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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第3章 元の世界に帰れる方法?
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本屋

 ジャンに案内されて本屋に入ると、そこそこ広い建物だった。

 日本の一般的なコンビニが10軒以上は入る敷地に、かなり狭い間隔で本棚が置かれている。

 一見してかなりの蔵書数だと言うことが分かる。


「へー……すごいな」


 だんだんテンションが上がってくる。


「本屋は初めてですか?」


「あぁ、うん」


 クロエと遊びに行ったときはアクセサリーとかばかりだったから、本屋に入った記憶は無い。


 店の端から注意深く本の背表紙のタイトルをみながら歩いて行く。


 ここは、子育て系か?

 こんな実用書みたいなのもあるんだ。


 ここは医療……家庭の医学みたいな本もある。


 ここは名作コーナーかな。

 なんとか騎士とか、なんとか物語といったタイトル本が並んでいる。

 

 ここは地図とかの資料みたいだな。

 大判だし、かなり立派な装丁だ。

 どれどれ値段は……げ、8000!?

 日本円換算で8万!?

 こういう資料本は高いんだな。


「へー……」


 タイトルと中の数ページをみながら、本屋の中をくまなく歩く。


「本が好きなんですね」


「ん? あぁ、居たんだっけ」


 手に取った本から視線を外して、話しかけてきたジャンに言葉を返した。

 完全に忘れていた。


「い、居ますよ」


 ジャンが焦った声を出す。

 ちなみに、ジャンはさきほどからずっとマリーから借りたワンピースとか俺の荷物が入った袋をずっと持っている。


「悪い悪い。ちょっと長くなるから、どこかに行って時間潰しててくれよ」


「き、気にしないでください」


 なんかさっきの失態を相当気にしているらしい。


「本当に長くなるからさ」


「じゃあ、僕も適当に本を見ています」


 といって、ジャンが荷物をぶらさげて他の棚に歩いて行った。

 俺はもう一度、本棚に注目する。


 この世界の本屋なんて、寂れた商店街にある個人経営の本屋程度の規模だと思っていた。

 でも、この規模の本屋があるなら、本屋でも結構役に立つ資料が探せそうだ。


「伝説の三勇士……どのジャンルだ……?」


 本の分類とかジャンルがやはり日本とは勝手が違う。

 平日と言うこともあって、本屋の中はスカスカで、客はまばらにしかいない。

 逆にそんな空間なので、男の服を着ている少女の姿の俺は結構目立っていて、何かを立ち読みしているおばちゃんが俺をガン見している。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 今の俺は男なのだ。

 

 本棚を見ながらバインダーに何か書き込んでいる店員らしき人を見つけ、声をかける。


「すいません。伝説の三勇士に関する本はありますか?」


 店員は顔をこちらに向け、ちょっと怪訝な顔をして、俺の姿を見た。

 あ、やっぱり目立つなこの格好。


「学術書ですか? そういうものはありませんね」


「そうですか」


 学術書扱いになるのか。

 あー、やっぱり本屋だと無理か。


 まぁ、いいや。

 適当に見て回ろう。

 この身体になってから、小説が当社比10倍楽しいから、面白い小説でも買って帰ろう。


 男モードだから男向けの作品でも買いたいところだが、実際はそういう作品を読んでもなかなか感情移入できない。

 やっぱり女性視点の恋愛小説系が安定だ。


 ということで、小説が並んでいるところに行って、恋愛系の本が並んでいる棚に行く。


「うーん……」


 手に取ってみるが、いまいち分からない。

 この世界の普通の本は挿絵も表紙絵もないので、ジャケ買いとかは無理だ。

 あらすじもあまりちゃんと書いてない。


「ま……いっか、お金はあるし」


 この感受性になってから感情移入できるのは、心情を丹念に書いたオーソドックスな恋愛小説だ。

 戦争の最中~とか、スパイが~とか、やたら大げさな舞台を作って盛り上げようとしている作品はいまいち心に響かない。

 あと、バッドエンドは最悪だ。

 普通にハッピーエンドがいい。


 ゆっくり読んでいる暇は無いので、そこそこ期待できそうな本をどんどん掴んでいく。

 あっというまに7冊になった。


「ま、これくらいにしとくか……」


 本を持ったまま、別の棚に移動していくと、本棚から変な色の紙が垂れ下がっているのに気がついた。


「ん……?」


 細長い紙に赤と黄色で縦線が描いてある。

 その謎の紙が、その本棚に何本もぶら下がっている。


 不思議に思ってその本棚に並んでいる本のタイトルを見る。


 『貴婦人の誘惑』

 『罠にかかった伯爵夫人』

 『淫らな新妻』


「え……?」


 俺は思わずあたりをうかがった。


 大丈夫、誰も見ていない。

 空いている時間帯で良かった。


 これは完全にエロタイトル。


 ここの文化だと、そういう本の棚にはこういう変な紙を垂らして『エロ本はここですよ!』と示すのか。

 なるほど、勉強になるなぁ。


「ってか、け、結構本棚あるじゃん……」


 見ると、4つの本棚にその紙がぶら下がっている。


「やっぱりどこの世界でもみんなエロいなぁ……」


 この陳列方法だと子供も普通に読めてしまう。

 でも、日本でもコンビニに普通のエロい雑誌があるし、日本人としては文句も言えない。

 きっとこの世界の青少年達はこういうものをチラ見したり、どこかのルートで入手したエロ本を回し読みしたりするのだろう。


 日本では相当濃いエロコンテンツをかき集めていた俺である。

 この世界のエロコンテンツにもかなり興味がある。


「うー……」


 本棚をじーっと見る。


 めっちゃ見たい。

 めっちゃ買いたい。


 いや、でも、さすがにこの女の子の姿でこういうのを買うのは……


「でも、み、見るだけなら……」


 あたりを見回してから、ゆっくりと歩きながら本棚のタイトルを見ていく。


 『幼妻の嬌声』

 『3人の妹』

 『変態縄女』


「ぉ……」


 日本のように長いタイトルは普及していないようで、どの本もタイトルはごく短い。

 しかし、その短いタイトルでも意味はよく分かる。


 なんだよ、この世界、普通にアブノーマルなエロコンテンツもあるじゃん。

 アルフォンスの鍵付きの本棚にあるのは、どれもこれもノーマルな物ばかりで、正直物足りなかった。


 やはり、人間はどこの世界に行ってもエロい物だ。


 なんだかドキドキしながら、さらに横に移動していく。

 こんな気分は中学生以来な気がする。

 女の子の姿でエロいものを物色するのもなんか楽しいぞ。

 今男装してるけど。


 本棚の隅まで行くと、厳重に包装された大判冊子が何冊も並んでいるのが目に入った。


 え、なにこれ、なんかめちゃくちゃ心躍るんだけど。

 この高そうな本の中身は一体……


「アリスさん、まだ見ていきますか?」


 突然、本棚と本棚の間からジャンが現れた。


 や、やばっ!


 反射的にその横の本棚の哲学書みたいな物を掴んで、中身をめくる。


「あ、あぁ……そ、そろそろいいけど……」


 ジャンがやってきたところで、さりげなくその哲学書をもう一度本棚に収める。


 俺はそんな横の本棚のエロ本とか興味ないよ、哲学書を読んでいたんだよ。

 というフリでジャンの顔を見る。


 ジャンはその赤と黄色の線が描かれた紙に気がついて、すこし気まずそうな顔をした。

 俺はそれにも気がついていないふりをして、愛想笑いを浮かべた。


「とりあえず、この本を買っていくよ」


 と、わざとジャンに恋愛小説を見せる。


「こ、こういう本が好きなんですね」


 ジャンがぎこちなく頷く。

 ものすごく横の紙が垂れ下がった本棚を意識している。


「じゃあ、会計するから」


 カウンターで普通に会計し、紙袋に入れた本を受け取る。


 よし、エロ本を見ていたのはうまくごまかせたな。


「あ、僕が持ちます」


 ジャンが荷物持ちを買って出る。


「あー……頼む」


 結局、ジャンに持たせた。


 エロ本の本棚に視線を送り『俺はいつか戻ってくる』と心の中で誓ってから、本屋を出た。


「店、多いねぇ。思ったよりこの世界って賑やか」


 商店街を見渡すと、まだいろんな店がある。

 もっと見たい。


「賑やか?」


 ジャンが不思議そうな顔をする。


「屋敷に籠もってて、こういうところに来たことが無かったからさ。じゃあ、次は……」


 と、言いかけたところで、めまいがした。

 立ち止まる。


「どうしました?」


 荷物を持ったジャンが不思議そうな顔をする。


 なんか調子がおかしい。


「ん……ごめん、なんかちょっと体調悪いかも」


 そういえば、この身体って貧弱なんだっけ。

 出かけたらすごく疲れるんだ。

 しかも今日はほとんど立っていた。


 そのうえ、昼もパンだけという偏った栄養だった。

 毎日豆料理ばかりでマリーたちと陰で文句を言っているが、たぶん豆のタンパク質でこの身体がギリギリ維持されている気がする。

 パンだけだとすぐにエネルギーが切れる。


「だ、大丈夫ですか!?」


 ジャンが大げさに焦る。


「い、いや、たいしたことないって。でも、ちょっと疲れたかな」


「分かりました。帰りましょう!」


 ジャンに気を遣われながら乗合馬車に乗ったのだった。


 うーん、体力無い。


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