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第三章 困惑の村~ 誘惑と迫りくる術士の驚異(5)

 悪の権化である奇術師ガゼル、その彼は今、運試しの館の祭壇の前で影のように佇んでいた。

 時折、水晶玉に何かを映し出し、それを見ながらにやける顔つきは、溢れるほどに不気味な妖気を感じさせる。

 邪気をはらんだオーラが垂れ込めるこの館。今日も、そしてこれからも、館の主は望みを叶えようとやってくる人間たちを待ち続けるのだろうか。

 それからすぐのことだった。彼の耳に響いてくる、騒がしいいくつもの足音――。

「……どうやら、賑やかなお客様が来たようですね」

 ガゼルは含み笑いを浮かべて独り言を囁いた。それは招かざる来客か、それとも?

 大きな扉を開いて、彼のもとへ飛び込んできた者、それは、灼熱の熱地から無事に生還した、壺を大事に抱えているシルクたちであった。

 憎むべき敵を目の前にして、眉を吊り上げて怒りをあらわにする彼女。その凛々しい表情から、ここまで駆けつけてきた疲労など感じられない。

「さあ、ガゼルさん! この壺をしっかり覗き見させてもらったわよ。お約束通り、願い事を叶えていただけるんですよね?」

 それはもう勝ち誇ったような顔で、シルクは美しく輝く壺をガゼルに突き出した。

 彼は衣装で隠している眉をピクリと動かした。

 それでも落ち着き払おうとする彼は、取り繕うように、彼女たちの帰還をにやけながら歓迎していた。

「ほう、これは素晴らしい。あなた方は大した強者ですね。そのご健闘ぶりに敬意を表しますよ」

「敬意なんて必要ないわ。あたしが欲しいのはただ一つ。この世界にいる人間たちを救うという望みだけよ」

 ガゼルとシルクの間に、ただならぬ緊張感が走り抜ける。

 お互いが口を真一文字にして押し黙り、お互いの出方を窺おうとする二人。

 余裕に満ち溢れていたその表情。それを先に崩したのは、このまま白を切れないと判断した彼の方であった。

「どうやら、あの獄門鬼を打ち倒したようですな」

「驚いたでしょうね。まさか、女子供のあたしたちが、あれほどの魔物を倒すことができるなんて、と」

 獄門鬼という強敵を撃破し、さらに、目の前にいる奇術師の正体も聞かされていたこと、シルクはその一部始終のすべてを告白した。

 奇術師ガゼルは不敵な笑みを零していた。この状況となってもこの余裕ぶり。予想外ではあったものの、これも彼の思惑の中の一つだったのだろうか。

 これ以上の悪事は許すまいと、彼女は立ち向かう姿勢を前面に押し出し、彼に向かって持ち帰った壺を思い切り投げつけた。

 すると、弧を描いた壺は刃で切られたように破壊されて、魔物の体に触れることなく、無数の欠片となって床の上へと落下していった。

 これこそが、ガゼルという魔族が繰り出した風殺魔法のなせる業であった。

「ここまで来たら、わたしもごまかす必要はないですね。お見事でしたよ、シルク。あなたのその才能、やはり我が魔族において脅威となるでしょう」

「待って! あなた、どうしてあたしの名前を?」

「そんなことはどうでもよいこと。ククク、ほんの少しだけ、あなたの優れた能力を試させてもらいますよ!」

 ガゼルは灰色の身ぐるみを脱ぎ捨てて、ついに、隠されていた魔性の姿をさらけ出した。

 邪気に染まった真っ青な法衣に身を包み、禍々しい殺気を漂わす風格はあまりにも恐ろしく、シルクたちの体を縛り付けるほどに震撼させた。

 黒目のない細い目を鈍く光らせて、耳元まで裂けた口でせせら笑う妖魔ガゼル。まるで煙が立ち上るように、彼はフワッと空中に浮遊する。

「クックック、シルクよ。このわたしの究極の魔法、果たしてどこまでかわせるかな?」

 シルクたちは迅速に反応し、素早く戦闘態勢に入る。

 スウォード・パールを鞘から抜き取った彼女、そして、魔法を仕掛けようとするワンコーとクックルー。

 身構える彼女たちにまず襲い掛かってきたのは、先ほど、美しく輝く壺を木っ端微塵に切り裂いた、あの風殺魔法であった。

 ガゼルの両方の手のひらから、空気を切り裂くいくつものかまいたちが放たれた。

 まるで電光石火のごとく、スピードに乗って彼女たちの全身を掠めたその魔法は、これまで目にしたことのない、ランクが一つ上の斬鉄破だったのだ。

「みんな、大丈夫!?」

 多少なりの切り傷を負うも、シルクたちは致命傷にまでは至らなかった。これもすべて、数ある戦いを潜り抜けてきた、彼女たちの経験値が役だったと言えなくもない。

「姫、気を付けるワン! 今の魔法は、風殺魔法の一つ斬鉄破だワン。真空破よりもはるかにスピードが速くて、威力も倍増しているワン」

「なるほど。さすがは術士のような身なりだけあるわね」

「一箇所に集まったらやられる。とにかく、ヤツの魔法を分散させようコケ!」

 シルクたちが作戦を練っている間にも、ガゼルは隙間なく、得意技と言える魔法攻撃を仕掛けてくる。

「これはどうでしょうか、氷柱っ!」

 次なる魔法、氷殺魔法の一つである氷柱が発せられると、天井から数十本の氷の柱が、シルクたち目掛けて降り注いできた。

 それぞれ三方向に分かれた彼女たちは、素早い身のこなしで、その氷柱の追撃をどうにか回避することに成功した。

「ほう、子供ながらにすばしっこいですね。しかし、いつまでも避けられませんよ」

 ガゼルは余程魔法パワーを持て余しているのか、さらに破壊力抜群の大技を繰り出そうとする。

 しかし、シルクはそれを見逃さなかった。大技を放つためには、それだけの長い”気合い溜め”を必要とすることを。

「その攻撃までの間、あなたには大きな隙ができる。そこが攻撃チャンス!」

 シルクは猛スピードでダッシュすると、空中を漂うガゼルの間合いに一気に突入した。

 韋駄天の勢いで、名剣を彼に向けて突き立てようとした、次の瞬間――!

 ギロリと狡猾の目で不気味に微笑んだ彼は、人差し指から波打つビーム光線を発射し、彼女の全身を膜のような物で包み込んでしまう。

「え、何!?」

「ククク、残念でしたね、シルク。わたしの魔法は何も、攻撃ばかりではありませんよ?」

 ガゼルが解き放った魔法により、シルクはまるで鉛のように体が硬く重たくなってしまった。

 両手足を軽やかに動かすことができず、天性なる機敏な動作すら封じられていた彼女。体勢を立て直したくても、体が思うように利かずもがき苦しむだけだ。

 恐るべき魔法にかかってしまった彼女を見て、ワンコーは目を剥いて驚愕の声を上げる。

「ア、アイツの魔法は鈍足波、敵の行動を鈍らせることができる補助魔法だワン!」

「おい、ワンコー! うんちくはどうでもいいから、シルクを元に戻す方法を考えろコケ!」

 クックルーに叱責されたワンコーは、ただでさえ下がった目尻を落として思案に落ちる。

 鈍足に対抗すべきものは俊敏しかない。だが、ワンコーの経験値ではまだ、俊敏波の魔法を取得していなのが実情なのであった。

 だからといって、このままだとシルクは敵の格好の餌食となってしまう。ワンコーは意を決して走り出し、ご主人様の救出へと向かう。

 ところがガゼルの怪しく光る眼光は、駆けてくる彼の姿を確実に捉えていた。

「ワワン!?」

 それはあまりにも突然のことだった。

 ガゼルが軽々と唱えた氷殺魔法によって、ワンコーは落ちてきた何本もの氷の柱に囲まれて、まったく身動きが取れなくなってしまったのだ。

 補助魔法しかないワンコーには、当然その氷の牢屋を破壊する術もなく、ただ独りぼっちでそこに閉じ込められる運命であった。

 こうなったらオレの炎で開放してやる! クックルーは全身を真っ赤に染め上げるなり、氷柱の監獄の真下を狙って火柱を放出した。ところが!

「ど、どうなってるコケェ!?」

 いきなり、ガゼルが繰り出した強大な氷柱がそこに落下し、クックルーの渾身の火柱を瞬く間に消し飛ばしてしまったのだ。

 これにはさすがの自信家のクックルーも、開いたクチバシが塞がらず、目を見開いてただ呆然とするしかなかった。

 裂けている口をさらに大きく開いたガゼルは、シルクたちを嘲るようにケラケラと不敵に笑い始める。

「ククク、どうです? あなたたちのような下等生物が、魔族界の高位に君臨する、この大魔法士ガゼルと太刀打ちできると思っていたのですか?」

 これまでの容赦のない魔法の数々。強さもスピードも、これまでのものと比べたらどれも桁外れだ。それほどまでに、奇術師ガゼルの実力はずば抜けているのだ。

 シルクの表情がみるみる焦りの色に染まっていく。その心理はまさに、灼熱地獄で出会った獄門鬼の時とは違う、勝機すら見えない絶望感を覗かせていた。

 ガゼルは狂気に満ちた妖しい眼光で、素早い動きを封じられている彼女を見据えた。

「さて、シルク。そろそろ、冥途の先へ誘ってあげましょう。この闇魔界よりもはるかに暗い世界へと……」

 まるで小枝のような細い右手を垂直に伸ばし、大魔術を呼び起こす瞑想を始めるガゼル。すると、その伸ばされた右手の先が、蜷局のように渦巻いた暗黒に包まれていく。

 どんどん大きく渦巻いていく巨大な暗闇。それは真空でも氷でもない、彼がこの時まで温存していた究極奥義であった。

「ククク、冥途の土産に見せてあげましょう。わたしの暗黒魔法を」

 シルクは逃げるどころか、手足すらまともに動かすことができない。必死にもがくも、鈍足波という雁字搦めの魔法から解放されることはなかった。

 監禁状態のワンコーはただ慌てふためき、そして、魔法すら放てないクックルーも、奇術師が生み出したおぞましい暗黒の渦に戦意喪失し、身動きを取ることができずにいた。

 これで終わりです……。ガゼルのそんな呟きとともに、ついに暗黒魔法が放出されてしまった。

 暗黒魔法が織り成す巨大な闇の空間に、その全身を覆い尽くされていくシルク。

 スーパーアニマルたちの悲鳴のような叫び声も、漆黒の渦から漏れる轟音にかき消されて、彼女の耳まで届くことはなかった。

 彼女はもう祈るしかなかった。輝きを失うことのない瞳をグッと閉じて、神聖なる天神に祈りを捧げる。

(どうか神よ、あたしの体に宿る未知なる能力よ、今こそ奇跡を起こしたまえ!)

 シルクに残された運命は、絶望と滅亡しかないのか――?

 ここにいる誰もがそう思った瞬間、それはあまりにも突然の出来事だった。

 まるで光のオーラを纏うように、彼女の全身が純白に輝く聖なる光で煌めいた。

 優しい温もりに包まれる感覚を覚え、瞑っていた瞳をそっと開けてみる彼女、光り輝く自分の姿に絶句し、王女の証しとして授与された、シルバーのイヤリングが輝きの源であることを知った。

(……こ、これが、神聖なる天神の力?)

 その壮絶なる光の強さに、ワンコーとクックルーは反射的に目を閉じる。

 暗黒魔法を解き放ったガゼルすらも、闇の深淵をも貫いてくる光線の眩さに、思わず驚愕の声を漏らすのだった。

「こ、この光はいったい? ま、まさか、これが邪剣士さまがおっしゃっていた――!」

 シルクを包み込んでいた聖なる光は、美麗に煌めく美しい女神の姿を象り、邪神のごとく襲い掛かる暗黒の渦を打ち消していく。

 こんなバカなことが!? ガゼルの裂けた口からそう漏れ出した直後、彼は暗黒魔法の崩壊とともに、その影のような胴体をも吹き飛ばされてしまった。

 天神の意思としての使命を果たした美しき女神。その眩しい光が、耳元に下がるイヤリングへと吸い込まれると、シルクは魂を抜かれたようにぐったりと気絶してしまう。

「ひ、姫……!」

「シルク……!」

 クックルーの火殺魔法でようやく自由の身となったワンコー。

 彼は慌てふためき、床に倒れているご主人様のもとへ駆け寄っていく。もちろんクックルーも、彼の背中をせっせと追いかけていった。

 ワンコーとクックルーの献身的な看病もあってか、幸いにも、シルクはすぐに息を吹き返すことができた。しかし、彼女は自らの命を救ってくれた、光り輝く女神の存在をまったく覚えてはいなかった。

「……あたしがね、光のオーラのようなものに包まれたことは記憶にあるの」

 シルクは震える指先で、耳たぶにぶら下がるイヤリングに触れる。

 生命を持たない無機質なそのイヤリングだが、ほんのかすかに、彼女の指に優しい温もりを伝えてくれた。無論それは、彼女以外知り得ることのない微々たる感覚であった。

 放心状態と化していた彼女、そして、スーパーアニマルたちの耳に届いた小さな物音。

 聖なる女神の洗礼をまともに食らったガゼルは、小部屋の奥に祭られた祭壇に激しく叩きつけられたものの、まだ絶命してはいなかった。

「お、おのれ! まさかわたしの暗黒魔法が消し去られてしまうとは」

 埃まみれの法衣を手で払い、細身の体をどうにか持ち上げるガゼル。

 そんな彼の視界にチラリと映る、銀色に光り輝く磨き抜かれた剣先。そう、それこそ、シルクが突き出している名剣スウォード・パールである。

 彼がおぞましい顔をゆっくり上げると、戦意を取り戻した彼女の凛とした表情がそこに存在した。

「これで形勢逆転ね、ガゼル。あたしにはね、守護してくれる天神の力が宿っているの」

 神聖なる天神ばかりではない。この地に住まう人間たちの人として生きるという望みが、こんな小さな自分に勇気を分けてくれたのだと、シルクは毅然とそう言い放つのだった。

 生意気な小娘の分際で綺麗事を抜かしおって。ガゼルは危機的状況にも動じる様子を見せず、ただ強気に嘲笑する。だが精神的に追い込まれてか、その語調には苛立ちのようなものが混じっていた。

「クックック、これで勝ったと思わないことです。魔族の高位であるわたしを舐めてもらっては困りますね」

「いいえ、あなたはここで滅びるのよ。このあたしの、聖なる魂の一撃でね」

「クッ! 下等生物のくせに、言いたいことを言ってくれますね。そう簡単には行きませんよ」

 ガゼルはシルクの意表を突いて、突き出した剣先を弾き飛ばすと、またしても空中浮遊を試みようとする。

 このまま空中に逃げられてしまうと、地上戦を得意とする彼女は手も足も出ず、さらには、彼の魔法攻撃の格好の餌食となってしまう。

 頭上を見上げる彼女たちに狙いを定めて、ガゼルはニヤリと微笑し、氷殺魔法である氷柱を唱えようとした。

 そうはさせてたまるか!と、大きく息を吐いたのは、火殺魔法を得意とするクックルーだ。

「オレの火の玉乱れ撃ちを食らいやがれコケ~!」

 クックルーは自らの羽根を大きくばたつかせて、真っ赤な火の玉の弾丸を高速連射した。

 数ある弾丸はうねりを上げながら、空中へ昇っていくガゼルの真っ青な法衣を目指していく。

 火の玉が思いのほか正確な軌道を描いたせいか、彼は魔法の体勢を崩すしかなく、その一つ一つを払い落とすことに徹するしかなかった。

 氷殺魔法を封じられて、火殺魔法に気を取られてしまった彼のわずかな隙を、シルクが見逃すはずはなかった。

 彼女は一気に間合いを詰めると、床を蹴り上げて高々とジャンプする。

「ガゼル! あたしの必殺技、その身を持って味わいなさい!」

「お、おのれ、シルクゥ!」

 シルクの振り上げる名剣は、クックルーが放出した火の玉を巻き込み、燃えさかる炎の剣に姿を変えた。

 魔法と合体したその剣筋は空を切り裂き、空中で逃げる術を失ったガゼルを脳天から斬りつけた。

「グワァァ!」

 頭のてっぺんから炎が立ち上り、それが青い法衣も全身までもみるみる焼き尽くしていく。

 奇術師ガゼルは聖なる業火に焼かれながら、その命を終えるかのごとく床の上に落下した。

 強敵を撃破したシルクは軽やかに着地し、名剣スウォード・パールを鞘の中に仕舞う。そして、ワンコーとクックルーの二匹は、勝利という二文字を噛み締めるように笑顔を見せ合った。

 炎がまだかすかに燻るガゼルの亡骸。真っ黒になった燃えかすに近づいていく彼女たち。

「ちょっと待って……」

「これ、どういうことだワン!?」

 ガゼルの焼死体に異変を感じたシルクとワンコーは、愕然とするあまりその途中で立ち止まる。

 そんな二人の不穏な声に気付き、クックルーまでもが歩みをピタッと止めてしまう。

「おいおい、どうしたんだコケ?」

 ゆっくりと慎重に、おっかなびっくりに近寄っていくシルクたち。揺れ惑う視界に飛び込む黒ずんだ死体の正体とは、彼女たちがまったく想像していないものであった。

「これ、ガゼルじゃないわ」

 灰と化した焼死体を見つめながら、シルクは絶句したままその場に立ち尽くす。

 焼け落ちていた魔物の顔は、憎き奇術師ガゼルの亡骸などではなく、灼熱の熱地の入口で門番をしていた、あの魔法使いのような人物の苦しみに満ちた死に顔だった。

「そ、そんなはずは……。あたし、幻でも見ているというの?」

 その刹那、戸惑いを浮かべるシルクの鼓膜を震わす、薄気味悪い妖しき笑い声。

 どこからともなく小部屋の中に響き渡る声が、彼女の神経を逆撫でる。それもそのはずで、おぞましいその声の主こそ、あの奇術師ガゼル本人のものだったからだ。

 どこにいるの? 出てきなさい! 前後左右を見渡しながら怒鳴り声を上げるシルク。しかし、彼の青い法衣も影もどこにも映らない。

「クックック、残念でしたね、シルク。わたしはまだ、滅びるわけにはいかないのです。なかなか、楽しませてもらいましたよ。子供ながらのその才能、とくと拝見させてもらいました」

「このまま逃げるつもりなの? あたしたちをどこまでバカにする気!?」

「そう焦ることもありません。またそのうち…いや、きっと、お目にかかる時がやってくるでしょう。それこそが、あなた方の運命であり、宿命でもあるのでしょうから」

 意味ありげな台詞、そして、苛立たしいほど滑稽な高笑いを残して、ガゼルの声はどこか遠くへ消えていってしまった。

 魔族の呪縛から解放された運試しの館は、水を打ったように清閑としていた。

 この館の主はどこかへ去っていった。ここには、シルクたちにとって勝利でも敗北でもない、悔しい屈辱感だけが残されていた。

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