13. てっちり鍋
剛三は五年前のアルバムを眺めて笑っていた。見ていたのは、若世帯が寿いでもらったときのスナップ写真だ。岩田家と浜崎家の結婚披露宴は、昔気質の剛三から見るととても風変わりで、そして笑いに満ちた披露宴だった。
新郎新婦が変わり者だと、友人や職場仲間たちも、いい意味で充分に変わり者だった。避妊具や精力剤を堂々と掲げ、健二に向かって「がんばれ」と寿ぐ職場の仲間たち。かつて律保に祝辞を述べられた新婦友人代表が、悪びれもなく「人生の墓場へようこそ」と、過去に律保が述べた祝辞をそのまま贈り返していた。
そのとき、高砂にいる主役であることも忘れ、茹でた蟹のように真っ赤になって彼らに怒声を浴びせたのは健二ではなかった。純白のドレスをまとった律保が立ち上がり、鬼の形相で仲間たちにとんでもない内容を理由に反駁した。
『もうお腹にいるんだから、そんなモノ要らないわよっ。がんばってないあなたたちが使いなさいッ!』
直後に湧いた、列席者の大爆笑。飛び交う冷やかしの指笛や歓声。轟くような「おめでとう」コール。剛三は列席者の席で挨拶の酌に回っていたが、そのまま会場から逃げ出したい気持ちを堪えるのに必死だった。赤面する暇すら与えられずに律保のなだめにかかる健二を見たときは、先々の苦労に同情さえ覚えたものだ。
『律保、松枝君、ホントにおめでとう。やっと自分たちで築く家族が生まれるのね』
つい先ほど「人生の墓場へようこそ」と述べた律保の友人が、涙交じりでそう告げながら律保を抱きしめた。ほかの女性たちも、次々と律保に寿ぎの言葉を紡ぎ、そして律保とそのお腹に宿る新たな命を守るように抱きしめた。男性たちが健二を囲み、口々に新たな家族の誕生を我がことのように喜んでくれた。
披露宴でのそんな光景を見た剛三の胸のうちは、愚かな娘息子たちに呆れた心境から、娘夫婦の仲間という存在そのものへの感謝へと変わっていった。
「しかしまあ、健二もとんだ女に引っ掛かっちまったもんだ」
そう呟いては、また「イヒヒ」といやらしい声が漏れてしまう。今思えば、それもまた、こうして笑って振り返ることのできるよい思い出になっていた。
「じぃじちゃん、朋、もうお写真見るの、飽きちゃった」
剛三の膝に大人しく座っていた初孫娘が、不満げな顔を剛三に向けた。
「そりゃそうだな。わりい、わりい」
そう詫びて、まだ動かすことのできる右手で朋の頭を撫でた。
「ひーまー。あ、ねえ、じぃじちゃん。ブランコっ」
五歳児に縁側でじっと座っておけというほうが無理だ。全身で退屈を伝える朋に、剛三は何度も頷いた。
「お母ちゃんにはナイショだぞ。バレたらまたうるせえからな」
そう言って人差し指を口の前に立てると、朋はぱあっと明るい笑みを零した。
「うんっ! じぃじちゃんと朋だけの、ヒミツ!」
朋はいつもこうやって、満面の笑みを惜しみなく剛三に与えてくれる。健二と律保のどちらに似たとしても、細い目であることに変わりはない。だが幸いなことに、朋は目尻が下がっていた。優しい健二譲りの顔立ちであることは、朋が生まれたときに一番ほっとしたことだった。
「じぃじちゃん。はい、杖っ」
朋が気を利かせて自分の背丈よりも高い杖を立ててくれた。
「おう。ありがとうよ。よっこらしょ」
右手足を頼りに、縁側から立ち上がる。重い左半身を引きずりながら、最愛の孫が願うブランコ遊びを満喫しようと思ったとき。
「こーら、朋っ。じぃじちゃんっ」
鬼母が奥の居間から縁側まで出て来てしまった。
(やべえ、バレた)
剛三の背に、嫌な汗が伝う。二児の母になってから益々きつい気性になった律保の説教は、果てしなく長く、そして手厳しい。
「ブランコは危ないから、じぃじちゃんを誘っちゃダメって言ったでしょう。お買い物から帰ったらパパが遊んであげるって約束したじゃないの」
二人して恐る恐る声の主を振り返ると、出掛ける準備を済ませた律保が仁王立ちで縁側に立っていた。
「じぃじちゃんも反省なさい。いつまでも昔と同じ感覚でいちゃダメでしょう。脳梗塞で倒れたときのこと、覚えてないとは言わせないわよ」
剣呑に眉をひそめる律保の瞳に、怒りというよりも切なげな憂う色が宿っていた。
朋の弟、長男の健剛が生まれて半年ほどのころ。剛三が六十五歳で設備屋をリタイヤした年に、脳梗塞で倒れた。後遺症の左半身不随のために、律保は育児休暇の明ける日を迎えることなく、竹内工務店を離職した。
回復しないと言われた左半身を嘆き、健二や律保に涙を零して謝罪した過去が、剛三から拭われることはない。だが、だからと言って、ここまでの病人扱いは心外だ。
「なんでえ。それでも医者を驚かしてやったじゃねえか。歩けるようになるとは思わなかった、ってよう」
痛むリハビリに負けることなくがんばっている。お陰で左足を多少引きずりながらも、今では自力歩行が可能になった。完全に麻痺していた左手も、今はどうにか軽いものなら握れている。
「おめえは言うことがキツい割には、甘やかし過ぎるんだ」
そう抗いつつも、剛三は大人しく縁側に尻をつき直した。
「甘やかしてなんかいないわよ。だからこうして朋の子守もお願いしてるんじゃないの」
呟く律保の声音が、きつい物言いのくせに柔らかい。言い過ぎたと反省しているのが解り過ぎて、剛三は苦笑いを浮かべた。
「せめて、もうちっと、おめえたちが新婚気分を味わってから同居すりゃあよかったなあ。気の利かねえダメ親父で悪かったなあ」
剛三は、気のゆるみという自分の甘さが病気を誘発させたと思っていた。それには申し訳ないと思っているものの、老いていく自分に対してマイナスの感情だけを抱いているわけではない。老いは人に、己の弱さと傲慢さを知らしめ、人間を丸くさせる。こうして律保に詫びを告げられる素直な自分が、案外嫌いではなかった。
「ちっとばかり離れた恰好で暮らしてりゃあ、何もわざわざ今日みたいに、二人っきりの時間を外でなんて面倒くせえ手間を踏まずに済んだだろうしよ」
少しつまらなそうに独りでブランコ遊びをする朋を眺めながら、律保にいまさらな繰り言を愚痴零した。
「独り暮らしを続けて気ぃ張ってりゃあ、こんな情けねえ身体になることもなかったかもしれねえしよ」
「何言ってるのよ、自分をいくつだと思ってるの?」
隣で膝を折った律保にそうたしなめられた。
「もう六十八なのよ? 若いころの無理が出て当たり前の年ってこと。あとは、お酒の飲み過ぎ。それを心配するから、今日だってお母さんがお父さんについて来るんじゃないの」
律保にそう言われると、剛三の顔が自然としかめっ面になっていった。
「またかよ。別れた女房が、今の亭主と一緒に元亭主を訪ねて来るなんざ、聞いたこともねえや」
「福岡先生の往診があるたびにお父さんを呼び出すのは誰と誰? まったく。三人そろうと、すぐ飲み会にしちゃうんだから。福岡先生も何を考えてるんだか」
それはつい先月、千鶴自身が零した愚痴とまったく同じものだった。
「うっせえな。早く行け。健二が待ってるんじゃねえのかよ」
律保の誕生日は三月十二日だ。今日はもう四月のなかば。剛三の誕生日が近いくらいだ。一ヶ月以上も遅れてしまった律保の誕生日を、今日ようやく健二とのデートで祝うという。祖父連合で孫を見ると言って、二つ返事で子守を引き受けたのが一昨日のことだ。千鶴の参加は剛三の想定外だった。
「何拗ねてるのよ」
「千鶴が来るんじゃあ、朋も健剛も、みんなあいつに持っていかれちまうじゃねえか。つまんねえ」
いくつになっても女親には敵わない。そんな本音がぽろりと口を突いて出た。
「やぁね。じぃじちゃんはじぃじちゃん。おじいちゃんはおじいちゃんで、おばあちゃんはおばあちゃん。朋も健剛も、並べてみぃんなが一番、なのよ」
なだめるように、律保がくつくつと笑う。剛三も釣られて頭を掻きながら苦笑した。
「律保さん、お掃除が終わったんですね。こっちも道具一式出すのが終わりました」
健二の声で二人が振り返ると、健二が腕の中でぐっすり眠っている健剛を居間の座布団に寝かせているところだった。
「じゃあ親父さん、道具と壁材を勝手口に出しておきましたから。健剛が起きたら、手形のほうをお願いしますね。お義母さんが壁材の練り方を覚えているから任せておけ、と言ってくれたので、皆さんが来てからじゃないとダメですよ」
すっかり父親が板についた貫禄で、健二が剛三に笑みを投げてそう言った。
「おう。五歳と二歳の段だな」
「はい。律保さんの手形と同じ列に、はめ込む枠を作っておきましたから」
健二が言っているのは、かつて剛三たちの住まいだったこの家の壁を見て継承した慣わしのことだ。それは、我が子の成長の軌跡を残すこと。律保が十歳になるまで毎年手形を取って、それを壁にはめ込んでいた。思春期の始まり辺りで律保が恥ずかしがったため、たんすで隠してあったのだ。見つけた律保が今になって感動を示し、健二もまたそれを見て、自分の知らない律保を垣間見ることができたと剛三にやり方を尋ねて来た。それ以来、朋と健剛にも同じ慣わしを施している。孫たちは、塗りたての壁材に手を当てるのが大好きだ。きっと粘土遊びの延長気分なのだろう。またとびきりの笑顔を見られると思うと、剛三の相好が自然と崩れた。
「おう。ゆっくりして来いや。映画の時間は決まってるんだろう。いい加減に出ねえと間に合わねえんじゃねえか?」
そう促せば、律保がいそいそと立ち上がる。
「ホントだ。出る予定を十五分も過ぎちゃった。じゃあ、よろしくね。あ、勝手に独りでやっちゃダメよ。朋や健剛が壁材やモルタルを口に入れちゃったら、お父ちゃん独りじゃとめられないでしょう」
「あー、うっせえな。解ってるって。早く行けっ」
「ほーら、朋ー。じぃじちゃんとママの喧嘩が始まったよー。とめてあげてー」
「じーぃじちゃんっ、マーマっ。ケンカは、ダメっ」
「……へえ」
「……はぁい」
相変わらずのやり取りのあと、ようやく娘夫婦が出掛けて行った。
口やかましい娘の言うことなど、いちいち聞いてなんぞいられるか。
剛三は心の中で舌を出し、ゆるりと縁側から立ち上がった。
「じぃじちゃん、どっか行くの?」
ブランコから下りて問い掛けて来る朋に、いたずらな笑みを湛えて共犯を促す。
「浜崎のじいちゃんやばあちゃんを待ってるのは退屈だろ? 練り練りしながら待とうぜ」
威勢のよい「うんっ!」という返事を聞くと、剛三は朋にいなざわれる形で勝手口の土間へ回った。
こまめに一袋ずつ、モルタルと壁材を庭へ運ぶ。身の丈にしては大きな練りフネを、器用に被る形で運ぶ朋。その仕草や表情は、やはり幼いころの律保を彷彿とさせた。
剛三は頬の筋肉に軽い痛みを覚えた。終始笑っていられる毎日を過ごさせてもらっているので、頬の筋肉が悲鳴を上げているようだ。そんな日々を振り返って、また剛三はにやりと口角を上げた。
朋がホースから流れ出す水を、器用に少しずつモルタルに足していく。剛三を手伝って、水とモルタルを上手に鍬で掻き混ぜる。
「朋、いい手つきをしてるじゃねえか。こいつは巧くやらねえと、ダマになっちまうんだぜ」
「ホント? 朋、じょうず? 朋もしゃかんさんになれるかなっ」
――ねえ、お父ちゃん。律保はいいしゃかんさんになれる?
朋の言葉と輝く瞳が、遠い日の律保と重なった。
「左官なんて難しい言葉を、よく知ってたなあ」
「うん、パパが教えてくれたよ。じぃじちゃんはすごく立派なしゃかんさんだったんだぞ、って。朋ねえ、朋のお部屋のピンクの壁が、大好きなんだ」
そして少しだけ、しゅんと俯いた。
「あのね、じぃじちゃん。ママに、すごく叱られたの。じぃじちゃんには内緒、って言われたの。でもね」
みるみる潤む朋の目を見て、剛三はうろたえた。
「なんでえ。何やらかした。じぃじは怒んねえぞ。言ってみろや」
「うん、あのね。ピンクの壁、すごく大好きでね。がびょうでポロポロって、削ったの。小さいビンに入れてお日さまを見るとね、すっごくキレイなの。だから、ちょっとだけ、ちょっとだけ、って。そしたら、ね……」
「中の土壁が見えるまで彫っちまったのか」
ごめんなさい、と呟きながら、ぽたぽたと零す涙さえ愛おしい。剛三は落ち込む朋の頭をくしゃりと撫でて、申し訳なさそうな顔を上げさせた。
「そんだったら、朋の手形を今年はピンクで取ろうや。ついでに壁も直しちまえば、朋の部屋も元どおりだ」
「ホント? 直る?」
涙の腺が閉まったようだ。剛三は朋の目尻から零れた最後のひとしずくを拭いながら、とどめのようににやりと笑った。
「当たりめえだ。じぃじを誰だと思ってやがる」
「しゃかんさーん!」
からからと明るい笑い声が、空高く響く。小さな泣き声が居間から聞こえ、健剛の目覚めを二人に知らせた。
春の柔らかな陽射しは、練ったモルタルを乾かすほどの強さではない。剛三はベニヤ板でフネにふたをし、休憩を取った。
「はい、じぃじちゃん」
朋がペットボトルのお茶を湯飲みに入れて持って来てくれた。
「おう、ありがとうよ」
それを受け取り、縁側に腰掛ける。
「ねえね、ブラ、コっ」
すっかり目の覚めた健剛が、朋にブランコ遊びをせがんだ。
「じぃじちゃん、遊んでもいい?」
おずおずと許可を求める朋に、剛三はにこりと笑って頷いた。
「おう。気をつけて、ゆっくり漕いでやれや」
きらめく笑顔が、二つ。剛三に温かな心持ちをほどこし、「ありがとう」を元気いっぱいに紡ぐと、孫たちは争うように庭の真ん中へと駈けていった。
笑い声を聞きながら、少しだけ縁側で横になる。ひどく、眠たくなった。時々そんな睡魔に襲われる。
(……ありがてえ身分だあな……)
気の合う婿と、腹を割って喧嘩もできる孝行な娘。孫の高らかな声にやかましさを感じつつ、静かだとそれはそれで寂しく感じる、保育園のある平日を想う。
惚れた女は幸せな顔をして、今では母親面で説教をして来る。それを許す寛大な現亭主は、今の剛三にとって貴重な友の一人だ。
若い者が聞けば眉間に皺を寄せそうな「昔はよかった」談義に花を咲かせる日常。それを肴に悪友三人で飲み交わす酒は、格段に美味い。そんな酒を我慢して生きながらえるよりは、短くても太くて充実した余生を送るほうが幸せだ。そう断言する福岡に共感している自分がいる。福岡は腹の中に悪性腫瘍を抱えていた。最期まで現役でありたいと、息子夫婦の支援を受けながら今も患者を診続けている。福岡の病状を知っているのは、剛三の周辺では浜崎と剛三、福岡自身の三人だけだ。
(や、案外千鶴も知ってるのかもしれねえな。女房同士、話をするらしいしな)
だから律保をなだめてまで、なんだかんだ言っても酒を出してくれるのかもしれない。ふとそんな推測が脳裏を過ぎった。
それにしても、とても、眠い。今眠ってしまったらモルタルが乾いて困るのだが。それに、律保が言っていた。今夜は千鶴がてっちり鍋を作ってくれるらしい。
『お母さんが自分で捌くなんて言っていたの。免許を持っているから大丈夫なんて言っていたけど、実践してるのを見たことがないのよね』
福岡からてっちり鍋に合う酒を持っていくと連絡をもらったとき、冗談半分で「当たったときに備えて、てめえは飲むな」と言って笑い合った。
(てっちりは高過ぎて、食ったことがなかったなあ……寝ちまったら作業が遅れちまって、てっちりを食いっぱぐれるなあ……)
「じぃじちゃーん」
遠くで自分を呼ぶ朋の声がする。いつの間にか、瞼を閉じていたらしい。剛三は目を開けて答えようとするが、やけに瞼が重くて朋と健剛の姿を見ることができなかった。
(……ああ、けど、ねみいなあ……)
意識が遠のいていく。とても心地よくて、ゆらゆらと揺れているような感覚に見舞われる。記憶にはないはずなのだが、ふと思った。赤ん坊が母親に抱かれて子守られるときは、こんな心地よさを味わっているのだろうか、と。
走馬灯のように、駈け巡る。遠い遠い、思い出の数々。千鶴や律保の泣き顔しか覚えていないと思っていたのに、蘇るのは、それだけではなかった。
器に鍋の具を取ってやると、その都度むずがゆくなる笑みを零す、若いころの千鶴。初めて手を繋いだときに見せた、潤んだ瞳と染まる頬。
着物が乱れるからと千鶴にとめられ、化粧が崩れるほど泣いた律保の顔。泣いてしまったのは、
『お父ちゃんに抱っこしてもらう』
という願いを千鶴に制されたからだ。あれは確か、七五三のときだった。小さく生まれた律保の健康を、生まれた当初はとても心配した。無事七歳を迎えたそのとき、人並以上に喜んだことを思い出した。
出掛けに残された律保の言葉が、剛三の中で繰り返される。
『みんなでてっちり鍋をつつくなんて初めてよね。お母さんの味付けも久しぶり。楽しみにしててね』
千鶴の作る鍋を食べるのは何年ぶりだろう。少し休んで、少し眠って。浜崎がいいと言ってくれれば、一緒に台所に立ってやろう。若いころは雇った若いもんに手伝わせ、準備の手伝いをしたことがない。千鶴の願いを叶え損ねていた。もし千鶴が今もそれを望んでいれば、浜崎と三人一緒に、喜んでてっちり鍋を作ってやろう。
「こんにちはー。じぃじちゃん、いますか?」
遠くで愛しい女の呼ぶ声がする。だが身体が重くて起きれない。
「岩田さーん。あれ? 寝てるのかな?」
すっかり堅苦しい敬語の抜けた浜崎が、心配そうな声で自分を呼ぶのに。
(おう……こっち、だ……)
剛三は、千鶴や浜崎の声に答えることなく、深い深い、覚めない眠りに引き込まれていった。




