ケイン&ノーマン VS オロバス (ノーマンSide)
わたくし自身──悪魔と戦うのは初めてだ。
まさか現役を退いてから十何年も経つのに、運命のイタズラはこの老体には少し厳しい。
隣に居る王家後見の公爵家の跡取り、ケイン・スミスも悪魔と戦うのは初めてのことだ。
いくら経験とはいえ──まだ未熟な少年だ。
ここは老体にムチを打ってでも、退治しいる悪魔オロバスを討伐せねばならん。
「さて──最初はどちらからかかってくるんだ? 我としては二人一気にかかってきても問題はないのたまが」
「久しくこの世に顕現したというのに、なんとも自信満々な言いようだな」
「そりゃあ──悪魔だからな。お前たち人間の相手をすることなど、アリを潰すことと同様のことだ」
彼の中で人間はアリと同等らしいな。
悪魔らしい傲慢な態度はこいつも同じか。
「ノーマンさん、最初は俺が引きつけます。その間に攻撃を仕掛けてください」
「オロバスという悪魔がどういう攻撃をしてくるかわからない以上──下手な動きは出来ませんぞ。危ないと思ったら直ぐに引いてください」
「了解です──」
未来ある若者に敵を引きつけることが多少なりとも気が引けてしまう部分はあるが、逆の立場であってもケインの攻撃は敵に通りはしないだろう。
ならば──わたくしのアケチ桔梗流格闘術でケリをつけるのが最善か。
「いきます──ッ」
ケインはオロバスに向かって走っていく。
剣による斬撃を繰り出すが、オロバスもそれに合わせて剣で受け止める。
互いに剣が弾かれると、次はオロバスが斬撃を繰り出すが、ケインはそれを受けようとはせず、身をかわした。
オロバスの斬撃を何度も躱すと、オロバスは明らさまに舌打ちをした。
「ちょこまかと面倒臭い。戦う気がないなら大人しくやられろ」
「ノーマンさんッ!!」
戦いに於いて──動きを止めるのは愚の骨頂。
オロバスはわたくしに隙を見せたのだ。
一気に間合いを詰めて、殴りかかった。
「アケチ桔梗流格闘術──断拳ッ!!」
断拳とは──絶拳とは違い、相手の筋繊維、即ち腱を切る攻撃だ。
四肢の腱が切れたら、いくら器だろうと簡単に反撃は出来まい。
オロバスの両腕に断拳をお見舞いすると、クリーンヒットしたのか、両腕がだらんとして持っていた剣を地面に落とした。
だが──オロバスは表情ひとつ変わっていなかった。
痛覚が無いのか?
「断拳──良い攻撃じゃないか。人間だったら即降参して負けを認めるだろうな」
そもそも──このアケチ桔梗流格闘術は人間の体内にある【気】という流れを使い力に変換して戦うものだ。
この気を体内で充満させ──爆発的火力で放出し技を繰り出すカラクリだ。
絶拳を使えば通常のパンチより威力は凄まじい程にあがるし、絶壁を使えばどんな鋭利な刃物も弾いてしまう。
これを極めるのに長い年月の修行を重ねたが、このアケチ桔梗流格闘術は、わたくしの生命線と言ってもいい。
「なら──貴様も負けを認めたらどうだ? その腕だと剣を持つことはおろか、攻撃すらできないだろう」
「甘いぞ、人間──」
不敵な笑みを浮かべながら、オロバスは腕を動かし始めた。
やはり──筋繊維を破壊しても、悪魔にとって器は器にすぎないのだ。
地面に落ちた剣を握ると、そのままわたくしに剣を振りかざしてくる。
「絶壁──ッ」
彼の斬撃を絶壁で防ぐが、先程よりも威力が増していた。
もしかしたら──ダメージを受ければ受けるほど、攻撃力が上がるのか?
何にせよ──彼とは初めて戦うのだ。
未知なことをしてきてもおかしくはない。
「ケイン──足を取れッ!!」
「は、はいッ!! 水星の巫女よ、我の言の葉の力に呼応し水の加護を与えよ。ティアーズフォールッ!!」
ティアーズフォール──
対象の足元に水溜まりを形成し、足を取る魔法。
リヴァイアサンを撃ってしまったら、わたくしにも攻撃が当たってしまうから、それよりもグレードが低いティアーズフォールを選択したか。
考えて戦闘しているのは良いことだ。
「チッ──。面倒臭い足止めだな」
足を取られたオロバスは身動きが取れなくなっていた。
チャンスだ──
わたしはすぐさま体内に気を充満させる。
「アケチ桔梗流格闘術──」
この技を貴様にお見舞いしてやろう。
使用すると暫く動けなくなる為、あまり使いたくない技なのだが、悪魔のオロバスにも効き目があるのか試してみたい気持ちもあるからな。
「絶昇──ッ」
絶昇──
物理的威力は無いが、対象物の魂を昇華させる──対魔族用格闘術だ。
この攻撃が悪魔に効くのか分からないが、それでもやってみる価値はあった。
だが──
「絶壁──」
わたくしの絶昇は絶壁によって防がれた。
しかも──何故、目の前にわたくしが居るのだ?
今、わたくしはオロバスという悪魔と戦っているはずだ。
「危ない危ない。その攻撃を喰らったら、我は消えてなくなる所だった。神聖魔法以外にも我々悪魔を倒せる技があったとはな」
「オロバス──貴様、なぜわたくしになっている」
「あぁ、言ってなかったか。我のユニークスキル、シェイプシフトだ。好きな時に好きなように変身できる優れものだよ」
すると──オロバスはアンジェラの姿に変身した。
その次にウィル様、その次にシェナと色々変化していく。
そしてまた、わたくしに姿を戻した。
「ただ厄介なのは、神聖魔法を使える人物に変身しても、神聖魔法が使えないのが残念な話しだ。我は純粋な悪魔だからな。神聖魔法は使えないんだよ」
悪魔の中でも神聖魔法が使えないというのは珍しい話ではないのは知っている。
もし──オロバスが神聖魔法を扱えてたら、勝ち目は無かったかもしれない。
ただ──変身してわたくしのアケチ桔梗流格闘術を簡単に模倣できることに悔しさを覚えるな。
まだ大丈夫だ。勝機はある──
それに──アケチ桔梗流格闘術は毎日の鍛錬において真価を発揮する格闘術だ。
「アケチ桔梗流は鍛錬の日々の先にあるもの。一日にしてあらずだ──」
「貴様に変身して簡単に使えたんだ。鍛錬もクソもないだろう」
舐められたものだ。
わたくしが長い年月をかけて鍛錬してきたアケチ桔梗流をオロバスは簡単に模倣した。
だが──模倣は模倣。
わたくしオリジナルには勝てん。
「ならば──貴様の模倣を以てわたくしを超えて見せろ」
「不毛だな──」
わたくしとオロバスは互いに殴り合う。
拳を受け止めたり、躱したり、繰り出したり。
何発かクリーンヒットをお見舞いしたが、オロバスは表情を一切変えず、拳を繰り出してくる。
わたくしの顎にクリーンヒットすると、これ以上の攻撃を阻止するため、一度間合いをとった。
「おっと──思わずオリジナルを超えるところだったな」
「たった一発良いのが入ったくらいで調子に乗るな」
「その一発でお前は間合いを取ったんだ。虚勢を張るのはやめたほうがいいぞ」
なんとも神経を逆撫でしてくる物言いだ。
再度間合いを詰めるが、頭がクラクラする。
彼の攻撃が顎に入ったのが良くなかった。
わたくしの拳は先程よりも威力がなかった。
「どうした? 先程よりも力が籠ってないぞ」
「既に老体なのでね」
「かわいそうに。人間は年月を重ねると身体が衰え死んでいくことが不思議でしょうがない」
「それが自然の摂理だ。不老不死の悪魔には分からんことだろう」
だが──このままではジリ貧だ。
なんとかわたくしの変身を解かせないと。
「ノーマンと言ったか。そろそろ貴様との戦いは終いにしよう」
そう言うと、オロバスはアケチ桔梗流の構えをした。
間違いない、奴は絶昇を打とうとしている。
それならわたくしも──
「アケチ桔梗流格闘術──」
「無駄なことを。絶しょ──」
「絶拳──ッ!!」
オロバスが絶昇を繰り出す前に、わたくしは絶拳を放った。
オロバスの胴体にポッカリと穴が空いた。
身体が元の器の姿に戻っていく。
やったのか──
「すばらしい。だが──甘いな」
絶昇を放った上に、最大火力の絶拳も使った。
身体に負荷をかけすぎたのか、口からブワッと吐血してしまう。
オロバスはゆっくりとわたくしに近づくと、持っている剣を振りかぶった。
「残念──。もっと貴様と戦ってみたかったが、ここが潮時のようだ」
もうダメか──
わたくしは死を覚悟した。
後は頼みますよケイン。
そういえば、一度でいいからノエルたちとゆっくり過ごしたかった。
彼女になにも出来なかったことが心苦しい。
こんな父親を許してくれ。
幸せにな、ノエル……アンジェラ──
「まだ諦めないでください──ッ!!」
わたくしは死を覚悟したが、目の前にはケインがオロバスの振りかぶった剣を受け止めていた。
「ケイン──」
「俺よりも強いあなたが諦めてどうするんです。まだ戦いは終わってないんですよッ 立って戦ってくださいッ!!」
「君も人使いが荒いな。見ての通り、わたくしは既に力を使い果たしました。後は頼みますよ」
「分かりました。この後は俺が戦います。だけど……だけど──死ぬのは違います!! 立って後ろに引いてください」
「申し訳ない……」
わたくしよりも何十年若い少年に助けられるとは。
トゥルメリアの未来が楽しみだ。
わたくしはそのまま後ろに引き下がる。
木陰にゆっくりと腰を下ろすと、ケインとオロバスの戦いが始まった──
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