実家へ帰らせて頂きます⑦
夏休み期間中に実家に帰省して、あっという間に王都に戻る日が来てしまった。
軍の人たちと一緒に汗を流したり、母さんとの時間を楽しんだり、領民との交流をしたりと充実した数日間だった。
母さんとのことといえば──病状を聞いた限り、鉄分が不足していることに起きる貧血で、鉄欠乏性貧血の病気かもしれない。
鉄欠乏性貧血とは──前述の通り、身体中の鉄分が不足し貧血を起こす病気で、深刻化すると腎臓や肝臓、心臓などの臓器に影響を及ぼすことがある。
母さんの場合、月一回の乙女の日が重いらしく、過度の貧血を起こすことから、鉄欠乏性貧血の疑いに目をかけた。
なんでそんなことを知ってるかって?
ほら、若い頃に医学の勉強をし始めて無駄に知識を得る時期ってあっただろ?
大概めんどくさくなってやめちゃうんだけど、その時の知識が残ってたんだよね。
医者にならなかったら、あまり活用されるものじゃないけど、知らないよりかはまだいいからね。
かと言ってこの世界に鉄欠乏性貧血を改善する鉄剤は無いし、医学に関しても風邪引いたら重症患者レベルってくらい未発達だ。
なので生成スキルで鉄剤を生成し、月に一回父さん伝いで渡すことになった。
ただこれを飲んで病状が改善するということはないので、母さんには食生活の改善と適度の運動、そしてしっかりとした睡眠をとるように伝えた。
やはり──家族には健康で居て欲しいからね。
家族が元気で居てくれるなら、僕はなんだってするよ。
家族に別れを告げ──オールテレポーテーションで王都セリカに戻った。
アンジェラ先生が行きたいところがあると言って付いてきたが、そこは──王都内の城壁の側にひっそりと建つ小さな孤児院だった。
「アンジェラ先生、ここって──」
「あぁ、私が個人的に経営している孤児院だ」
アンジェラ先生が孤児院を経営していたなんて驚きだ。
外では子供たちが楽しく遊んでいて、アンジェラ先生を見つけるやいなや、こちらに駆け寄ってきた。
「アンジェラせんせぇ!」
「せんせぇ、おかえり!」
「みんなただいま。今日はお友だちのウィルを連れてきたぞッ」
「かっこいいお兄ちゃんだぁ、お兄ちゃんも魔法使い?」
あっという間に子供たちに囲まれてしまった。
子供に囲まれるということが人生で一度もなかったのでちょっと困惑してしまう。
「ウィルは私の教え子なんだ。とっても優秀な魔法使いだぞ」
「先生、そんな持ち上げないでください」
『ここは私に合わせてください』
と、アンジェラ先生は念話でウインクを交えて伝えてきた。
まぁここはアンジェラ先生の言うことに従っておこう。
「あッ!! シェナも居る! シェナ遊ぼぉ!!」
僕の後ろに隠れていたシェナは子供たちに見つかると、僕から咄嗟に離れて逃げてしまう。
それを子供たちが追いかけた。
「シェナ、子供、苦手、寄ってくるな、怖い」
さすが猫人族。逃げ足が速い。
それでも子供たちはワイワイはしゃぎながらシェナを追いかける。
子供たちがシェナに向かって行き、2人きりになった僕たち。
「アンジェラ先生、どうしてここに連れてきたんですか?」
「私は──本当は争い事なんて嫌いなんです。戦争が起これば大人が死ぬ。大人が死ねば子供たちがひとりになる。ひとりで生きていけない子供たちは、路頭に迷って生きるために悪事に手を染める。私はそれを見て見ぬふりは出来なかった。だから──孤児院を設立したんです。ここはそのうちの一つ」
そういえば──首都セリカに来て、路頭に迷う大人は見るが、子供は見たことがなかった。
それはアンジェラ先生が子供たちを引き取り、孤児院で面倒を見ているからだったのだ。
しかし──そのうちの一つということは、他にも孤児院が存在するということだ。
かなりの財力がないと経営が難しいと思うが、アンジェラ先生はエルフ族でこの王国において爵位を持たない。
僕の父さんや国王陛下と昔パーティを組んでいた過去があるので後ろ盾はあるのだが、そんなことを考えても野暮だ。
大事なのは──アンジェラ先生が子供たちの未来のために孤児院を運営しているということだ。
僕も争い事は嫌いだ。
大人が死ねば──その子供たちが路頭に迷う。
そうならない為にも争いを回避するのは当然だが、回避したくて回避できる問題でもない。
互いの主張をぶつけ、決裂した時に争いは起きる。
また自身のエゴのために他人を貶めてまで起こる争いもある。
それに巻き込まれた子供たちが今ここに居るのだ。
「ウィル様──あなたは強い。強いからこそ、色々なことに巻き込まれる事でしょう。現にベリアルを倒し、あなたの戦術価値は一気に高まった」
それはつまり──悪魔を打ち倒せる僕は、この世界において、各国から注目される存在となったということだ。
王家の子息ということはまだ外に漏れてないと思うが、それを伏せておいても、僕を引き抜こうと秘密裏に接触してくる人は居るだろう。
もしかしたら、暗殺だって──
「なので、これからは慎重に物事を見極めてください。もちろん、私たちもしっかりとお支え致します」
「ありがとう。いっそう気を引き締めるよ」
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今日は疲れた……。
バタンと自室のベッドにうつ伏せで倒れる僕。
あの後、子供たちと一緒に遊んだけど、子供たちの体力は無限なのか、ずっと走り回っていた。
大人になると走り回るってことが無くなるから、体力って無くなっていくよね。
適度な運動大事。
明日から学院が再開される。
後期になると、学院の総合武術大会がある。
この武術大会は、体術、剣術、魔法とありとあらゆる技で競われる大会で、優勝すると学院の学食が1年間無料という高待遇を得られるのだ。
ベリアルを倒したってことは学院にまだ知れ渡ってないだろうし、僕が出ても問題はないだろう。
トゥルメリア国民に対してはしっかりと情報統制してるみたいだからね。
紛れ込んだ他国のスパイとかにはどうもならないけど。
そんなことを考えてたら眠気が襲ってきた。
満月が欠ける夜の日、僕は深い眠りについた──




