42. 速水救出計画
しばらく静寂が流れた。
すると、テーブルに頬杖をついて私たちを見ていた滝が、面白そうに口を開いた。
「そんなに行きてえなら、俺と玲と一緒に来たらいい」
「……滝!」
めずらしく叱責するような玲の声が部屋に響く。
滝は全く気にせず、燃えるような赤毛をがりがりと掻き、何と言おうかなと言うように曖昧に笑って言った。
「玲もわかってんだろ。薫は言い出したら止まらねえよ。こいつの剣さばきと一緒だ」
滝の声に、玲、視線を落として唇を噛む。わかっているが止めたい。そんな玲の声が、彼に反論している私にすら聞こえてくるみたいだった。
滝は続けた。
「薫は敏捷だ。俺が教えてるってのもあるし、そう重い傷を負ったりはしねえだろう。集中力も抜群だ。
だが、東軍で剣の腕が三本の指に入る俺と玲でも、薫を守りながら速水を助けるってのは至難の業だ。助けた後は、おそらく速水を抱えて逃げなきゃならねえしな。
一緒に行くなら、薫は自分の身は自分で守って、尚且つ速水を連れた俺たちと一緒に、敵と交戦しながら逃げることになる。その心構えは薫の中でちゃんと出来てんのか?」
からかうように軽く、その反面、どこか試すような口調で滝は言う。
滝の台詞を、私は心の中で繰り返す。
自分の身を自分で守りながら、速水を助けた後は一緒に、敵と交戦しながら逃げる。
「……翡翠としてじゃなく、薫として、一緒に行く。絶対負担にはならない。
ここで残されたら、私、一生後悔する」
しんとした部屋に私の声が響いた。
玲がため息をつき、滝は面白そうに笑ったままだ。夏野が静かに私を見つめた。
「……薫、頑固だな」
夏野の言葉を聞いて、一瞬彼に視線を流した玲、次の瞬間、そうだよなと納得したように小さく笑った。そして玲はひとり頷いて……真剣な表情で、私を見た。
「わかった。滝が先に出て、俺と薫が後衛で行く。だが絶対に一人になるな。単独行動は禁止だ。それでいいな?」
私は黙って頷いた。
「……決まったな。では、三人は偵察隊の報告を待ってから動くとしよう。無謀な突撃はしない。単独でも動かない。絶対に西羅の術中にはまるな。いいな?」
夏野の言葉に、玲と滝、そして私は頷いた。
ぜったいに助ける。頭の中に、速水の無邪気な笑顔が浮かんでいた。




