6-3(3/8追加)
クリューの目を覚まさせたのは、ぴちゃ、という水の音だった。
顔を上げる。寝ぼけていて、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった――が、夜の加工室とスプートニクを見て、制作の途中だったことを思い出す。粘土を乾燥させ、焜炉に入れたところまでは覚えているが、「暫く休憩」と言われてぼうっと椅子に座っていたら、そのまま眠ってしまったようだ。
「起きたか」
向かいの席でスプートニクが、水を汲んだボウルから作品を揚げている。焼成した作品を冷やしていたのだろう。クリューを起こしたのは、恐らくその音だ。
クリューは身を乗り出して、彼の手元を覗き込んだ。
「出来ましたか。銀、出来ましたか?」
「まったくお前は、眠いなら部屋戻って寝ろって」
「もう眠くないです。銀、出来ましたか」
彼が呆れた表情をしているだろうことは容易に想像がついたので、伺うことはしなかった。代わりに、布巾に取り上げられた作品の様子を見やる。てっきり、キラキラ輝く美しい銀細工があるものと予想しながら覗いたが、銀であるはずのそれは予想に反して白く光沢のないものだった。
おや、と思っていると、スプートニクは彼女の姿勢に呆れたのか、ため息をついて立ち上がった。
「明日、欠伸してるなよ。……あとは磨けば完成だ」
そして棚の引き出しから、大きめの歯ブラシのようなものと布のようなものを幾つか持って戻ってくる。彼はブラシの一本をクリューに渡し、次いで白兎のようになった作品を彼女の前に置いた。
しかし、磨くというのは。歯磨きの要領でいいのだろうか? しかしあまり強く擦っては、傷がついたり、最悪壊れてしまったりなんてことは――様々な不安が過ぎって、下手に触れられない。どうするのが適切か尋ねようとクリューがスプートニクを見た、そのとき。
「……あァ」
スプートニクが、ぽつりと呟いた。
その声はどこか疲れたようであり、摘み上げた指輪を眺める目は何故か苦々しく歪んでいる。何か不都合なことでもあったのだろうか? 傍目には、指輪は綺麗に焼き上がっているように見えたが。
「どうかしましたか」
「いや、何でもない。とにかくそれで擦ってみろ、銀らしくなるから」
スプートニクは自分の作品にブラシを当てると「こう」と擦って見せた。その手つきは思ったよりも粗略だ。多少乱雑な扱いでも壊れることはないらしい。真似て、かつて粘土であったそれをブラシで磨く。と、やがて白の下から鈍い銀色が覗いた。
嬉しくなって、思わず声を上げる。
「銀だ」
「そりゃ銀粘土だからな。綺麗に磨けよ」
乾かし焼いた兎の顔は、粘土のときより少しばかり縮んでいた。それでも焼成前、乾燥させたそれに目鼻と口を彫り入れたおかげで、足二本の水母もどきであった頃のそれよりよほど『らしく』 なっている。やや不恰好なれど思い描いている形に近づいていくのが嬉しくて、クリューはえへへ、と笑った。
――やがてクリューが、チャームの半分以上を磨けた頃。
指輪を光に翳していたスプートニクが、思い出したようにぽつりと言った。
「明日は午後、休業にしようと思う」
つい手が止まってしまったのは、不可抗力と言えよう。
こんな話をするときでも彼の目は、真っ直ぐに指輪を見ていた。
「です、ね」
せっかく忘れていたのに、わざわざ思い出させなくても。そんな八つ当たりめいたことを思うが、そのことで彼をなじるのはお門違いというものだ。締め付けるような胸の痛みにやりきれない感情を覚え、下を見る。そんな彼女にスプートニクが言うことは。
「で、お前に暇を出そうかと思ったんだが」
俯いた顔が、自然と上がった。
スプートニクを睨みつける。彼が今指輪を眺めているのは、集中しているのではなく、クリューを見ないための大義名分のようなものなのだとようやく気づいた。彼女の方を向かないまま、抑揚のあまりない声で、淡々と続ける。
「郷里があればそこに帰すのが一番いいんだろうが、それもできないからな……数日、どこか安全なところに。お前さえ良ければ、宝石商会の――」
「良くないです」
最後まで聞く必要は、ないと思った。
遮り、切って捨てる。と、ようやく彼がこちらを向いた。その灰がいつもより濃いような気がするのはきっと錯覚だ。それに例え錯覚でなかったとしても、こればかりは引ける道理などなかった。
彼が何か言うのを待たず、更に重ねる。
「そんなの、私が良いなんて言うと思ったんですか。そっちの方が驚きです」
「……だろうと思ったよ」
何処かに連れ出そうというのなら、店の柱に齧りついてでも抵抗してやる気でいた。が、そう意気込む必要はなかったらしい。彼は紙状の鑢で指輪を研磨しながら、最初からその説得は諦めていた、とばかりに笑みを浮かべた。
「うちの我儘娘がそんな融通を利かせてくれるとは最初から思っていない。だから代わりに、一つ約束をしてもらおうかと思ってな」
「約束?」
怪訝に、繰り返す。いったい自分に何をさせようというのだ――そう思って、作品を握ったままの手に、中途半端な力を込めたのがいけなかったのだろう。
直後、手の中で、嫌な感触がした。
認めたくはない。認めたくはないが――同時に、妙な音も鳴ったように思う。恐る恐る、視線を手元にやると、兎の耳の付け根近くに、深々と、黒い筋が入っている。
「ああ」
手を離すと、右耳が、ころりと落ちた。
上げた声はひどく悲痛なものとなった。まさか銀が折れるなんて。それほど力一杯握ったつもりはなかったのだが、と思いながらスプートニクを見る。彼は苦笑いを浮かべていた。
「残念。焼成が中途半端だったか、厚みが一定じゃなかったか……ま、よくある失敗だ」
「失敗」
唇にきゅっと、力が入る。そんなクリューに、スプートニクはけらけらと笑った。
「へこむな」
「だって」
気にするなという方が無理な話だ。しかし彼は笑うばかり。
「やらかすのはお前だけじゃねェよ。見てみろ」
何を見ろと言うのだろう。ばつが悪いながらも、なんとか顔を上げる。彼がこちらに向けていたのは、自身の手の甲だった。
クリューが、あれ、と呟いたのは、その小指を見たせいだ。
そこに据わっているのは、先ほど銀になったばかりのあの指輪だった。――しかし。彼の、節の目立つ長い指、小指の付け根まで降りるはずだったのであろうそれは、第二関節の上で止まっていた。彼が使うには、サイズが小さすぎる。
思わず瞬きをする。彼は彼女の反応など興味がない様子で、自身の指からそれを抜き取ると再び磨き始めた。
彼の手の中、鑢の摩擦を受けて鏡面のように美しく輝いていく『失敗作』。
「久々にやったら、収縮の割合を間違えた。まァ、よくあることだ」
「どうするんですか、それ」
「仕方ねェし、店で捨て値で売るよ。自分用のはもう一度作り直すしかない。買ってくれる人がいるのを願うだけだな。……そうだ、これに嵌める石を探さないと」
何かいい在庫があったかな。スプートニクは机に指輪を置くと立ち上がり、こちらに背を向けて、石を収めた棚に歩いて行った。
――そのとき。
それをそうしてみたいと思ったのは、単なる思いつきである。そうであったらという願望がまったくなかったわけではないが、そうでなかったとしても決して落ち込んだりはしなかったろう。だからクリューはそのとき特別、それに対して何かを期待していたということはなかった。
それでも少し、気になって。
クリューは椅子を立つと、手を伸ばし、指輪を、敷いた布ごと自身の方に引き寄せた。光の加減で、鏡面に映る色がゆっくりと移動する。近くに寄せると、細かい意匠もよくわかった。失敗作と呼ばれた美しいそれは、研磨の途中であるせいで部分によって艶に多少の差はあれど、洋灯の温かい明かりによく輝いている。
指輪を持ち上げ、光に透かし。そしてそれを、自身の左手中指に差し込んでみる。
すると。
「……わ」
偶然にもそれは、宛ら図ったように、彼女の指にぴったり嵌った。
きつ過ぎず緩過ぎず、まるで初めからクリューのために誂えたような大きさだ。曲線を多く使った意匠はひどく繊細で、まだ石こそなけれど彼女の細い中指に栄えて見えた。
「すてき」
空いた右手を頬に当てる。感嘆のため息が、言葉と共に漏れた。
呟きを聞き留めたスプートニクが、引き出しを支えたまま、何事か、と言いたそうな様子で振り返る。けれどクリューが驚いた様子で自身の手を広げていること、また彼女の視線の先、指に例の指輪があることから、彼も理由を察したようだった。小箱を一つ取り出しながら、感心したように言う。
「ヘェ。よく合ってるじゃないか」
それがサイズのことか、それともクリューと指輪の相性のことかはわからないが。ともかくいずれであったとしても、彼女の心は既に決まっていた。
指輪を嵌めたままの手を胸元に引き寄せて、彼に向け、告げる。
「私、これ、買います」
「お前が?」
驚きか、スプートニクの瞼がやや上がる。
しかし売り物にするというのなら、誰かの手に渡るのは確定しているのだ。それの買い手がたまたま店の従業員であったとして、いったいそこに何の問題があろうか。クリューは深く頷いた。
「はい。いくらで売ってくれますか」
「そうだなァ……」
スプートニクは棚を閉めると、小箱を片手に持ったまま、腕を組み、薄暗い天井を見上げて唸った。値段までは決めていなかったのか、素材費、意匠料、としばらくぼそぼそ呟いて――結果、何を思いついたか彼は、自嘲気味に笑ってかぶりを振った。
そしてクリューを見据え、告げる指輪の『代金』は。
「いいよ。俺の奢りでいい」
「えっ?」
理解するのが一瞬遅れたのは、返された言葉がまったくの想定外だったからだ。
例え失敗作とはいえ、素材は純銀で意匠もまた細かい。ただ彼の指にサイズが合わなかったというだけで、それ自身には一切非のない立派な装飾品である。だから、売るならそれなりの値を付けられる代物だろうと覚悟していた。
というのに、奢りでいい、だなんて。
彼の顔をまじまじと見返すが、どうも冗談を言っているようではなかった。しかし後になって「あれは嘘だ」などと言われてはたまらない。念を押すように繰り返す。
「いいんですか。本当に、頂けるんですか」
「構わねェよ。ほら、石はどれがいい。好きなの持ってけ」
机を回って、彼女の左隣にやって来る。一切の迷いない返事と同時に差し出された小箱には、丁度この石枠に収まる大きさの宝石が幾つもしまわれていた。色はどれも目に鮮やかで、青や赤、黄色に緑、様々だ。
その中に一つ、澄んだ赤い石があった。
「……これ」
それに惹かれたのは、他でもない。クリューが愛用しているイヤリングの石によく似ていたからである。かつてスプートニクから贈られた、片耳のイヤリング。
その赤い石を指さしたまま、スプートニクを見た。
「この石、私のイヤリングに似てます」
「うん? ……あァ、そうだな。その石はあれと同じ、ガーネットだ」
やっぱりな、と納得。思えばこの指輪の意匠は、あれともどこか似ている。当然か、いずれも彼が作ったものなのだから。
同じような雰囲気の指輪とイヤリング、揃いでしたら、きっと素敵だろう。
「これがいいです」
「そうか。じゃ、少し貸せ」
そして手のひらが差し出される。クリューは指輪を外して、その上に置いた。些かの名残惜しさを覚えるが、すぐにまた自分の元に戻ってくるのだ。スプートニクは箱と指輪を持って、先ほどまで座っていた席に戻る。「さっさと仕上げてやろうな」と、彼は研磨を再開した。
無骨な指に摘ままれた小さな指輪を映す、珍しくも外連味のない瞳。もしもその目で自分を見つめてくれたなら、どれほど幸せなことか――などとつまらないことを考えているうちにも、彼の作業はどんどん進んでいく。やがて全体が均一な鏡面になった頃、空いていた石留めに彼女の選んだ赤を取り付けた。仕上げに薬品を含ませた布で全体を整えて、光に近づけ様子を見。
そしてスプートニクは、満足げに微笑んだ。
「完成」
その手から指輪を奪い取りたい衝動を、クリューは必死に抑えた。
彼の手の中で、一粒の赤を守るように佇む銀。先ほどまでただの粘土に過ぎなかったそれが! その美しさを、感動を、何と形容したら伝わるだろう。思い浮かぶどの言葉もどこか陳腐に思えて、自分の語彙の少なさにもどかしさを覚える。表せないそれを何とかして表そうと、大きく両腕を振ってみるが、それもまた、彼を笑わせる程度の役にしか立たなかった。
「あの、あの、ええと」
「何を暴れているんだ」
「だって、だって、凄いんです。指輪、凄いです。綺麗です」
そんな陳腐な言葉しか吐けない自分が恨めしい。けれどその思いも考えも、性格は悪いが頭の良いこの人はきちんと汲み取ってくれたようだ。
その証拠に、ものを言う声が少しばかり柔らかいものになった。
「飾師冥利に尽きる言葉を、どうも。……ほら、手出せ」
「はい。はい」
頷いて、差し出された左手に、同じ左手を乗せる。彼の手が軽くクリューの手を握って、その感触につい心臓が跳ねた。一方、指輪の売買や扱いに慣れているスプートニクの方は動じることなく、右手に摘まんだ指輪をそっと、彼女の細い指に近づける。そしてやがて、指輪に彼女の指先が触れる――
しかしその、直前で。
なぜか、彼の指輪を持つ手が止まった。
どうしたのだろう。指輪を眺めて待つが、いつまで経っても指先が輪をくぐらない。怪訝に思ってスプートニクを見上げると、彼は彼女を見ていなかった。表情には喜びも不快もなく、瞳は焦点が合っていない。どうも、何かを考えているらしい。
「スプートニクさん?」
「この指輪はくれてやる。だから」
名を呼ぶと、彼はようやく口を開いた。
ただ、その物言いはひどく重たい。指輪を握った手を、クリューからやや遠ざけながら、彼は言った。
「……俺の前に飛び出すの。あれをやめろ」
そして深く息を吐き、心底呆れたように。
「あれは、心臓が幾つあっても足りない」
何のことを指すのか、すぐには思い出せなかった。
仕事でも私事でも、彼の眼前に立つことは何度もあるが、彼が言いたいのはそれではないのだろう。飛び出すということは驚かすということだろうか――そこまで考えて、ようやく過去の記憶と結びつく。彼が言っているのは昨日、クリューが魔法少女の前に立ちはだかったときのことか。魔法少女の攻撃によって傷ついた彼を、魔法少女から庇ったこと。
そして先ほど彼が言いかけた『約束』というのも、そのことか。指輪によって高揚した気分が、落ち着いていくのがわかる。
――それでは自分が、彼が、またあのような状況に陥ったとき。自分は目の前で彼が傷ついていくのを、黙って見ていろと言うのか?
「でも」
「あのな」
そう抗議しかけて、しかしやめたのは、遮った彼の声がゆっくりと深く、落ち着いたものだったからだ。怒るでもなく叱るでもなく、ただ当然の事実を説くような余裕のある物言い。その中に、いつもと変わらぬ自信だけが満ち満ちている。
「俺は何されても死なねェっつったのはお前だろ。そりゃ心臓に杭ブッ込まれても死なねェかも知れんけどな、それでも流石に心臓止まったら死ぬぞ。お前は俺を殺したいのか?」
そんなことはない。大きく首を左右に振ると、彼は我が意を得たりとばかりに頷いた。
右手に摘まんだ指輪を、再び彼女の手元に持ってくる。鏡面のようにつるりと磨かれた銀が、まるで彼女の心配を笑うように、光を返した。君は何を案じているんだね、とでも言いたそうに。
「だったら、俺を信用しろ。この間のは少し油断しただけだ、二度目はない。もうお前を不安にさせるようなことは絶対にないし、俺は何されても死なねェから。だからもう二度と、敵の前に飛び出すような真似はするな。それが誓えるなら、これはお前にくれてやる。――それともなんだ。俺は信用できないか。俺はお前に庇われなきゃ生きられねェほど弱いのか」
いい加減で、適当で、だらしがなく、本音がどこにあるのかわからない人。しかし何度も彼女を救い、慰め、今ここに立たせているのもまた、他でもないこの人だ。
傲岸で、不遜で、誰よりも自信有り気に佇むこの彼が弱いだなんて、そんなことがあるものか。
「そんなことは、ないです」
「だろう」
スプートニクの、彼女の左手を支える手に、念を押すように、力が入る。
そして彼は、囁くように尋ねた。
「なら、誓えるか」
素行も、振る舞いも、性格も良くないこの人のすべてを信じるには、あまりにもいろいろなものが足りていない。けれど彼の強さだけは、疑いようのない真実だ。
だからクリューは深く頷いた。頷いて、答えた。
「誓います」
――けれど。
何故だろう。その答えに彼は、満足しなかったようだ。
眉を寄せ、唇を引き、不快と苦笑とが綯い交ぜになったような妙な表情を作る。何か物言いたそうに視線を落ち着きなく彷徨わせ、結果下した決断は、
「いや。やめよう」
「えっ?」
思わず、素っ頓狂な声が出た。それは指輪をくれるのをやめるということか、それとも。彼の気に沿わぬ何かをしたかと自身の言動を思い返すが、自分は素直にスプートニクの立てた決め事に了承しただけだ。ならば何故?
支えられたままの左手を凝視しながら必死に頭を巡らせる。
が、結論から言えば、それは無用な努力だったようだ。スプートニクは指輪を摘まんだままの手で、ぽんぽん、と彼女の頭を撫でた。
「二度とそういうことはしない。約束できるな?」
そしてもう一度、先ほどと同じようなことを繰り返す。
何を『やめた』のかよくわからないが、質問自体に裏の意味があるようにも思えない。だから怪訝に思いながらも、クリューは先程と同様に頷き、答えた。
「はい」
「ならいい。――お買い上げどうも」
すると今度は、先程渋ったのが嘘のようにあっさりと、彼女の指にそれを嵌めてくれた。
意匠にもサイズにも過不足ないガーネットの指輪。スプートニクはは自身の左手を少し動かして彼女の指と指輪を見回し、不備がないことを確認すると手を離した。温もりが離れたことに、クリューは些かの寂しさを覚えたが、彼の方はもうその指輪には興味がなくなったようで、椅子から立ち上がりながら「まァ一度目は油断したけど二度目はねェわな」などとぶつぶつ言っている。何のことかは聞かずとも分かった。
けれど、彼はいったい何を躊躇ったのだろう。
スプートニクは棚を開け、またいくつかの道具を引っ張り出している。彼の真意を知りたくて、その姿をじいっと見つめていると、どうもその視線に気づいたらしい。棚に差し入れた手はそのままに、彼はただ顔だけをこちらを向けた。
彼はクリューと目が合うと、頬をほんの少しだけ歪め、柔らかく微笑み、そして。
彼女の疑問に対する答えを、口にした。
「お前みたいなお子様に、『誓いの指輪』は、まだ早い」




