表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/52

30. 紅玉と天藍

紅玉(コウギョク)って、林檎の名前にもあるけど、宝石のルビーのことだよね。天藍(テンラン)はどんな意味?」


 手入れが終わって馬の鞍や鐙を準備して、馬を引いて馬場に連れて行くやり方を習いながら、(アキラ)に聞いた。


「天藍は、かぎりなく美しいって意味。綺麗だったろ?」

「うん。玲にぴったりと思った……。でも、紅玉もめっちゃ美人だよね!」

 天藍をほめていたら、紅玉が不満そうにいなないたので、私は笑って紅玉をフォローする。

 そんな私と紅玉を見て、玲も微笑んでいる。


「結構気が合ってるみたいだから、予定より早いけど乗ってみるか?」

「え、いいの!」

「じゃあ、やってみるか。

 最初は俺が手本を見せるから、……紅玉、一回俺を乗せてくれな」


 玲がやさしく紅玉に話しかけると、紅玉はいいよと言わんばかりにフンと鼻を鳴らす。玲は説明しながら実演してくれる。


「まずは馬の左に立って、手綱と馬のたてがみをつかんで、左足を(アブミ)にかける。それで、右手は蔵の後ろ側をつかんで身体を持ち上げる。右手を蔵の前側に移して支えて、蔵に座って、右足も鐙にかける。……こんな感じだ。


 降りるときは、また実際にやるときも教えるけど……まず、右の鐙から右足を抜く。

それで、左手で手綱とたてがみをつかんで、右手は鞍の前側に。右足は馬の尻を超えて、馬の左側で両足を揃えて、自分の腹を鞍の上に置いて安定させて……左の鐙を抜いて両足そろえて降りる。手綱は放さず最後まで持っておくこと」


「実際にやってみた方がはやいかな?」

「薫は運動神経がいいから、そうかもな。ゆっくりやってみて」


 交代して、玲の説明をもう一度聞きながらやってみたら、乗れた。

「乗れた! 玲、紅玉、ありがとうね!」

 私がにこにこして言うと、紅玉がひひんと鳴いた。本当に言葉わかってる。


 玲も微笑んで、

「そしたら、俺が引いて、馬場を一周してみるか。

 背筋を伸ばして、つま先はまっすぐ……膝の力を入れすぎないように注意しろよ。紅玉が嫌がるから」

「うん、わかった。こんな感じ?」

「そうそう。いいな。もう少し気楽にしていいぜ。馬は乗り手の緊張を感じ取るからな」


 玲の言葉に、紅玉がフンと鼻を鳴らす。

「紅玉、めっちゃ賢いね! 言葉がわかってるみたい!」

「紅玉は気難しい馬なんだが……薫には優しいな。気性が合ってるのかもな」

「お互い短気っていうこと?」

「短気と言うか……情熱的? みたいな」


 玲の言葉に、私は思わず笑顔になる。

 いつもどこかクールな雰囲気のある玲が、馬と接するときは子供みたいな笑顔で無邪気さが増して、いつも以上に優しい。私は玲の知らない一面を見た気がしてそれもうれしく、乗馬の腕も自然に上達していった。


 紅玉と私の相性が良かったせいもあるのか、玲の教え方の上手さなのか、乗馬の基本はすぐに覚えた。手綱の握り方、馬を進ませる時や止まる時の足の使い方、玲の指導は細かくて徹底的だったけど、前日の(ハヤセ)の激しさとは違って、私のペースに合わせてくれていた。



 訓練の合間に、私は少し気になっていたことを聞いてみた。


「翡翠が私にそっくりとは聞いてるけど……西軍の、西羅(サイラ)ってどういう見た目の人なの?」


 玲は少し考えた後で、一言、

「……でかいな」と言う。

「体格が、ってこと?」

 玲、頷いて。


黎彩(レイサイ)もかなり背が高いけど、西羅は同じ位か少し超えるかもな。

 筋肉質で、がっしりしてる。色素が薄い……たぶん西の国か北の国の血が入ってると思うんだが、金に近い茶髪で、目の色は暗い色……光の加減で緑に見える。

 夏野(カヤ)によると、ここ数回の小競り合いには西羅自身はいないときもあったらしい。


 出てくるとしても、姫将軍の立ち位置の薫と同じで、戦の時は西羅も一番後衛だ。直接やり合うことになるかどうかはわからねえな。だが、あいつはちょっとおかしいくらい強いから、相対したら気をつけろよ」


「おかしいくらいって、滝よりも強いってこと?」

「滝は剣を振るってるときも至極まともと言うか、正気だ。西羅は、なんて言うか……正気じゃない感じがするんだよな」

「それは怖いね」


 玲の話を聞いて、私は改めて120%の力で取り組まなければと決意を新たにしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ