幕間:私の小さなうさぎ。
私の名前はノアレ。
黒猫の獣人だ。私は獣人として、狩りが好きで、強くなることが好きだ。
獣人――特に戦闘に向いている獣人に関しては、女性でもそうして戦うことは当たり前である。猫の獣人はその素早さや身軽さを利用して、戦闘に赴いている人は結構いる。
私は今、馬車に揺られている。
両親と一緒に引っ越しだ。私は生まれ育った村から、遠く離れた街に住まうことになった。それは私のおばあちゃんにあたる人が亡くなったかららしい。遠くに住んでいるので私は会った事はなかった。元々両親はおばあちゃんと喧嘩していたらしい。ただ死に間際に許してくれたんだとか、そういうことで私たちはお母さんの実家のある街に住むことになったのだ。
私はそれに伴って、生まれ育った村を去ることになった。
馬車に揺られながら考えているのは、一つ年下のうさぎの獣人の男の子のことだ。真っ白なさらさらの髪と、赤い瞳を持つ少年。正直女の私よりも科可愛らしい見た目をしていて、女の子みたいだ。長いうさぎの耳も、より一層その可愛さを強調していると言えるだろう。
――だけど、ユーリはそんなにかわいらしい見た目をしていても、見た目通りでは全くなかった。性格はそのかわいらしい見た目に反して、男らしいというか……。
初めて会った時に、急に告白してきて、なんだこの子って思った。私は強い獣人に憧れていたから、うさぎの獣人は眼中にはなかった。
けれど真っ直ぐに私を好きだと言ってくれるのは心地よかったから、気まぐれに約束をした。年下の女の子のそんな何気ない言葉なんて、忘れられていくものだと思った。ユーリの周りには同じ年ごろの女の子がいないからなだけだってお父さんもいってたし。
でもユーリは、私の気まぐれにした約束に対して、何処までも真剣に取り組んでいた。
会うたびにユーリは強くなっていた。うさぎの獣人は戦闘に向かないと言われているのにそうやって強くなっているのが不思議だった。ユーリのお兄さんのコーガさんは、「ユーリはいつも君より強くなるためにと頑張っているよ」と言っていた。ユーリはいつも遊びもせずに、修行ばかり楽しそうにしているらしい。それで村では変わり者だと言われているんだとか。
……私と結婚したいって、そういう気持ちで修行に取り組んでいると思うと、正直嬉しかった。ユーリは全然、他の人なんて見てないらしくて、私のことばかり話しているんだって。そういう話をユーリの村の人たちから聞いていた。
正直ユーリの真っ直ぐさは心地よくて、その気持ちも嬉しかったけれども――やっぱり強い人とがいいって思ってたし、一度約束したことをなしにするのは嫌だったからそういうことはユーリには言わなかった。
綺麗なエルフの人と仲良くなってたりとか、年下の子と文通していたりとか、親し気な様子を見せていて――それでも私の事が好きだって、ユーリはいってた。
そしてついこの前、私はユーリに負けた。ユーリは私に勝ちたいからって耳を強化するなんて変なことをやっていた。ゲルトルートさんから後から聞いたけれど、耳の強化ってすごく大変なものらしい。耳が再起不能になることもあるのに、それでも私をお嫁さんにしたいって……、そういう気持ちで行動していた。
抱き着かれた時は驚いたけれど、嬉しくなかったわけではない。でも恥ずかしいから、そのまま素直に抱き着かれたままはできなかったけど、頬にキスはしてしまった。……それでも恥ずかしかったけれど。
……私は二年後に学園に入学する。そして学園に入学して一年が経てば、ユーリも入学してくる。
ユーリは、私の小さなうさぎは、努力家で、真っ直ぐで、可愛い。きっともっと強くなろうってずっと行動し続けるだろう。ユーリは多分、学園に入学したら特に年上のお姉さんたちには可愛がられる見た目をしていると思う。ユーリは、出会ってからずっと私の事を好きでいてくれてた。ユーリは多分、他の人をみたりはしないと思うけど、私も……もっとユーリに好きになってもらえるように頑張ろう。
ユーリもきっと、強くなるために必死になるだろう。
――ユーリは私が思いもしない成長をきっとする。
だからこそ、私だって強くなる。
新しい街にたどり着いたら、ユーリに手紙書かないと。
ユーリがどんなふうに過ごしているか手紙で聞いて、私も近況を伝えて……そう考えるとこれからの日々も楽しみだ。
三年間、会えないだろうことはちょっと寂しい気もするけれど、私は先に学園に入学して私の小さなうさぎを待つことにしよう。




