うさ耳くんは、やっぱり寂しい ②
地面へと飛び降りた俺へと向かってくるのは、芋虫型の魔物である。結構巨大で、正直言って少し気持ち悪い。虫が苦手な人だったら悲鳴をあげるレベルである。ちなみにこの魔物は、成体になったら大きな蝶になるのである。
それはそれで、大きすぎてびっくりする。
あまり好戦的な魔物ではないのだけれども、今はちょっと興奮状態なのか俺に襲い掛かってくる気満々である。
――口から吐き出される白い糸が、俺へとまとわりつこうとする。捕まったら大分厄介なので、一先ず避ける。
こういう糸も、耳で切れるか?
などとそんなことを考えて、一回試してみることにする。魔力を纏わせて、思いっきり耳を向ける。ちゃんと切れた。
少しずつ耳を強化し、武器として使うことを進めているけれどまだまだ実戦経験は少ない。だからこそ、こういう場でちゃんと使えるのは嬉しい。ただ耳を武器として使ったあとはちゃんと対処しないと、耳に匂いとか色々まとわりつきそうだけど。
というか魔物も俺が耳で糸を切ったことを驚いているようだった。……やっぱり魔物からしてみてもうさぎの獣人がこんな風に戦うことってないんだろう。この魔物って案外、頭がいいんだろうか? 虫系の魔物って、前世に読んだ漫画とかでも頭が良い系のもの結構あったしなぁ。
こうやって驚かせながら戦うのが俺の戦い方としては一番理想形だなと思った。
魔物だけじゃなくても、人も俺がうさ耳で突撃したらびびるかな? 硬度とかを弄って、対人戦の時に殺さない程度の武器にするのもありだよなぁ。誤って、模擬戦で誰かを殺してしまったりしたら絶対に嫌だ。
「よしっ」
俺は驚く魔物に向かっていく。そしてその身体を切断する。いい感じ。
解体を行う。
使えるものは全部確保する。命を奪うだけ奪って、有効活用しないっていうのもあれだし。耳の部分は汚れたので、川にいって綺麗に洗っておく。
耳は、弱点でもあるので洗っている時にも変な感覚をしたりする。魔力を込めて武器として使う時ならばともかくとしてそれ以外の時はこうだしなぁ。
かなり魔力を使うけれど、俺はうさ耳を良い感じに使えるように、常に耳に魔力を纏わせるようにはしている。ただ流石にずっとは無理で、途中で力尽きたりもする。気づいたら眠ってしまったりもするからな。
それにしても少しずつ耳を使って、対処していくことが出来るようになってほくほくしてしまう。いや、まぁ、もちろん失敗もあるよ。だけれども自分の思った通りのことが出来るようになるって嬉しいじゃんか。
それに俺の手は二つしかないけれど、耳も併せたら四つ。ようするに四刀流みたいな感じだろ? 使いこなせたらかっこよすぎる。折角こうして異世界で生きているのだからロマンは求めていきたい。
白魔法の特訓も欠かさずに行ってはいる。というか、俺は無茶をして怪我をした時には、自分で回復させているのだ。怪我した分だけその魔法も上達している。
ひたすら自分の怪我を回復させ続けていれば、正直言って怪我してもどうでもいいってなるしな。常時回復みたいな。当然、そんなことをするにはもっと鍛錬をしなければならないが。
子供の今のうちだって、大分、様になっていると自分では思っている。戦い方の形が少しずつ固まっているというかそんな感じ。
大人になった時には俺の理想の戦い方に出来るのでは? って思っているけれど、そんなに簡単にいくかは不明。
そもそもこういうことって、挫折も多いものだろうし。この世界で圧倒的に強い人たちっていうのは有名だ。冒険者の中にも所謂二つ名付きみたいな存在も居るだろうし。俺の住んでいるところは田舎すぎてよっぽど有名人しか知らないけれど。
俺もそうなれたらいいなぁ。
うさぎの獣人だと、有名な冒険者って回復職とか補助職ぐらい。思いっきり戦闘に身を置いている者は全然いなかったりする。
その例外に俺がなれたら、きっと気分がよくなるだろうな。それにノアレにもかっこいいって言われるだそうし。
うん、そういうことを考えているとやる気が増した。
俺は夕方の時間帯までひたすら鍛錬していた。家に帰ったら、母さんから「帰るのが遅いわ」と言われてしまう。
……確かに、俺、今日はひたすら鍛錬しかしてなかったからなぁ。子供の俺に任せられた仕事はさっさと終わらせて、強くなるために頑張りたいってそればかりで。
だから母さんに心配はかけてしまう。そもそも俺がいつも無茶ばかりしているから、母さんはいつもはらはらしていると言っていた。魔物に向かっていったり、耳で戦おうとしたり、五感を制御した状況で戦おうとしたり……俺が親側だったらそんな子供心配で仕方がないだろうと想像もできる。
倒した魔物の素材を見せたら、「もう無茶ばかりして……」と呆れながらも俺のことを抱きしめてくれた。
母さんもうさぎの獣人だから、俺と一緒で寂しがりや何だろうなとも思った。




