うさ耳くんは、やっぱり寂しい ③
母さんにぎゅっと抱きしめられるとほっとする。
前世の記憶がある身だと、恥ずかしさももちろんある。だけれども体に精神が引っ張られているのか、不思議とこのままでいいかって気になった。まぁ、俺もまだ子供だしなぁ。
……大人になったら流石にこうして親にくっつくなんて出来ないだろうし。今だけの特権だから、思う存分母親に甘えることって悪いことではない。俺も将来、ノアレと結婚して子供でも出来たら性別はともあれ凄く可愛がって抱きしめるだろうな。
うさぎの寂しがりやの特性って、大人になってもあるんだろうか?
俺は母さんが寂しいって、父さんに抱き着いたりしているところは見たことがないけれど俺の知らないところでイチャイチャしているんだろうか? ノアレと結婚したら、いつでもくっつけたら嬉しい。
いや、でも猫の獣人って、うさぎと違ってそんなに寂しがりやとかではないものか? 嫌がられるかもしれない。
もし俺がノアレと結ばれることがあっても、後からくっつきすぎて嫌われるとかだけは絶対に嫌なんだよなぁ。そうなると頑張って我慢するしかないのだろうか。
「母さん、うさぎの獣人って他の種族の違う人たちにくっつきすぎると嫌われる?」
「あら……少なくとも私は嫌がられたことないわ」
そう言って微笑む母さんは可愛らしい笑みを浮かべている。
うーん、それって母さんが可愛いうさぎの獣人の女の子だからでは? と思ったり思わなかったり。
俺の見た目は大きくなっても可愛いままなのかもしれないけれど、それでも……男に常にひっつかれるだと迷惑がる人はいそう。いや、それも性格によるか?
「いつか、ノアレと付き合えたらくっつきたいけれど難しいかなって」
「黒猫だものね。もしかしたら嫌がられるかもしれないわ。でもそのあたりは相談して決めたらいいと思うの。それにね、他の子と結婚することになるかもしれないでしょう」
母さんは……俺の初恋が実らないかもって多分思っている。いや、まぁ、それはそうなんだろうな。
そもそも世の中で初恋が実る可能性ってそこまで高くない。寧ろ他の人と結婚する方が多いだろうし。
いや、でも初恋は叶わないと思われていたとしても俺は叶えたい。というかそんな言葉があったとしても、可能性があるならどうにかしたいし!
俺は諦めが悪い方だし、周りが何て言おうともノアレと結婚出来るならそうしたい。うん、そもそも俺が諦めが良くて、吹っ切れやすい性格だったらさ、うさぎの獣人でありながら戦いの道に行こうとはしないし。
自分の適性のある方とかに未来をゆだねようとするのって当たり前と言えば当たり前。俺がただ楽じゃない方に向かおうとしているだけ。……そんな人ってあんまりいないだろうし。
ノアレって、俺が変わり者で変なことをしているのを知っているのにその行動を否定したりはしなかった。
俺が頑張ろうとしていることを、否定とかしない。……というか、本当に俺って周りの人たちに恵まれすぎでは?
うさぎの獣人で、かっこいい系じゃないこととか。
戦うのに適した魔法適性じゃないとか。
そういうことは凄く残念だけど、それも踏まえて俺だし。
俺の考えとか、やりたいことを母さんだって困ったように見てはいるけれど応援はしてくれている。
子供が変なことをしているから、ただただ母さんたちは心配しているだけだろうけれど。
「母さん、俺はもう少ししたら学園に通うし、その後は多分あんまり村には帰ってこないとは思う」
「残念だけど、あなたが決めたことなら応援するわ。ただ時々は顔を見せに来てね」
母さんもうさぎの獣人だから、俺が居なくなったら寂しいだろう。それに兄さんだって、ゲルトルートさんをいつか探しに行くかもしれない。
――そうなったら、母さんを悲しませるかも。そう思ったらちょっと何とも言えない気持ちになる。ただ父さんがいるし、村の人達もいるから大丈夫だとは思うけれど。
「うん。絶対、顔見せには来るよ。お金沢山稼げたら、母さんたちが望むなら呼び寄せたりもするから」
「ふふっ、そうね。身体が不自由になったら相談はすると思うわ」
母さんは俺の言葉を聞いて、そう言って笑った。
母さんの言葉を聞いていると、かなり安心する。獣人は人間よりも寿命が長くて、頑丈で、それでいて身体能力が高い。父さんもまだまだ元気だし、長生きするだろうなとは思っている。
ただこの世界には魔物が居るし、これから先の未来ではどんなことが起こるか分からない。家族に何かあった時に、助けられる俺で居たいな。
力をつけても大切なものを守れなかったら、それはそれで凄く嫌だ。折角この世界には魔法があって、俺は少しずつ力をつけているのだから。
学園にいって、沢山勉強をする。
今、俺に決まっている未来はそれだけ。
でもその先は……多分、冒険者とかになるんじゃないかなとそんなことをただ思った。もちろん、ノアレと付き合えるかどうか次第でもあるけれど。




