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『愛の女王』と呼ばれる母の娘が、私である。  作者: 池中織奈


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3/9

私は、魔法陣研究部に所属している。

「ウィローラ、今日も来たのか熱心だな」

「もちろんですよ。だって部活が楽しいですから」

「……本当に変わり者だな」




 私は魔術科に入学し、それなりに友人も出来て楽しく過ごしている。この学園にはいくつもの部活があり、興味があれば自由に入ることが出来る。




 その中で私が選んだのは、魔法陣研究部。

 ……私は魔法陣が大好きだ。美しい陣を見ているだけで大興奮するぐらいに。でもなんというか、魔法陣って一般的に見て地味に見えるらしい。




 実際に自分の手で魔術を使う方がかっこいいなんていう風潮がある。だからか部員は目の前にいる先輩――ヒューゴ・ソリシアンと私だけである。




 ヒューゴ先輩は、ソリシアン侯爵家の四男である。明るい茶髪の一つ年上の男性だ。家を継ぐわけでもないので、学園卒業後は自分で生活をしていかなければならない立場だ。

 私がこの部に所属している理由の一つが……ヒューゴ先輩だったりする。というのも、彼の魔術も、魔法陣も美しいのだ。




 元々魔術関係の部に所属しようと思っていた。魔術科のあるこの学園では、魔術に関する部というのはそれはもう多くあった。

 私はそんな魔術関連の部を見て回った。

 だけれども……心惹かれるものがなかった。これならお父様との魔術談義に花を咲かせた方がいいとそう判断していた。




 そんな中で期待せずに覗き込んだ魔法陣研究部で、美しいものを見つけた。だからこの部に所属した。

 ヒューゴ先輩は成績が良いわけではない。こんなに美しいものを編み出せるのにどうして? と思っていたが、どうやら本人の魔力量がそこまで多くないことで周りから評価がされていないらしかった。

 なんてもったいないだろうというのが、私の感想。




 魔力量が少ないのならば魔法陣を使ってもらえばいい。私の魔力で描いたものなんて幾らでも渡せる。私が魔力を込めるでもいい。

 補助して一緒に魔術を使うのもあり。私は、ヒューゴ先輩の描く美しい魔術の本領を知りたいと願った。

 そういうわけで時々、一緒に魔術を使ったりしているのだけど……ヒューゴ先輩は謙虚である。




 私が魔力で補助しているとはいえ、魔術を使っているのはヒューゴ先輩なのだからもっと誇っていいのに。

 いつも私に感謝をして笑顔を向けてくれて、魔術や魔法陣のことで目を輝かせている。それでいて私がつい夢中になって早口になってしまったりするのを見ても引くことなく同じ魔術や魔法陣を愛するものとして言葉を返してくれる。



 ……私はそんなヒューゴ先輩と過ごす度に、「好きだなぁ」とそう思ってしまうようになっていた。

 そう、私はすっかりヒューゴ先輩に夢中になってしまっていたのである。




 言ってしまえば、最初はヒューゴ先輩の魔術と魔法陣に一目惚れした。そしてその人柄を知ってすっかり大好きである。

 ……ただどうやってヒューゴ先輩に私を好きになってもらえばいいか分からない。




 私はとても守られて、箱入りで育った。

 お母様のたった一人の娘なんて、よからぬ輩に近づかれる可能性も十分にあったから。だからこうやって誰かに恋をするのも初めてである。




「ヒューゴ先輩と一緒に話すのはとても楽しいですからね」

「……そうか」



 そっけなく言っているように見えても照れているのが分かる。本心なのになぁ。

 私はヒューゴ先輩にすっかり惚れこんでから彼の過去も調べている。実家が太いとそのくらい簡単に知ることが出来た。




 ヒューゴ先輩には過去に婚約者がいたらしい。その婚約者は別の男性に惚れてしまい、そのまま婚約解消になったそうだ。実家の侯爵家からも、婚約を解消された役立たず扱いされているらしい。

 そのあたりのこともあってヒューゴ先輩は自分に自信がない。こんなに優しいのに、素敵なのに。

 でも元婚約者の方には感謝をすべきだわ。彼女がヒューゴ先輩を捨ててくれなかったら、私はヒューゴ先輩と恋人になるチャンスももらえなかったのだもの。



 家族にはもう好きな人が出来たことは報告してある。

 だって言っておかないと、勝手に行動される恐れもあったから。というか、それでお父様達はヒューゴ先輩の身辺調査をしていたようなの。私に近づくよからぬ輩ではないかって。



 結局お父様達が何も言わないのならば、本当に問題ないのでしょうね。

 ヒューゴ先輩と私しかいない部活だから、周りの方々から馬鹿にされることもあるけれど……逆に私は誰も入部しない方が嬉しいの。




 だってヒューゴ先輩と二人っきりで過ごせる大事な時間なんだもの。

 さて、どうやったらヒューゴ先輩と恋人になれるだろうか?


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