表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/53

28. 玲のやさしさ

「……玲さま、夕飯、一緒にいかがですか?」


 お茶を出してくれながらそっと尋ねる速水に、玲は首を振る。

「それは大丈夫だ。速水、薫の分の食材はどうしてる? もし困っているなら翡翠宮の料理長に話してこちらに持って来させることもできるが……」

「いえ、大丈夫です」


 ぱっと人好きのする笑顔を浮かべて速水が言った。


「僕は最初に薫が現れた次の日の学び舎のときに、神殿の僧医の清涼さまに、薫のことを話したんです。それで、いつも食材を分けてもらうときに、少し多めにいただいていたんですが……、週末に青の間で僕も一緒にお話を聞いて、薫が『助け手』ということもわかったので、そのことも今朝、清涼さまにお伝えしました。


 清涼さまは、玲さまが『助け手』を探しに行かれていたとご存知で、今後は問題なく、僕と薫の二人分を融通していただけることになりました」


 速水、にっこり笑ってそう言う。まだ十四歳なのに、本当にしっかりしてる。

 私はひとりであたふたして、玲のことしか考えられていなかったなと、思わず我が身を振り返っている。玲は速水の話を聞いて静かに頷いた。


「そうか。……じゃあ、清涼には俺からも話しておくから安心してくれ」

「ありがとうございます」

 二人とも笑顔で話が進む。


 私は涙をぬぐって、疑問に思ったことをそっと聞いてみる。

「……神殿の、僧医って人が、お医者さんということ?」

 玲は頷いた。


「そう。僧医は何人かいて……本来は神殿が学校代わりであり、病院代わりでもあるんだ。

 で、朱鷺子は僧医とは違って、俺の父さんが旅先で拾って翡翠宮に連れて来たんだ。


 俺の父さんはもともと薬師なんだが、その一番弟子が朱鷺子。それで、当時、黎彩が薬草庫の管理の関係で神殿とやり取りしていたこともあって、朱鷺子は黎彩経由で、神殿の僧医から医術も学んで、今は翡翠宮専属医師みたいな立ち位置にいる」


「いろいろ歴史があるんだね……」

 ひとつひとつ、謎の扉が開いていく感じがしているけれど、わからないことが多すぎて私はまだよちよち歩きみたいなものだった。今日の午後、滝から『五歳児の方がまだまし』と言われたことに私はキレてしまったけれど、仕方ないのかもしれなかった。


 でも、私の言葉に玲は肩をすくめて笑った。


「日本に行ってた俺の感想を言うと、まあ、覚えなきゃいけないことはその都度、目の前に提示されてくるから、それと、自分が興味あるところから攻めたらいい。そしたら、どんどん扉が開いてそのうち繋がってくる。最初は不安だろうし、薫の不安を俺が増大させてたことは否定できないけど……でも、大丈夫」


 全然大丈夫じゃない気がして、私は真面目に玲を見る。

 すると、玲は優しい口調でこう言った。



「何があっても、薫のことは俺が助けるし、守ってやるから」



 いつもの星がまたたくみたいな玲の瞳。体調不良だったせいかしばらく弱っていたけれど、その光が少し戻っていることに私は気付いた。

 言葉にならずに、止まったはずの涙が、また溢れる。うれしいとも言えるし、胸打たれたとも言えた。感動するような気持ちで、ただ、涙が零れた。


「あーもう、なんでまた泣くんだおまえ……ほんと具合が悪いんじゃねえのか?」

 頼むぜ、と言いながら玲が私の涙を指でそっとぬぐう。

「……私、……明日もがんばるね……」

 私はそれだけを必死で言った。


 玲はそんな私を見て、やわらかく笑って。

「……ま、無理しない程度に頼むな」

 と、優しく言った。


 急に、どうして玲がそんな風に言ってくれたのかわからなかった。

 でも、姫教育初日の座学と滝の訓練が終わって、一緒に薬草茶を朱鷺子さんの治療室で飲んで、速水と食材のことを話して……私だけじゃなく、玲の中でも、私がこの世界で生きて行くということが、少し根付いてきたのかもしれなかった。


 そうだったらいいなと思いながら、涙がやっと止まった私は、玲と目を合わせて少し笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ