悪夢の幕開け③
「フリーゲル、今どういう状況だ? 今のところ戦闘は落ち着いているように見えるが、残存兵力はどうなって──」
「──その前に姉様、なぜこのエルフの地に人間という穢らわしい生き物がいるんです? 半獣半魔のバケモノまで」
フリーゲルは僕たちをゴミのような目で見てくる。
人間を穢らわしいと言うあたり、典型的な純血思想の持ち主と伺えた。
しかも──シェナのことを半獣半魔のバケモノだなんて……。
もっと言い方ってのがあるでしょう!
あんまり他の種族を悪く言うと、バチが当たりますよ!
「あら、自称高潔で誇り高いエルフさんには、シェナがバケモノに見えるらしいわ。さすが──高潔と傲慢を履き違えてるバカエルフの物言いですね」
シェナさん!?
それ一番言っちゃいけないやつ!
ここエルフ王国ですよ?
それなのにこんな強気な態度で言ってしまったら、捉えられて処刑されますよ!?
フリーゲルさんも冷静さを保ってるけど、眉間にはシワが寄ってますし、謝るなら今だから!
てか──謝って!!
「言い返せないってことは、自分たちが傲慢な種族ってことを理解してるってことになるわね。それなのに、他の種族を貶める発言をして、恥ずかしくないのかしら? シェナだったら恥ずかしくて死にたくなるわ」
ダメだ……お腹が痛い……。
お願いします、もう口を開かないで……。
とばっちりで全員処刑されちゃう。
「私のことをとやかく言うのは構わないが、貴様はエルフ種そのものを愚弄した。その罪は重い。死を持って償え。おい──捕らえろ」
ほら──言わんこっちゃない……。
フリーゲルさんも、自分のことをとやかくとかなんとかって言ってたけど、凄くキレてるじゃん。
シェナさんこのままだと死んじゃうよ……。
だが──そこはアンジェラ先生。エルフ王国兵を制止させた。
「今はここで争ってる場合じゃないッ!! フリーゲル、私たちは、お前の支援要請でここまで来た。それなのに、他の種族に喧嘩を売って、言い返されたらエルフ族の誇りというものをぶら下げて処刑するなど、無礼にもほどがある。取り下げよ」
「どうやら姉様は、エルフ王国の誇りというものを忘れてしまったようですね。──まあいいでしょう。今回の不遜な物言いは不問に処します。だが──次はないですよ、獣人──」
フリーゲルは兵を引き下げた。
僕もここで分かったことがある。
エルフ王国の思想、大っ嫌いかも!
だって、これからみんな一致団結して魔族と戦いましょうって時に、種族がどうのこうのって言ってくるんだよ?
もう──戦う以前に差別しちゃってるじゃん。
そんな人と一緒に僕は戦えないよ。
「フリーゲルさん、ひとつお聞きしたいことがあります」
「ん? 貴様は誰だ」
「僕はウィル・グレイシーと申します」
「あぁ、あのダグラスの息子だな。しかし──あの戦鬼の息子とは思えない容姿だな」
「はい、僕は養子の身なので」
実際これは間違いではない。
本当はトゥルメリア王国の王家の血筋を引く人間だし、訳あってグレイシー家の人間になった。
それを今説明している余裕はないし、言ってもこの人は信じないだろう。
「なぜ──僕たちに支援要請を出したのですか? その口ぶりなら、エルフ王国だけでも十分ではないですか。実際に今は一時休戦状態みたいですし」
これはエルフ王国の内情を知るためのブラフだ。
支援要請を出してる時点でエルフ王国は余裕がないのは分かってる。
それでも──この質問は大事だ。
「私たちは貴様ら人間と同盟関係を結んでるのはわかるだろう。高潔なエルフ族の力だけでは疲弊は免れないからな。余剰戦力を温存するために人間に前線で戦ってもらう。その為の支援要請だ」
やはり──エルフ王国は既に余剰戦力を投入済みで、かなりの疲弊をしている。
フリーゲルさんは口では都合の良いように言ってはいるが、エルフ王国が窮地に追いやられているのはこの雰囲気を見れば分かった。
周りの兵士たちも、かなり疲弊した様子だった。
しかも──
「そうですか。なら、この近くに神聖魔法の残滓が伺えます。大規模展開しましたね?」
「────くッ……なぜそれを……」
僕は近くに居るエルフ兵にオールヒールを発動した。
エルフ兵が負った傷などがみるみると回復していく。
その様子を見て、フリーゲルさんの目が点になった。
「き、貴様──いったい、何者……」
どうせ僕が神聖魔法を使えるのは後にも先にもバレてしまうことだ。
なら今伝えておいたほうがいい。
「僕はグレイシー家の人間ですが、元々は王家で生まれたウィル・トゥルメリアと申します。訳あってグレイシー家に身を寄せていますが、その僕に対して──嘘だけは付かないで頂きたい」
状況を読み込んだフリーゲルは、フッと息を吐いた。
これ以上の駆け引きは無意味だと悟ったのだろう。
神聖魔法の使い手が現れれば、自分たちが虚勢を張って嘘をついていることなどバレてしまうからだ。
「良いでしょう──現時点での正確な情報をお伝えします。姉様とノエルとウィル王子、そして──絶拳、お前も来い」
「──絶拳?」
「はい、ウィル様。わたくしの二つ名でございます」
え、ちょっとカッコイイんだけど。
でも──絶拳ってノーマンの技名にもあったよね?
そこから二つ名が生まれた形なのかな?
だとしたら凄くカッコイイ。
僕も二つ名が欲しいな。
「フリーゲル、シェナもついて行く。シェナはウィル様の護衛だ」
「ならん。獣人がエルフ王国の首都に足を踏み入れることなど許されん」
「でも──」
僕はシェナを制止させる。
お気持ちはありがたいが、ここはエルフ王国だ。
エルフ王国なりのしきたりがあるだろうし、恐らく──人間が首都に踏み入れること自体、異例中の異例なのだろう。
ここはフリーゲルの言うことに従っておくべきだ。
「──シェナ、待っててくれないか? 僕たちに支援要請をしてる時点で、エルフ王国が僕たちに敵対することはまず有り得ないから、大丈夫だよ」
「ウィル様がそうおっしゃられるのなら、シェナは従います。どうか──ご無事で」
「ありがとう」
エルフ王国首都に入ると、多くの兵士と国民が入見だっていた。
なにせ──他の都市を放棄し後退してまで防衛戦を行っているのだ。
エルフ王国国民が最後の砦として、ここに避難してることはなんら不思議ではない。
だが──それを物語るように、国民は疲弊している。
おそらく、食料の供給も滞っているのだろう。
「戦争とはどうしても国民が割を食ってしまう。我々軍人はそうならない為に、このエルフ王国を死守しているが、この先どうなるかは私でもわからん」
「もちろんでしょうね。エルフ王国は何度も魔族の侵攻を退けてきた。ただ──今回は今までのように退けるだけではダメみたいね」
「やはり──悪魔の存在でしょうか」
ノーマンのひと言に、フリーゲルは鼻で笑った。
「そんな訳ないだろう。歳をとって考えも衰えたな、絶拳」
いや──実際に、このエルフ王国の侵攻には悪魔が絡んでる。
総合武術大会の時に、悪魔ダンタリオンが一瞬だけ見せた、ジェイド・マーセナスの人格は、確かに『エルフ王国が危ない』と言っていた。
あれがジェイド本人だと信じているが、もし──この侵攻に悪魔が絡んでないとしたら、何のためにトゥルメリア王国で騒ぎを起こしたか分からなくなる。
「仮に悪魔が絡んでいたとしても──」
するといきなり──小さいエルフの男の子が、フリーゲルの裾を掴んだ。
「フリーゲル様、この戦いはいつ終わりますか? いつお腹いっぱい、ご飯が食べられますか?」
その子供は見るからに酷くお腹を空かせていた。
我慢の限界だって来ているのだろう、その訴えかけに男の子の目は涙でいっぱいだった。
食料の配給がままならない今では、答えに口を噤んでしまうが、フリーゲルは優しく微笑み男の子の頭を撫でた。
「戦争はじきに終わる。またお腹いっぱいご飯が食べられる日が来るから、それまで頑張って耐えて欲しい」
「必ず勝ってください、フリーゲル様」
「我々はフリーゲル様たちが勝つことを信じております」
フリーゲル・カリオペ──
嫌な人だなって思ってたけど、国民からの信頼は厚いみたいだ。
人間や獣人に対して見下してる部分は好きになれないけど、同じエルフ族にはこんなにも優しい顔をするんだな。
「我々は必ず勝ってみせるッ!! 高潔で誇り高きエルフ族の名においてッ!!」
首都内は、フリーゲルコールに湧いた。
その中を僕たちは、王城に向かって歩いて行った──
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