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クレアの実家に直接乗り込もうとしてマリリエンヌとバーナードに止められる(へたれコース)/さらに推察を重ねクレアの笑顔を取り戻す計画を練り上げる(へたれ返上?コース)
→へたれコースに進みました
ルイスはもたれかかっていたマントルピースから離れると、まっすぐ廊下に続く扉に向かおうとした。
それをバーナードが二の腕を掴んで止める。
「どこへいくんです?」
「これからクレアの実家に行く」
冷静なバーナードの言葉にルイスも冷静に返すと、バーナードは眉一つ上げず淡々と尋ねてくる。
「どうしてですか?」
「そんなことわかり切ってるだろう! クレアの父親に一言言ってやるためだ!」
いい加減腹が立ってルイスが声を荒げると、ルイスの腕を離そうとしないバーナードは“救いようがない”と言いたげに首を横に振って深いため息をつく。
「正真正銘の馬鹿ですか、あんたは」
「何だと!」
すかさず怒鳴るルイスに、バーナードは呆れて肩をすくめる。
「馬鹿じゃないとしたら何だというんです? 直接乗り込んでいって“あんたの娘だろう。愛してやれよ”と言ったところで、父親がクレア奥様を愛せるようになるわけないじゃないですか。それどころか、そんな騒ぎを起こせば、父親は一層頑なにクレア奥様を拒絶するに決まってます」
もっともなことを言われ、ルイスは息を詰まらせる。
反論の言葉のないルイスに、マリリエンヌもため息混じりに言った。
「バーナードさんの言う通りです、ご主人様。言うだけなら、クレア奥様とお父上を心配する人たちが、何度も何度も言ってきました。クレア奥様のお父上は、そういった人たちに背を向けて、よからぬ噂のある後妻の実家やその関係者との付き合いを深めていったんです」
「“よからぬ噂”?」
ルイスは不穏なその言葉に眉をしかめる。
マリリエンヌは他人を憚るように声をひそめて話した。
「後妻の実家は成り金なんですが、表で貿易商を営みながら裏では怪しげなことに手を染めているらしいんです。クレア奥様の実家の名前は、地元以外でも通用しますからね。今のところ聞きませんが、名前を悪用されてるんじゃないかと地元のみんなは心配しています」
聞かれないようにとのマリリエンヌの配慮を無視して、ルイスは部屋の中に響くほどの声を上げた。
「それこそ止めなきゃいけないじゃないか! 愛する父親が危険にさらされてると知って、クレアが心を痛めないわけがないだろう!」
父親からの愛情を奪ったルイスを憎んでさえいるだろうに、凍りついたような無表情でただルイスとの結婚を受け入れた。
そうすれば、父親の愛情が少しでも戻ってくるかもしれない。そう思ったのかもしれない。
けれどそれは失望に終わり、生家からも切り離されて、彼女の希望は潰えてしまった。
だが、だからといって肉親への愛情が消えるわけじゃない。
愛されないからといって簡単に愛することをやめられるものじゃない。
愛しているのなら、その人の身を案じて当然じゃないか。
二の腕を捕まえる手を振りほどき、睨みつけるような目を向けると、バーナードは冷ややかなまなざしを送ってくる。
「よくおわかりで。その通りだとわたしも思います。結婚することで嫌いな父親から離れられたのでしたら喜ぶところだと思うのですが、喜ぶどころか世も終わりみたいな顔をされるのでしたら、クレア奥様は父親の事が好きなのでしょう」
バーナードに続いて、マリリエンヌは頬に手を当てため息をつきながら言った。
「クレア奥様も、お父上のことを嫌いになれたらいっそ楽でしょうけど、先の奥様が亡くなられるまで、あの方は本当によき夫よき父親でいらっしゃいましたから」
その言葉に違和感を覚え、ルイスは顎に手を当てて考え込む。
「どうかなさいましたか?」
マリリエンヌに声をかけられたルイスは、考え込んだまま口を開いた。
「……その父親が、何で妻が亡くなってすぐ再婚して、クレアをないがしろにするようになったんだ?」
「え? それは後妻の魅力に惑わされて言いなりになっているからでは?」
何が疑問なのかわからないといった様子で首を傾げるマリリエンヌに、ルイスはちらっと鋭い視線を送った。
「よき夫、よき父親、おまけに地元の人々にもこうやって心配されるほど人望がある。そんな人物なのに、おかしくないか? よき夫であったということは、妻を少なからず愛してたはず。愛する妻を亡くしてすぐに他の女に目移りするだろうか? それとも──」
「もともと周囲の目をあざむいていたか……ですか?」
ルイスの後を続けたバーナードに、ルイスは深くうなずく。
「そうだ。だが、クレアの父親はひとをあざむいているように見えたか?」
口元に手を当て少し考え込んでから、マリリエンヌは答えた。
「いいえ。温厚で人当たりが良くて、気弱なくらい優しい方だったんです。だから、再婚後の変わり様に、みんな戸惑いつつも心配で……」
マリリエンヌの言葉に確証を得て、ルイスは力強く語り出した。
「クレアも父親に愛された経験があるから、父親の愛情を諦めきれなくて、得られる最後のチャンスが失われて絶望してるんだと思う。だから、父親が先妻の死後すぐに心変わりをしたことには、何か理由がある気がするんだ」
「おっしゃる通りかもしれません。ルイス様にしては慧眼ですね」
「それは僕を馬鹿にしてるのか?」
感心した口調が癇に障ってルイスがむっとすると、バーナードはしれっと答える。
「いえ、ちゃんとほめてます」
「……馬鹿にしてるんじゃないか」
ぶつぶつ言うルイスの横で、バーナードとマリリエンヌが相談を始めた。
「理由となると、何が考えられるでしょう?」
「それは僕よりあなたのほうがわかると思います。何かお気づきのことはありませんか?」
「君たちは、僕の頭脳は当てにならないって言いたいのか?」
こめかみをひくつかせながらルイスが問いかけると、マリリエンヌは何故か顔を赤らめて落ち着きなく返事する。
「いえ、そんなことは」
ルイスは疑問に思って首を傾げるが、どうでもいいやと考えを切り替える。
「ここであーだこーだとひとの心の内を推測し合っても埒が明かないだろう。やっぱりクレアの父親に会って話を聞くべきだと思うんだ」
この辺りでクレア視点の話いりますか? いる/いらない →いる に進みました




