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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第3章 元の世界に帰れる方法?
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マリーの黒い笑み

 自分の部屋に戻った俺は黒い笑みと対峙していた。


「マ、マリー……」


「あのさぁ、アリス……」


 黒い笑みを浮かべたマリーがゆっくりと立ち上がる。


 うわ、怖……


「ちょっと、私の話を聞いてくれるかなぁ……」


 マリーがゾンビのようにゆっくりと近づいてくる。


「な、なに?」


 そして、マリーの手が伸びて、俺の肩をがしっと掴む。


「ひゃっ……な、なに!?」


「なに、じゃないよねぇ」


 マリーの笑みがどんどん邪悪になる。

 美少女としてダメな領域になりつつある。


「マ、マリー、とにかく落ち着いて……」


 マリーは俺の肩を掴んだまま引き寄せた。

 そのまま俺は乱暴にベッドの上に押しつけられた。


「ちょ、マリー!?」


 な、なにこの体勢!?


 ベッドの上で仰向けになって焦っていると、その上にマリーが馬乗りになった。


 こ、この体勢、マジでやばい。

 暴力を振るわれたら、逃げられない!


 とっさに振り払おうとするが、マリーがしっかり体重をかけてくる。


 慌てて、両腕で顔をガードする。


 すると、マリーがその両腕を掴んで、無理矢理押し広げてきた。


「い、痛っ……」


 抵抗するが、力で全然敵わない。

 両腕をベッドに押しつけられ、顔のガードを無くす。


 や、やばい。


 マリーも両腕を塞がれている状態だから、この状態で暴力を振るわれることは無い。

 でもものすごく怖い。


「なんて顔してるの?」


 マリーが見下すような顔をした。


「え……?」


「なんでそんな顔をするのよ? アリスは私の恋人でしょ? なんでそんな怖がるのよ……」


 マリーが見下しと悲しみが混じったような複雑な表情を浮かべる。


 あ、あれ……?


「マ、マリー、ど、どうしたの?」


「どうしたのって……」


 マリーは馬乗りになったまま、顔を近づけてきた。


「え……」


 マリーに覆い被さられて、唇を奪われる。

 両腕も掴まれて、体重もかけられて、完全に動けない。


 さっきコレットとレベッカにやった事の10倍強力なことをやられている。


 な、なにこれ!


「んむっ……」


 抗議の声を上げようとすると、マリーはそこに舌を押し込んできた。


 ええっ!?


「んんーーー!!」


 抵抗するけど、すぐに抵抗できなくなって、力が抜けていく。


 口の中をマリーの舌がぬるぬる動く。

 蹂躙されている。

 

 だめ……だめだって……

 力、出ないし……


 普通の人ならたいしたことないのかもしれない。

 でもこの身体だと、内臓をいじられているような気分になる。

 絶対にダメなところをマリーにいいようにされている。


 変な絶望感すらわいてくる。

 抵抗できない。


 なすがままになっていると、マリーがようやく唇を離した。


「はぁ……はぁ……わかった? アリスは私の物だからね」


「えぅ……あぅ?」


 頭がぼうっとして言葉にならない状態で返事をする。


「アリス?」


 マリーが覆い被さったまま、俺の名前を呼ぶ。


「え……?」


 マリーが俺の腕を離して、俺の上からどいた。

 俺はゆっくりと身体を起こす。


 だんだんと正気が戻ってきた。


 マリー……なんてことを……

 

「マ、マリー、なにするんだよ!? 無理矢理押さえつけるのもダメだし、舌を入れてくるのもダメだってば! へ、変な感じだった……もしまた変なモードに入って戻ってこれなかったらどうするんだよ!」


 そう言うと、マリーが恨みがましい視線を俺に向けてきた。


「浮気者……」


「……え?」


「無理矢理やったのはごめん。でも、我慢できなくて」


 マリーが口を手の甲で拭う。

 マリーの顔からは黒い笑みが消えている。


「え、ど、どういうこと?」


 理解ができず首をかしげる。


「アリス、なんで私じゃ無いの?」


「な、なにが?」


「なんで私に隠れてコソコソレベッカの部屋に行ってるの!?」


 マリーの口調がきつい。


「あ、ばれて……」


「当たり前でしょ!? こんな静かな屋敷で、聞こえないと思ったの!?」


「あ……」


 言われてみればその通りだ。

 空き部屋を挟んだりして、各人の部屋は少し離れているが、ちょっと大きな声を出せば簡単に筒抜けになってしまう。

 レベッカとのやりとりも、全部は聞こえないにしろ、言葉の端々や雰囲気はマリーにも聞こえただろう。


「ごめん……」


「なんでよ……。だって、レベッカやコレットがアリスにキスしたいときは私が許可することになったじゃない。なのに、なんでアリスが勝手にレベッカの部屋に入ってコソコソしてるの!?」


「その建前、もう崩壊してるし……。それに、今日もキスしただけだよ」


「そんな雰囲気じゃ無かった」


 マリーが俺をにらむ。


 そういえば、いつもとレベッカの雰囲気が違った。

 言葉の内容は分からなくても、口調の雰囲気とかはなんとなく聞こえたのかもしれない。


「それは……」


 厨房でレベッカと話した内容をかいつまんで説明した。

 マリーは黙って聞いていたが、話が終わっても納得していない顔をしていた。


「なんでそうなるの?」


「だってレベッカもちょっと気の毒に思って……」


「それは……わかるけど、だったら最初に私のことを考えてよ」


 マリーの口調が弱々しくなった。


「昨日あんまり話せなかったから、今日は一緒にじっくり話そうと思ったのに、勝手にレベッカの部屋に行っているし……アリスにとって私はなんなの?」


「えー……」


 俺はつぶやいた。


 最初の頃、マリーにずっと面倒見てもらっていたせいか、俺にとってマリーは余裕のある大人の女性という印象がある。

 だから、焼き餅を焼くのがなんだか感覚的に違和感を感じてしまう。


「なに?」


「いや……案外マリーも余裕無いんだなって……」


「は?」


 マリーの声に怒気がこもる。


「ご、ごめん。でも、俺だってマリーのことを一番に考えてるんだけど」


「嘘」


 マリーがじーっと俺を見る。


「な、なんで?」


「だって、私の部屋に来ないでレベッカの部屋に行った……。しかも私に内緒で」


「言わなかったのはまずかったけど、俺としてはレベッカを慰めたかっただけなんだけど」


「アリスが優しいのは分かるけど、なんでコソコソやってるの? 私に説明してくれればよかったじゃん」


「うーん……ご、ごめん」


 俺は素直に謝った。


「でも、俺にとってはマリーが一番だから。ダニエルとギュスターヴの話も、詳しいことはマリーにしか話してないよ。マリーにはできるだけ隠しごとしないようにしているつもりなんだ」


「……ほんと?」


「本当だって」


「私のこと……嫌いになってない?」


 マリーが心細い声を出した。


「え、なんで?」


 俺はマリーの顔を見た。


「だって……私、こんなに嫉妬深くて……。自分でもこんなに嫉妬深いなんて思ってなかった」


 マリーがうつむく。


「それに、アリスが私のことを好きって言ってくれているのに、信じ切れなくて……」


「それについては俺もごめん。ちゃんと言ってから行けば良かった」


「アリス、本当に私のこと好き? ……ごめん、疑って」


 たしかに俺はマリーのことは好きだし、俺もマリーにはいろいろ相談もしてきた。

 でも、行為が一線を越えないように気をつけていたし、気持ちも完全に預けきっていなかった。

 もちろん、この過敏すぎる身体のせいでもあるけど、いつか別れることを覚悟していたからだ。


 そういう中途半端な思いがマリーを不安がらせてしまっているのかもしれない。


「マリー……俺の思ってることを言っていい?」


 その台詞に、マリーが身体を硬くする。


「俺はマリーのことは大切だし、悲しい顔は見たくない。マリーには幸せになって欲しい」


「うん……」


 マリーが不安そうな顔で頷く。


「でもさ、俺、この身体だよ? 中身は男だけど、身体は女だし、マリーと結婚もできない」


 この世界には当然ながら同性婚など存在しない。


「それはそうだけど……」


「今は出会いが無いから、こんな中途半端な俺みたいな存在を好きだって言ってくれるけど……」


 マリーが固唾をのんで俺の台詞を待っている。


「マリーは美人だしさ、絶対に格好良くて将来有望な男が出てくると思うんだ。そうすると、マリーは俺なんか捨ててその男と一緒になると思うんだ。そうすると、俺って……さ……」


「私そんなこと絶対にしない! アリスを見捨てないから!」


「今はそうかもしれないけど……いつかきっと……」


 と言いながら、俺の方がだんだんと気分が暗くなってくる。


 アルフォンスもいつかこの身体に飽きる。

 マリーだって他の誰かと結婚する。


 俺はこの見知らぬ世界で一人きりになる。


「だから、いつか別れるときが来るから……それを思うと……」


「アリス、私のことをそんな風に思っていたの?」


「だってそうじゃん……俺は中途半端なの。男にもなれないし、女にもなれないの。だから、俺はマリーのことは好きだけど、いつかマリーとは離れることになると思う。だから、俺は一定の距離を保つように努力して……」


 冷静に説明するつもりだったのに、泣きそうな声になった。


 いや、声だけじゃ無い。

 本当に泣きそうだ。


 気持ちがどんどんマイナスになっていく。


「でも別に……いいんだよ、俺は別に……」


 本当に涙が出てきた。


「そんな風に思ってるから、マリーを不安に思わせてるのかも……ごめん……」


「アリス……」


 マリーがふわっと俺を抱きしめた。


「あのね……アリスって弱いじゃない……?」


 マリーが耳元で優しく言った。


「そ、そうだよ。弱いよ……」


 その言葉に自分で余計に落ち込む。


「自分でも言ってたけど、雰囲気に流されて、どんな誘いにでも乗っちゃうようなあばずれでしょ?」


 あばずれ……

 酷い言葉だ。


「そう……かもね……」


「そんなダメでかわいそうな人を見捨てるほど、私が冷たいと思う?」


「…………」


「クロエと相談して、クロエと私で面倒見るって言ったでしょ。もし、私が結婚するとしても、アリスの面倒を見てくれるような人じゃなきゃ結婚しないから」


 顔を上げて、マリーの顔を見る。

 マリーが笑った。


「アリス、そんなに心配してたんだ」


「当たり前じゃん……。俺、この世界で異物だし……」


「馬鹿、私の物だから」


 マリーがもう一度俺を抱きしめた。


 暖かい。


「それに……先の心配をするのもいいけど、今を楽しもうよ。アリスは私のことを好きなんだよね」


 頷いた。


「うん……とっても大切……」


「私もアリスが好き」


 その言葉が体中に広がった。


 感受性が最大限に仕事をして、脳内麻薬で多幸感に包まれる。


 落ち込みすぎていた今の俺には刺激が強すぎる。


「マ、マリー……」


 ブルブル震えながら、マリーを抱きしめ返す。


「相思相愛だよね」


「……うん」


 頷いた。


「じゃあ、愛し合おうよ」


 マリーが笑った声を出した。


 うれしい。


 うん、と頷きそうになる。


 しかし、理性がその台詞に危険を感じた。


「え……? わ、分かってると思うけど、この身体敏感で……マリーの行為結構怖いんだけど……」


「えー?」


 とマリーが笑いながら、抱きしめている俺の背中の手を動かした。


 ゾワゾワという刺激が走って、頭の中がめちゃくちゃになる。


「ふあぁ……あ……ダメだって……え……あ……」


 身体が痙攣するのをこらえながら、必死にマリーにつかまる。


 な、なにするんだ、マリー。


「背中弱いんだっけ?」


「よ、弱いよ……一番弱い……だからやめて……」


「へ~、じゃあ今度アリスが悪いことをしたら、こうやって虐めてあげるね」


 目をつむっているので顔は見えないが、マリーの楽しそうな声が聞こえてくる。


「ふ、ふざけないでよ……本当に……」


 愛し合うってなんなんだ、本当に?


「じゃあ、アリスはどうしたいの?」


 震えが収まってきたので、マリーを離して目を開けると、マリーがちょっと笑いながら俺の顔を見ていた。


「どうしたいって……別に……」


 本当に特にない。


「私にいじられたいの? それとも私に何かしたいの?」


「べ、別に……今のままでいいけど……」


「アリスって本当に奥手だね」


「奥手って……マリーが積極的すぎるだけだと思うけど」


 男の時と違ってこの身体は強い性欲がないので、優しくされるだけで普通に満足しちゃう。

 奥手とかじゃ無くて、そんな刺激の強いことをしたいとか思わないだけだ。


「ただ……マリーには喜んでもらいたいけどさ……」


「ストレートにうれしいこと言うな~もう」


 マリーが照れ笑いをした。


「アリスも私に同じ質問して。何がしたいって聞いて?」


 えー……

 それを今聞くの?

 なにか、ものすごく地雷っぽい。


「……俺に何をしたいの? それとも、俺が何かした方がいい?」


 するとマリーは照れ笑いじゃ無くて、黒い笑みを浮かべた。


「うーんとね、アリスをいっぱい虐めてかわいい顔をたくさん見たい」


 酷い。


「さっきのキスの後の表情をもう一回みたい。もう一度やろうか」


 だ、だめだ!

 まじであれはだめ!

 口の中って他人にいじられるって、性感帯以外の何物でも無いだろ!


「だ、ダメだって! 舌を入れられると、なんかほんと……ダメ……とにかくダメ!」


「そういう顔をしたアリスかわいい」


「かわいい……」


 ふわふわした気分になってくる。

 マリーに対してなんでもしてあげたくなってくる。


 って、雰囲気に流されるな!


「と、とにかくダメ! 変な風に女モードに入ったら危ない! 戻ってこれなくなったら困るから!」


「えー……じゃあ、どうしよっかな~」


 マリーが獲物を狙う目で俺を見る。


「ご、ごめん、ゆ、許して。あ、明日にしよう……もう遅いからさ」


 焦りながら言うと、マリーはちょっと意気消沈したようにシュンとした顔をした。


「まぁ……そうね。急がなくてもいいよね」


「う、うん、ありがとう」


「よしよし」


 マリーは俺の頭を撫でた。


 そう、こういう感じでいいんだよ……


 と、思ったら顔を近づけてきて、俺の唇を吸った。


 これ、今までのキスじゃ無い。

 唇と唇を合わせるキスじゃなくて、唇をまるごと吸おうとするようなキス。


 だ、だめ、これ……

 だから、そういうのは……


「ん……ふふ、いい表情」


 唇を離したマリーは俺の頭をポンポンと叩いて、無言で部屋を出て行った。


 な、なにするんだよ、本当に……。

 気持ちいいじゃん……。


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