞれの住人のアレルギーや好み別に料理を提供する為という建前ではあるが、実際は料理家が作り置きでも自分の料理は最高の状態で出したいと言って聞かなかったからだった。


「俺様の料理は味だけじゃなく、見た目も食事の一部なんだ。調理してその場で食べて貰うのがライブだとしたら、作り置きの料理は謂わば展覧会ってとこだな」


 料理家は一皿ずつ盛り付けた料理を、更に彼自身がプレートに並べた状態で提供しなければ納得しなかった。この冷蔵庫は料理家の展示会場として、特別に設置されたのだ。

 今回の夜食はビーフシチューだった。プレートには付け合わせのパンとツマミのチーズが美しく添えられている。電子レンジで温めて食べた。

「美味いな」

「あぁ、稽古のあとの飯は格別だ」

 二人はあっという間に食べ終えるとプレートをシンクへ片付けた。

「今回も面白い舞台になりそうだよ」

「そうでなきゃ困る」

「ありがとな。じゃ、おやすみ」

「はいよ、おやすみ」

 部屋に戻ると、僕はたまらず布団へと倒れ込んだ。

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