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-15-『水着回』

 プールサイドに立つ俺は期待に胸をふくらませていた。


 今日は家族連れとはいえ、先輩と水泳デートなのだ。

 誰もが知っていることだが水着姿とは下着姿に匹敵するほどの露出度を誇っている。


 お互いの肌を見せ合うということはかなりの親密な関係を築いていっても過言ではない。


 いや、これは既に――ベッドインと同義ではなかろうか。

 ああ、なんてことだ。

 憧れの先輩とミッドナイトフィーバーだなんて。


 俺はもう……そんなっ、そんなっ、そんなっ、いやらしいぞ鉄次! 初体験の記念にとかいって撮影用のカメラの配置まで決めようとするんじゃない!


「落ちつけ俺、冷静になるんだ。プールサイドにはベッドはない」


 両手を開いては閉じ、手の平を擦り合わせて深呼吸をした。


 足裏から伝わってくるごわごわとした緑色の塩化ビニールの感触に意識を向けたせいか、いたかゆい気分になる。


 景色を見回すと訪れた海王マリンパークの温水プールは広々としているが客数はまばらだ。

 まだ事件――表向きには事故があってから数日経過した程度なので大衆も警戒しているのかもしれない。


 少し申し訳ない気持ちになるが、巨悪を滅ぼすための犠牲だったのだと割り切ろう。


 そうだとも。俺のせいじゃない。俺はまったくの無関係だし、テロリストではなく善良な市民だ。


 もうつまらないことは忘れよう。

 よしっ、完全に忘却の彼方だ。


「……ふぅ」


 天井はふと見上げる。

 悩みが消えてすっきりした気持ちだ。


 空は見えず、全天候型のドームに覆われているが人が少ないおかげで開放的で過ごしやすい。


「にいちゃん。どう?」

「おおっ、可愛いぞ」

「おい、見てないぞ」


 ドスの入った険のある声に慌てて目線を下げた。


 低身長で小柄なミーナは青筋をびきびき立ててお冠だ。


 フリルをあしらった黒ビキニとハイビスカス模様のショートパンツ。お団子ヘヤは今日だけ一つにまとめてポニーテール。スタイルではなく可愛さで勝負している。


「ああ、可愛いぞ」

「うん、ありがと」


 胸元で両指を重ね、指同士をぐにぐに押してはにかむ仕草は美少女そのもので、抱きしめればすぐに折れてしまいそうな身体の線の細さが一輪の花のような儚さをまとわせていた。


 麗しいミーナの成長ぶりに見とれていると、声がかかった。


「緋村、待たせたな」

「いえ……今来たばかりです」


 先輩の水着は首に向かって交差しているホルターネックの桃色ビキニ。


 パレオタイプの透明な薄布スカートを腰に巻きつている。肝心のVラインを包む布は少なく、大胆な露出度だ。


 ひらひらとしたスカートは丈が短いせいか、歩く度に裾口に目が惹かれる。

 スリットからちらりと見えるみずみずしい太もものお肌がまぶしい。

 完全に地上の太陽だぜ。


「ど、どうだ緋村?」

「少々お待ちください。もう間もなく鑑定結果が出ます」

「私は骨董品か」


 冗談で喉からあふれそうな賞賛をごまかしてしまったが、先輩のプロポーションは芸術的だ。


 魅力的なほど肉はしまっているし、触れれば弾みそうなボリューム満点の胸や尻がある。


「よし、全員揃いましたし、プールへ移動しますか」


「お兄ちゃん。意図的に私を無視しようとしてもまとわりつくからね」


 先輩の後ろで自己アピールするように笑顔で手を振っているのをあえて無視していたが、一応は理由はある。


「……お前は羞恥心がないのか」

「あるけど、お兄ちゃんへの愛と自己顕示欲の方が強いの。JGGからせっかくもらった悩殺水着だよ?」

「前の話のやつ、お前が着たのかよ」


 後頭部に両手を回して上体を斜めにして煽情的なグラビアポーズ。


 白い脇とぷるんと揺れる爆乳を強調しながら投げキスとウインクを放ってくるクーナは白のマイクロビキニを装着していた。


 布面積を最小限に抑え、要所を隠しているが裸よりも絶妙にいやらしい。

 下腹部は本当にギリギリであり、繋ぎは紐の蝶々結びで情欲をかきたてる。

 更には高校生にして大胆にも臀部はTの字ラインとなっている。


 見慣れた双丘はともかく、むちっとした尻たぶと割れ目への食い込みは悪魔的な魔力を秘め、淫魔の化身のようだ。


 ミーナが他人のふりをするためか、俺たちから距離を取って浮き輪をふくらませ始めた。

 おいおい、にいちゃんにもこいつは荷が重いよ。


「クーちゃん、それは過激すぎないか」

「ツッキー、乙女はキメるときはキメないといけないの」


 己の肉体に恥じるところなどないといわんばかりのクーナは自信満々に胸を張った。

 しかしながら今日にでも正式に彼氏彼女になろうとしている先輩と俺よりも、クーナと先輩の方が仲良しっぽいのはなぜだ。


 愛称で呼び合ってるしよ。


 俺の嫉妬の視線に感付いたのか先輩はこほん、と咳ばらいした。


「まあいい。さて緋村、カップルらしく……砂浜で追いかけっこするか」

「先輩、まことに申し訳ないのですが、海王マリンプールには人工砂浜はありませんし、プールサイドで走るのはマナー違反です」

「なっ……むぅ。では観覧車に乗ろう」

「ここはプールだということを思い出して頂ければ……」

「くぅ……」


 支離滅裂であたふたしている姿は新鮮ではあるのだが、落ちつかせるように微笑を見せる。


「先輩、テンパってませんか? いいんですよ。プールで泳げばそれで」

「そっ、そうか」


 手を握って俺は紳士としてエスコートしようと試みたが、握った手はそのまま頭の上まで運ばれた。


 きょとんとして不思議に思っていると、先輩は俺に向かって一歩踏みだし、体重の乗った打ち下ろしのエルボースマッシュを俺のがら空きのリバーに叩き込んだ。


 ゴスッと肘が俺の皮膚にめり込み、見事に肝臓へと入る。


 両膝が折れ、悶絶して地面に這いつくばると先輩は肘打ちの態勢で固まっていたがハッとして手を前に突き出し、ぶんぶんと振って言い訳した。


「すっ、すまん。利き手を奪われたので……つい、反撃してしまった」

「……そ、そういえば先輩は宇宙の警察管でしたもんね」


 なんとか持ち直して痛みをこらえる。

 適確な攻撃すぎて意識がかすれたぜ。


 宇宙警察という職業がどういうものか俺はよくわかっちゃいないが、先輩は紛れもなく掛け値なしの美少女。


 他のことは死ぬほどどうでもいいが、DVは勘弁して頂きたい。


「ああ、新人だがな……最近はミスばかりで困ってるが」


 ウォータースライダーがここの目玉であるので、ひとまずそちらに誘うと先輩は重い足取りでついてきた。

 表情はどんより暗め。俺にリーバーブローを打ってきた辺り、実はおっちょこちょいなのだろうか。


「先輩、足元に気をつけて」


 今度はいきなりじゃなく、手を差し伸べた。

 昇降階段をのぼる直前でのことだから、違和感はないはずだ。

 先輩はためらったが、恐る恐る手を握ってくれた。

 さらっとした白い手はほんのりと温かい。


 ビル四階ほどの高さのウォータースライダーはコースはくねくねと曲線を描いており、天辺まで行くと係員さんが二人乗りのボート型の浮き輪を貸し出してくれた。


 ソロ用の水着で滑るコースもあるが、乗り物コースの方が身体が揺れて密着できると邪心がささやき、その声に従って爽やかな笑顔で先輩の手を引いてエスコートした。


「じゃあ、行きましょうか」

「どーんっ」

「はっ……えっ、ちょ、まぁあああああああああああああああ!」


 浮き輪がスタートしようとした刹那。


 ジャンプしたクーナがフライングボディプレスをかましてきた。

 ぎゅっと両腕で頭が抱きしめられ、むにょむにょした物体によって視界が完全に塞がれる。

 加えて浮き輪が噴射口の放水と重力に従って滑り出したので不規則に引力がかかり、バランスが崩れる。

 勢いは止まるはずがない。


 浮き輪は滑り出している。丸い縁側を握ってこらえた。螺旋を描いている青いサーキットを水しぶきをまき散らしながら旋回していくのが体感でわかる。


「くーちゃん、マナー違反だぞ」


 くるくると景色が変わりながらも先輩は冷静さを失っていなかった。


「ラブが私を狂わすのツッキー」

「そのラブの対象はもがき苦しんでるが」

「これは『わぁあ、やめろぉ』と嫌がる身振りを示すことでおっぱいの感触を合法的に楽しむ演技だから大丈夫」

「なるほど。図星を指されて動きが止まったな」


 ――違うよ、全然違うよ。

 俺はきちんと抵抗したよ?


 でも、昔気質の職人が伝統の技を護るように俺も古くから伝承されているお約束(ハプニング・アーツ)は護らないといけないんだ。


 下心とかはないと断言できる。

 天地神明に誓ってだ。

 大体さ、妹のおっぱいなんてそんなに気持ちよくないっていうか、道理的に拒否しちゃうっていうか……くっそっ、炊き立てのお餅みてえじゃねえか!


 俺たちを乗せた浮き輪はすぐに終点までたどりつき、真下のプールに放り出された。


 じゃばんっと俺は水面に転がり落ちる。


 墜落の衝撃を緩和させるためなのか足がつかないほど深かったので水際まで泳ぎ、手すりに手がつくのを見計らって泳いできたクーナを注意した。


「クーナ、先輩にご迷惑がかかるだろ」

「ツッキー、もう一回乗る?」

「緋村、私もやはり愛を告白した身として胸部的なものを押しつけた方がいいのか?」

「クーナ。俺の注意を聞け。先輩、アピールは嬉しいんですけど、なぜ自発的じゃなくてちょっと嫌そうな顔なんですか? 誰かに強要されてるみたいじゃないですか」

「いっ、いや、愛してるぞ緋村! うん、ラブ&キルだ」


 ――俺を殺す気なのだろうか。

 ――殺したいほど俺を愛しているのか。

 ――単に英語力が足りないのか。


 先輩がどういう理由かわからないが、やはり無理をしているのは間違いない。


 何かしら裏事情がありそうだ。

 でも、そんなことは知らないふりをして彼氏という大儀名分をかざし、嫌がる先輩の肢体を存分に味わいつくし、俺なしでは生きられないように調教してしまうのはどうだろうか。


 うん、いいな。


 鈍感系主人公がやってるような感じで散々エロいことに及んでおいて「君の気持ちに今更、気付いたよ」とかいっちゃう感じで責めるべきか。


 少々ゲスではあるが、あとで適当になんかイイコトするか悪いやつを倒せば結局いい人じゃん、みたいなオチがつくはずだ。


「にいちゃん。やばい顔になってる。計算高い犯罪者みたい」


 浮き輪に両手で抱えながら水面に浮かぶミーナの感想は俺の繊細なハートを傷つけたが、爽やかな笑みを先輩に向ける。


 いきなりエロいことをしてはいけない――手順を踏まなければ。


「先輩、俺たちの出会いを覚えてますか?」

「うん……なんだいきなり。『カストリ』に私が金魚の餌を買いに行ったときだったか」


「ええ、レジ打ちをしていた俺に先輩はユーロを出してきた……よく覚えてます。先輩は日本がEUに加盟していると考えていた。アフリカからの帰国子女なのも驚きでした」

「まあ私の履歴や戸籍はもろもろすべて偽造だからな」


 さらりととんでもないことをいわれたが、俺はこめかみを指でもみほぐし、深呼吸した。


「たとえ先輩が住所不定の難民だとしても、俺の愛は変わりません。結婚しましょう先輩」


 俺のプロポーズに先輩は顎に手をあて、思い悩むように下を向いた。

 やがて意志の力が込めて頷き、再び俺と見つめ合う。


「なるほど、お前の意思はわかった。じゃあ、ここにサインしてくれ」

「はい」


 スッと差し出された紙とペン。

 どこから取り出したのか不明だが、名前の記入欄があったのでためらわずにサインした。


「よし、今日から緋村は銀河警察連邦の現地駐在員だ。よろしく頼むぞ」

「はい、先輩。ところで、今日は初夜ですね」

「では、我々の事務所に来てもらおう」

「最初がオフィスラブなんてそんな……でも、いいかもしれませんね」

「お兄ちゃん。ちょっと待って。かみ合ってないから。ハメるつもりでハメられてるからね。あと、年齢的な問題で結婚は無理だからね」

「……何?」


 浮ついた気持ちに水を差され、改めて状況を確認する。

 水着の先輩は慈母の顔で微笑んでいた。

 見せつけるようにかざす手には婚姻届――ではない。

 あろうことか入隊承諾書と書かれていた。

 びっしりと細かく規則が羅列されている。なんてことだ。またよくわからねえ団体に加入させられたというのか。


「すまんな緋村。上司からお前をスカウトするように命じられたのだ。私の洗練された見事な色仕掛けにかかったようだな」


「待ってください先輩、俺の認識だとまだ色仕掛けしてもらってないです。契約は無効では?」


「お兄ちゃん。そういう問題じゃないよ。蒼井先輩、お兄ちゃんはJGGに所属しているエージェントだし、勧誘しないでください」


「JGGがどんな組織か本当にくーちゃんはわかっているのか?」


「日本政府もそうだけど、各国と太いパイプを持ってるよ。権力こそ力だし、脳筋エロバカのどうしようもないお兄ちゃんを将来は窓際公務員にしてくれるって約束してくれてるよ」


「クーナ。なんだその話は? 俺は聞いてないぞ。それに窓際より通路側の方が俺は好きだぞ」


「ほら、こんなお兄ちゃんがJGGの助けなしでまともな人生送れると思うのツッキー?」


「それは……しかし」


 二人の間には緊迫した空気が流れているが、何気に俺の将来が完全に悲観されているような気がする。


「にいちゃん、ご飯」


 ちょんちょんっと俺の腕を叩いてきたミーナは俺の手を握り、物欲しげな表情で見上げてくる。


 プールの壁に設置された丸時計では十二時前だ。


 飯にはまだ早いがプールサイドには海の家風の出店も出ているし、妙に緊張した空気を弛緩させるには飯が一番いい。


 怪しげな組織からもらった金券もあるし、腹が減ってなければ甘い物でも食べて落ちついてもらうことにしよう。


 二人を誘うと気まずそうにしながらもついてきた。

 出店は水着でも入れるのは当然のことながらも鉄板焼きもしていたし、テーブルの真上には風鈴が鳴り響き、かき氷までも売っていた。


 奥の座敷席や店の隅にあるヤシの木の植木鉢といい、季節外れだが悪くない夏の雰囲気を漂わせている。


 四人でテーブルを囲み、それぞれ注文するとクーナが憮然としながら不平をもらした。


「お兄ちゃんはスケベ心で動きすぎだよ。ツッキーもそれを利用するなんてひどいよ」


「すまないクーちゃん。だが、ロンサムとの戦いを上司に報告したところ、どうしても協力者にせよとの命令なのだ」


「上からの命令だからって騙すだなんてひどいよ。それにあのときに邪魔しに来たのだって感情的に動いた結果でしょ……ロンサムは第一種宇宙有害生物だし、排除して当然なんだよ」


「わかっている。だが、それらは我々他の生物が決めた感覚だ。宇宙イカのロンサムは自身を有害だとは考えていないだろうし、彼女を生きていける惑星に移送すればいいと私は考えた。それで手続きをしていたのだが……間に合わなかった」


「地球に少しでも危険がある方が――お兄ちゃん?」


 俺はクーナの肩にそっと手を置いた。


「あまり先輩を責めるな」

「でも」


「なんだかわかりませんが、先輩は優しい心を持っているのはわかります。俺も殺すよりも他の星へ強制送還した方がいいと思う。クーナ、お前にはその、悪いんだが」


「……私の体質のことは大丈夫。保存用のタンパク質はたくさんあるし」


 あっけらかんと健気に笑う。

 宇宙のタンパク質が必要な体質はどうにかならないものか。

 俺としては先輩の思想の方が好みではあるのだが。


「ヤキソバおいしい」


 つぶやきに反応して一斉に視線が集中する。

 我関せずといった具合にミーナが紙パックに載ったヤキソバを箸ですくってもしゃもしゃと平らげていた。

 会話しているうちに注文していた料理が来ていたようだ。


 箸やフォークが動き始めると、多少は和やかな空気が流れる。


 雑談に興じることもできたし、俺には理解できない単語がクーナと先輩の間でかわされることもあったが、仲良しになっていることは喜ばしい。




『昨夜未明、東京湾でイカ釣り漁船第八竜丸が転覆し、船長の時田さんと乗組員の双海さんが行方不明になる事故が発生致ししました。救出に向かった海上保安庁の船も操舵ミスによって転覆するなど追難事故も起こり、当局には厳しい意見が寄せられております』





「ん」



 天井と壁の境目の物置棚に設置された液晶テレビから流れるニュースに視線がいった。

 マップが表示されたが海王マリンパークからほど近い。

 漁船の転覆ならたまにある事故ではあるが、それを助ける海上保安庁の船まで転覆するなんてことは通常ならありえないことではないだろうか。


 シーフードドリアをスプーンですくっていた先輩も手を止めた。

 目が合うと、厳しい表情。

 ――もしかしたら。


『緊急ミッションだ。エージェント、<サイテーシスコン>』


 ぶんっ、と液晶テレビに人型の影絵が映し出された。

 画面の変化に店内が当然どよめく。おいおい、周りの目は無視か。


 シルエットだけのJGGの上役<リトル・カーネル>は相変わらず、俺を舐めきっている。


『東京湾に難を逃れたロンサムの子供たちは豊富なプランクトンを食し、急速に成長を遂げている。これらの調査を海上保安庁の職員と共にしてもらいたい』


 ロンサムの子供――俺がやつの腹部を切り裂いたが、その後のことは関知していない。

 あそこまでやれば致命傷には至ったと思うが、もしかすれば排水溝から卵が流れ出してしまったのかもしれない。


 動物は死ぬ間際に生命を残す行動をすることがあるとも聞く。

 だが、今はデート中。邪魔されたくはない。


「おいっ! 俺たちは休日を楽しんでるだぞ!」


『落ちつきたまえミスタ・テツジ。協力して頂く海上保安庁の職員は美人だ。大学主催のミスコンでトップだったお色気たっぷりのお姉さんだ』


「ばっ、ばっ、ばばば、ばっかじゃねーの! そっ、そんなんじゃなくて俺は東京湾の危機を単純に救いたいだけっつーかっ! 俺の力が必要ならいつでも助けるっつーか!」


 椅子をがたっと動かして顔を背け、正義感を強調した。

 なるほど、大人のお姉さんか――うん、出会いをいくらあってもいいものだ。


「緋村、お前は美人ならなんでもいいのか?」

「お兄ちゃんサイテー」

「いいえ、違いますぅー。俺は単に地球の未来を考えるんですぅ。大体、先輩は俺のプロポーズを無視したじゃないですか」

「だってお前、くーちゃんが好きだろ」

「いやん」


 テーブルの縁を握り、半眼になる先輩と身をくねらせるクーナ。

 俺は小さく両手を開いて弁明した。


「違います。妹を愛してはいますが、それはあくまで家族愛。異性愛ではありません。俺が荒い息を吐きながら押し倒してキスして下着に手を突っ込みたくなるのはあなたです」


「なまなましい告白をするな緋村。お前いつか絶対逮捕されるからな」


「にいちゃん。あたしは?」


 袖を引いてきたミーナに柔和に微笑み、欲しがる答えをやる。


「ミーナもちゃんと愛してるよ」

「べろちゅーできる?」

「できるよ」


 ミーナは「やったー」と両手を挙げて喜んだので俺はポニテ頭をよしよしさせたが、視線を正面に戻すと鬼が二人いた。


「おい」

「おい」

 同時に恫喝されて俺は口許を引き締めた。

「はい、すいません」


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