平和?
それから四日間、ものすごく平和に毎日が過ぎていった。
一日目はマリーとキスをして、二日目もマリーとキスをして、三日目にコレットとレベッカにキスをして、そして四日目の今日に至る。
結局毎日キスしてるけど、こっちでタイミング選べるし、強要されていないので大分楽だ。
皿洗いをしていると、レベッカが顔を出した。
「あ、レベッカ、用事?」
「そうじゃなくて……昨日はありがと」
レベッカが照れくさそうに言った。
昨日レベッカにキスしたことに対してのお礼らしい。
「い、いいよ、別に。あれだけうれしがってもらえると……まぁ、やってもいいかなって気になるし」
「うん。私もドキドキしちゃった……」
レベッカが乙女な顔をする。
って、おい、今昼間だ。
あわてて頭をはっきりさせる。
「レベッカ、仕事中はそういうの止そう……。あと、マリーに聞かれると怖いし」
マリーが管理するという建前は完全に崩壊して、俺が勝手に俺のペースでやっている。
そのあたりはマリーは許してくれているが、レベッカとイチャイチャしているところを見られたらやっぱりまずい。
マリーにはできるだけ全部話したいけど、限度がある。
あくまで、レベッカが無理矢理要求するので、『仕方なく』俺がキスをしているという風にしないとやばい。
って、これ完全に浮気を隠すみたいな話になっている。
いや、浮気じゃ無いって……たしかにレベッカもかわいいけど……
「大丈夫。今、マリーは外に出てるから」
と、レベッカがチラリと扉の外を見る。
「あ、そう? でもあんまり……」
と言いかけていると、レベッカが身をかがめて横から俺の頬にキスをした。
え……
「あ、あれ、レベッカって自分からキスするのダメじゃなかったっけ?」
気が動転して聞くと、レベッカは困ったような顔をした。
「なんか……大丈夫になった。むしろ、私もアリスにキスしたい……かな」
困ったことに、そのレベッカの様子がかわいい。
すごくかわいい。
気が強そうな見た目なのに、困った顔をして俺に媚びている表情をする。
眠っていた男心がちょっと火が付く。
ってか、眠っていたのかよ、俺の男心。
だから、アルフォンスにいじられたり、ダニエルや変態紳士にいじられたりするんだ。
「そ、そう? じゃあ、皿洗いが終わったら……」
「私も手伝う」
二人で洗うと結構早く終わった。
「冷たかった……」
手を拭いて、手をこすって温める。
最近、水がどんどん冷たくなってきてつらい。
陽気がどんどん冬に向かっているようだ。
すると、レベッカが無言で俺の手を取った。
「ん?」
不思議に思っていると、レベッカは俺の右手を大事に両手で持つと、その手の甲にキスをした。
「……え?」
「嫌だった?」
「別に嫌じゃ無いけど……」
そう答えると、レベッカは俺の左手も握って、そこにもキスをした。
あれ……なんかこれ……レベッカ、すごく本気なような。
それとも、いままでも本気だった?
あぁ、もう、よくわからない。
女の子の考えることはよくわからない。
レベッカが大事そうに俺の手をにぎって、スリスリする。
そういう感じが案外感じちゃうんだよ、この身体。
「う、うわわ、レベッカ、もういいから……」
手を引っ込めると、レベッカは黙って俺のことをいきなり抱きしめてきた。
「え……」
一瞬だけだったけど、しっかりと抱きしめられた。
そして、離すとレベッカは扉の外を見た。
「マリーが戻ってきたから、私戻るね」
「う、うん」
レベッカは、さっと外に出て、廊下の方に走っていった。
すれ違うようにして、マリーが何も知らない様子で入ってきた。
「食材の準備、フィリップになにか言われた?」
「いや、聞いてないけど」
俺は素知らぬ顔で答えた。
「えー? 後でいきなり言われても困るんだけどね」
マリーは厨房の隅に置いてある野菜の数を数えだした。
俺はさきほどのレベッカとのやりとりを気取られないか、ドキドキしながら残った片付けをしていた。
ちょ……これ完全に浮気だわ。
○コメント
あれ、平和になったはずじゃ。




