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27. 乗馬装束を確認しよう。

 (アキラ)と一緒に速水邸に戻り、家に帰って来ていた速水に乗馬用の装束のことを尋ねてみた。


 すると、お母さんの着物箪笥の中に、馬用の胴着と袴があり、速水が「もちろん使っていいよ」とにこにこして言うので、お言葉に甘えることにした。


「昔、母が(カワヤ)が大変って言ってたから、乗馬訓練の直前に着替えた方がいいよ」

 と速水。玲も、

「男でも結構大変だよな」

 と頷いている。


 馬に跨がることができるようにキュロットスカート風になっているけど、袴って紐で結んだり幅広だったりするから、着脱が大変なのかもしれないな……。


 私が寝起きさせてもらっている和室で、速水が奥から出してきた袴と胴着が入った和紙の包みを開けてみると、速水のお母さんの馬装束は、胴着が紺色に水玉のような白い模様が入っているもので、袴は小豆色だった。



「へえ……速水の母さんの好みは洒落てるよな。薫、ぜったいこれ似合うと思うぜ」

 微笑んで玲がそんなことを言ってくるので、私は思わず顔が赤くなっている。


「袴の着付けは男女変わらないと聞いたことがあるが……ためしに俺が着てみるか? 薫は今、俺が着るのを見本みたいに見ておけば、手順がわかって明日楽なんじゃねえ?」

 速水はお茶を淹れてきますと席を外し、玲があまり女性用とは気にしていない風で、着ている着物の上から簡単に着方をなぞってみてくれると言うので、お願いすることにした。


 するりと袴を履いて、腰板の位置や、紐の締め方を説明してくれる玲。

 彼の袴を扱う手つきがとても綺麗で、私はそれに見とれるような気持ちになるのと同時に、あまりの優しさに胸がいっぱいになっている。


「……ま、実際には朱鷺子に着せてもらえばいい」

 にこにこ笑ってそう言う玲に、私は小さな声でありがとうと言った。



 ……と、少し首をかしげて玲が私を覗き込む。

「薫、(ハヤセ)の特訓で疲れすぎて、熱出たりしてないか?」

 ふいに額に触れられて、私は自分の顔が赤くなって、涙が浮かぶのも感じている。


 だめだ。玲のことが好きすぎるんだ。そして弱すぎるんだ、我ながら。急にこんな風に優しい時間をもらえるなんて、夢にも思ってなかったから。


「熱はないな」

 微笑む玲に、私は頷いた。

「熱はないと思う……。

 あのね、私……玲と、ずっと、こんな風に話したかったんだ」


 小さな声でそう言うと、玲は少し真顔になって、その次の瞬間、かすかに笑って頷いた。

「ごめんな」

 驚いて、私は思わず真っ直に玲と目を合わせる。彼は微笑んで続けた。


「俺も動揺しすぎて、おまえを傷つけた……。でも、これからはこんな時間ばっかりだぜ。話したいときに、話したいことをなんでも話そうな」


 ゆっくりと確かめるように言う玲の優しい声に、私は頷きながら、ぽろぽろと泣き出してしまう。

 玲は慰めるように私の頭をそっと撫でて、着てみせてくれた袴を脱ぎ始めた。



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