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人工精霊と謎の種X 7

 投げ出したのは、花の種子。


 ナノハナ。


 コスモス。


 オミナエシ。


 ローズマリーに、ヤマツツジ。


 その他、諸々。


 前世ではそんな風に呼ばれていた、色とりどりの花の種子だ。


 趣味で栽培していた花々を、一気に開花させる。


 柔らかい下草と低木の若草と花、リィトの身体を受け止めた。


「……ぷはっ!」


 花のクッションから顔を出す。


 東の山が目の前に広がっていた。


 さきほどの荒野よりは柔らかい土。


 水を含んだ土の匂いがする。


 大の字に寝転がる。空が、青い。


「……ふふ、あっはは」


 いやぁ、本当に楽しいなぁ。


 リィトは上機嫌だった。


 ──投げ出された荷物が、ほとんど壊れていることに気がつくまでは。



 ◆



 テント。


 焚き火台、ランプ。


 折りたたみテーブルとチェア。


 ……すべて破損してしまった。


 無事なのは毛布くらいだ。苦労して運んだのに、まさか到着初日に破損するとは思わなかった。


 上手くいってばかりじゃつまらないとはいえ、これはツイてなさすぎる。


 リィト自身が身につけていた、種子入れのポシェットや貴重品は無事だったのが不幸中の幸いだ。


「ま、特にこいつが無事でよかったよ」


 謎の種X。


 隠居生活のお楽しみのひとつが、こいつの育成だ。


 数年間の宮廷魔導師としての社畜生活で得た退職金代わりだ。ここで紛失でもしようものなら立ち直れない。


 無くさないように、謎の種X入りの小瓶をポシェットの奥に改めて押し込んでおく。


「しかし、悠長なこと言ってられなくなったな……」


 テントも焚き火台も、簡易家具も何もなくなってしまった。


 せめて今夜寝泊まりする場所くらいは確保しないと、野宿だ。それはさすがに、ちょっと嫌だ。


 仕方がない。


 ベンリ草の出番のようだ。



 さて、と。


 リィトはかろうじて無事だった杖を構える。


 別に杖なんてなくても魔法は使えるが、こういうのは気分が大切だ。


 宮廷魔導師時代は、「杖なんて使うやつはニワカ」みたいな風潮があったので無駄に指パッチンとかしていた。かっこいいと思うんだけどね、杖。


「まずは小屋だね。すくすくと育て!」


 杖を掲げて、〈生命促進〉の魔法を使う。



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