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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第3章 元の世界に帰れる方法?
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屋敷に戻って

 乗合馬車の駅から5分ほど歩いて、バロメッシュの屋敷に戻ってきた。


 こんなに近くに乗合馬車の駅があるなら、これからは自分一人でも出かけられそうだ。


 屋敷の敷地に入ると、めまいがする感じも薄れてきた。

 栄養不足もあったと思うが、精神的なストレスもあったみたいだ。

 この身体、やっぱりいろいろデリケートだ。


「大丈夫ですか?」


 ジャンが心配そうに聞いてきた。


「ん? あー、大丈夫。そんなに心配しなくていいから」


「お昼もあんな風になってしまって、体調が悪いのにも気がつけずに……」


 ジャンが暗い顔をする。


 改めて考えてみると、ジャンって普通にいいやつだな。

 こんな男言葉使って男装している女相手にも気を遣ってくるし。

 しかも、一日中荷物持ちをさせてしまった。


「い、いやいや、俺が勝手に付き合わせただけだから気にするなよ」


「はい……はぁ……」


 ジャンがため息を吐く。


 い、いや、そんなに落ち込むなよ。


 普通に屋敷の前で別れようとしたが、なんだか帰るに帰れなくなった。

 バロメッシュの敷地内の庭で立ち止まり、ジャンを慰める。


「お、おいおい、そんなに落ち込むなって。何度も言うけど、俺は男みたいに育って男に興味が無い変人だから、そんな変人相手に真面目になるなって」


「アリスさんってやさしいですね……大丈夫です」


 や、優しいって……。


「そ、そんなに落ち込むこと無いだろ」


「はい……」


 ジャンがため息のような返事をする。


 うわー、これはダメだ。

 思った以上に落ち込んでいる。


 恐らく今日のデートはジャンにとっては一世一代の大博打だったのだろう。

 『男として育ったから中身男』とか『男に興味ない』といった発言があっても、ジャンとしてはうまくコーディネートして俺の評価を爆上げするチャンスだと思っていたんだろう。

 そのルートは絶対にあり得ないのに気の毒な。


「あ、あのな……ほんとに気にするな。俺は本当に男だから」


「だ、大丈夫です」


 ジャンが暗い顔で言う。


 どう見ても大丈夫じゃ無い。


 あぁ、もう、仕方ない。


「ジャン、お前……口が堅いか?」


 俺はジャンの顔を見た。


「なんですか?」


 ジャンが顔を上げた。


「これから言うことは……シモンとエリクには言わないで欲しい。特にシモンとかは普通に悪口を言ってきそうで嫌なんだ。あの二人に他言しないと約束してくれるなら、言いたいことがある」


 ジャンは戸惑った顔をしたが、頷いた。


「分かりました。約束は守ります」


「よし。じゃあ、こっちに来てくれ」


 ジャンを引き連れて、屋敷に入る。

 マリーたちに会う前に素早く廊下を歩いて、書斎に入る。


「アルフォンス、居る!?」


 書斎に入るとアルフォンスが退屈そうに何かを書いていた。


「おい、なんだ。ノックぐらいしろ」


 男は書類から顔を上げ、俺の姿を見てぽかんとした顔をした。


 そういえば、まだ茶色のズボンと緑のジャケットにハンチング帽子の、新聞記者の出来損ないみたいな格好をしている。

 この男装っぽい格好で男の前に出たのは良くなかったかもしれない。


「な、なんだ、その格好は?」


「い、いや、それはいいから……」


 気まずくなって、とりあえず帽子だけ取る。


「し、失礼します」


 と俺の後ろでジャンが緊張した声で挨拶をする。

 おそらくジャンは男と会ったこともほとんどないのだろう。


「あ、あぁ。何のようだ?」


 男がぎこちなくジャンに答える。


「例の腕時計ある?」


 ジャンに代わって俺が男に尋ねた。


「ん? あるが、それがどうした」


「ちょっと貸してくれない。ジャンに見せて説明したいんだ」


「あぁ、別にかまわないが……」


 アルフォンスが引き出しを開けて、宝石箱のような箱を取り出す。

 その箱を開けると、俺の腕時計が入っていた。

 かなり大事にしているようだ。


 その宝石箱を受け取って、ジャンに見せた。


「これ、俺がこの屋敷の前に倒れていたときにしていたものなんだ」


 ジャンは腕時計をしげしげと見る。


「なんですか、これ? 文字が動いている……」


「分からなくて当然だけど、これは俺が前の世界で使っていた時計だよ」


「時計? 前の世界?」


 ジャンが顔をしかめながら疑問の目を俺に向けてくる。


「俺、別の世界から来たんだよ。あの伝説の三勇士と同じ」


「そんな……まさか……」


 ジャンが目を見開いた。


 すると、アルフォンスをもフォローした。


「信じられないかもしれないが、どうも本当のようだ。こんなもの、外国でも作れるはずがない」


 その言葉に、ジャンは呆然とした顔で俺の顔を見た。

 俺は視線をそらさずに、ジャンの目を見ていった。


「それで……俺、前の世界で男だったから」


「…………」


 ジャンはますます目を丸くしたが、なにも言わない。


「だから、今日のは本当に男同士の付き合いで、なんでもないって。荷物まで持たせて悪かったな。昼食代は俺の分は今出すから……」


 すると、ジャンがいきなり俺の手を握った。


「ひゃ!?」


 全然男らしくない声が出た。

 うわ、恥ずかしっ。


「な、なんだよ!?」


「大丈夫です! そもそも二人分僕が食べましたし……。そ、それより、他の世界から来たって本当ですか!?」


 ジャンが俺の手を握ったまま目を輝かせた。


 え、ええ、なにその勢い?


「あ、あぁ、本当だよ。ぶっちゃけ、サロンでも俺の正体は話題になってる。だから秘密って訳じゃ無いんだよ。ただ、悪口を言われそうだから、シモンとかには知られたくないってだけ」


「それは大丈夫です。言いません。でも、他の世界から来たんですね……すごい!」


 ジャンが心底うれしそうに俺を見る。


 そんなまっすぐ見るなよ。

 気まずくなって視線をそらす。


「な、なんだよ、大げさだな」


「だってすごいじゃ無いですか! 僕、感動です!」


「照れるから止めてくれよ」


「あの……もしよかったら……今度その世界の話を聞かせてくれませんか?」


 ジャンが俺の手を握ったまま言う。


「ん……まぁ、いいけど」


「ありがとうございます! でも、お疲れのようなので……僕はこれで帰りますね。また明日聞かせてください」


 ジャンがちょっと残念そうな声を出して、手を離した。


「あぁ……いいけど。今日は本当に悪かったな」


「いえ! 感動です! さようなら」


 ジャンがすごい笑顔で帰って行った。


 はぁ……疲れた。


 なんかすごいテンションだったなぁ。


「お前、今日何をしていたんだ?」


 ジャンが居なくなると、後ろからアルフォンスが声をかけてきた。


 振り向くと、アルフォンスが微妙な表情をしていた。


「ん……ジャンがデートにしつこく誘ってくるから、一日付き合ったんだよ。そしたら、なんかジャンが失敗してすごく落ち込んでるから、慰めるために正体を暴露したんだ」


「そういうことを言ってるんじゃ無い」


 アルフォンスが首を振った。


「え? じゃあ、なんだ?」


 すると、アルフォンスは咳払いをした。


「まず、なんだその格好は?」


 言われて、自分の服を見た。

 そういえば、この格好はアルフォンスは嫌いそうだ。

 女の子っぽくしてないと嫌な顔をする面倒な奴だからな。


「ん? あぁ……これ? 今日は男の気分だったから、男の服を買ってみたんだけど……」


「まさか……それで街中を歩いたのか?」


「あ、うん。なんかまずかった?」


「別にまずくはないが……よくそんな度胸があったな。お前、相当気が小さいだろ?」


 アルフォンスが不思議そうな顔で俺を見る。


「男言葉使ってたら、なんか気が大きくなっちゃってさ……なんでだろうな」


 と、俺も首をかしげる。


「ん? なに? そんなに変?」


「いや……お前の男言葉も久しぶりだな」


「あぁ……嫌いなんだっけ」


「別にいいが……」


 口とは裏腹に不服そうな顔をしている。

 仕方の無いやつだ。


「はぁ……はいはい、わかりましたよご主人様。私は今はこういう身体ですからね。女言葉を使ってあげますよ。本当にもう」


 そう言うと、男が目の色を変えた。


「ほ、ほお……。なかなかその格好は新鮮だな」


 わっかりやすい奴だ。

 本当に。


「ご主人様を喜ばせようとして着たわけじゃありませんよ」


「すぐ着替えるのか? もったいないな」


 逆にアルフォンスが食いついてきた。


 おいおい……


 女言葉を使っていればなんでもいいのか。

 絶対に文句言われると思ったが、そうでもないようだ。


「普段メイド服ばかり見ているから新鮮だな。ほお」


 アルフォンスがジロジロ俺を見てくる。


 いろいろ言いたい。


 でも、ジャンがいなくなって落ち着いてきたら、まためまいがしてきた。

 やはり、結構疲労しているようだ。


「いろいろ突っ込みたいですけど……ちょっとだるいです。もう寝ます」


「そ、そうか……まぁ、またその格好をしたときは俺に見せてくれ」


「なんでそんな……とにかく、寝ます」


 この格好をして女言葉使うのも変な気分だ。


 俺は頭を下げて書斎を出て、自分の部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。


 男の格好でマリーたちに会わなくて良かった。

 いつの間にか、眠りに落ちていた。


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