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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第3章 元の世界に帰れる方法?
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ダニエルとギュスターヴ

 翌日のこと、俺はマリーさんの背中に隠れて、マリーさん宅にやってきたダニエルとギュスターヴの様子をうかがっていた。


「悪かったって。昨日は俺も酔っていたんだよ。大丈夫だから出てこい」


 と、ダニエルが手でおいでおいでする。


 俺は首を横に振る。


「やだ……もうやだ……」


 すると、ギュスターヴも口を開いた。


「どうも私は誤解されているようですね。私はあなたに危害を与えるつもりはありませんよ」


 と、ギュスターヴがものすごく礼儀正しい所作で言った。


 誤解してない。


 ものすごく正確に理解している。


「坊ちゃん、悪ふざけがすぎますよ。昨日は私まで恥をかいたじゃ無いですか」


 と、マリーさんが不機嫌そうにダニエルに言う。


 マリーさんはどうも俺が泊まることになっていると知らなかったらしい。

 それで、俺が泊まるための準備も何もせずに自分の家に帰ってきてしまったようだ。


 といっても、こんな美少女をあんな危険な二人の間に残してくるのはどうかと思うが、昨日泊めてもらった恩があるのであまり文句も言えない。


 夜の間中、ギュスターヴに追いかけられる夢で何度も目が覚めた。

 本当に最悪だ。


 俺は恨みを込めてギュスターヴをにらみつけた。


「そんな姿も素敵ですよ」


 しかし、ギュスターヴは爽やかな笑みを浮かべた。


「うるさい、黙れ変態!」


「……染み渡ります」


 変態が何かに感じ入るように目をつむった。


 レベルが高すぎて、俺の手に負える相手ではない。


「い、行きません! 私はこの家から出ません!」


 マリーさんの背中から主張すると、マリーさんが困った顔をした。


「アリス様、これから私も出勤するのですよ」


「あ……じゃ、じゃあ、マリーさんについていきます!」


「よし、来てくれるんだな」


 とダニエルが安心した顔をする。


「ふっふっふっ、今日も楽しい一日になりそうですね」


 とギュスターヴが笑う。


「ってか、ギュスターヴさん、昨日は帰らなかったんですか?」


「昨日は真夜中までダニエルと飲んでいました。アリスさんも一緒に楽しめば良かったのですよ」


 と、ギュスターヴが爽やかに言う。


「だ、誰が……」


 結局、マリーさんの出勤にあわせて、マリーさんから離れないように歩いて行った。

 もちろん、ダニエルの家はすぐ近くなので、あっという間につく。


 俺はマリーさんが厨房に行くというので、ついて行こうとした。


「アリス様、こちらは私の領分でございます」


 ところがマリーさんは俺を厨房に入れようとしなかった。


「で、でも、あの二人になると危ないし……」


「見ていますのでご安心ください」


「そ、そうですか……?」


 俺は恐る恐る居間のほうに移動した。


 ダニエルとギュスターヴが仲よさそうに話をしている。


 う、ち……近づきたくない。


「おい、兄弟、そんなに怯えるなよ。男同士だろ?」


 と、ダニエルが気楽に言ってくる。


「そ、その兄弟を助けなかったのは誰だよ。昨日は本当に酷い目に遭ったんだぞ!」


「お、男言葉使ってくれるのか? いいじゃないか」


 と、ダニエルが喜ぶ。


「普通に心底怒ってるだけだ! 俺はリラックスしようとして休暇を取ってやってきたのに、なんでこんな目に遭わないといけないんだ!」


「ご安心ください。今日はアリスさんがリラックスできるように努めましょう」


 と変態紳士がにこやかな笑みを浮かべた。


「い、いらん! 帰ってくれ!」


「そういう本音と裏腹の台詞というのはよいものですね」


 ギュスターヴがうれしそうな顔をする。


「100%本音だ! 頼むから、帰れ! 変態 GO HOME!!」


 しかし、ギュスターヴは動く様子が全くない。


「だ、ダニエル、やっぱり俺帰ろうかな。お、お世話になり……」


「おい、まだこれからの話がまだだろう。一緒にこの世界を変えていこうぜ! それについてはギュスターヴとも話をしたんだ。こいつ、変なところで顔が広いからな」


「あちこちの社交場に顔を出しているからな。大概のところなら紹介できるぞ」


 と、ギュスターヴがダニエルに言った。


 実際は貧乏貴族だとしても、あの存在感があればどこにいっても有名人だろう。


 ある意味チートだ。


「俺とギュスターヴとアリスで、成り上がってやる」


 ダニエルが盛り上がっている。


 ダニエルは、たしかに酔っ払うと危険だが、素面ならまともだからまだいい。


 しかし、なぜ変態紳士まで参加することになるのか。


「ダ、ダニエル、ギュスターヴ抜きでは駄目なのか……?」


「俺だってそんなに人脈は広くない。使える人脈は使っていかないとな」


 と、ダニエルが力強く言う。


「ええ……」


 やっぱり、ダニエルの成り上がり計画に手を貸すのは止めようかな。


 という気分がわいてきてしまう。


「と、とにかく、俺はもう帰る! こんなところに居られない!」


「おやおや、なぜですか」


 と、ギュスターヴが涼しい顔をして言う。


「お前のせいだよ! 昨日のこと、一生忘れないぞ!」


 恨みを込めて、ギュスターヴの顔を指さす。


「一生忘れないだなんて、そんな熱い告白を聞くことができるとは思いませんでした」


 と、ギュスターヴが感じ入る。


 もう、俺は無理だ。


「ダ、ダニエル……俺、本当にこいつ無理なんだけど……」


 うろたえて、ダニエルの顔を見る。


「はっはっ! 気にするなよ、お前も元の世界では男だったんだから、こういうやつの一人や二人は友達に居ただろう」


 と、ダニエルが気楽に笑う。


「い、居るわけ無いだろ!? こんなのめったに居ないよ」


「お褒めにあずかり光栄でございます」


 と、ギュスターヴが満面の笑みを浮かべる。


「今日は真面目な話だ。よし、昨日の話の続きだが……映画、だったか?」


 と、ダニエルが昨日のノートを開いて質問を始める。


「いや、俺本当に帰りたいんだけど……」


 ところが、本当に真面目な話が始まってしまって、とても帰れるような雰囲気ではなくなってしまった。


 ギュスターヴも変態発言を止め、真面目な顔で議論に参加してくる。


 俺も気を取り直して会話に参加した。


 話をしていくと、映写的の基本的な構造は理解してくれたようだが、それを実現する方法が思いつかないらしい。


「仕組みはわかるんだが、どういう構造なら一秒間に20回以上も光の点滅を作り出せるんだ。俺は機械には疎いんだ」


 と、ダニエルが言う。


 俺も映写機のなんとなくの仕組み程度しかしらないので、説明できない。


 すると、真面目な顔のギュスターヴが口を開いた。


「ダニエル、仕組みの分からない物を素人が簡単に作れるわけが無いだろう。少なくとも、金と時間と人が必要だ」


「そうだな……」


 ダニエルも同意して頷く。


「金はお前が引張れ。人は技術者だな。腕のいい時計職人あたりをかき集める必要がある。あの連中なら俺たちが思いつかないような構造を考えるだろうよ」


「つてはあるのか?」


「あるとは言えないが、お前よりは俺の方が適任だろう。なんとか探してみる」


「頼むぜ」


「あとは時間だな。時間がかかるのを覚悟した方がいい」


 と、ギュスターヴが考え込む。


 変態紳士がまともなことを言いだしたので、俺は心底驚いた。


「人と金は分かるが……時間も覚悟しないと駄目か」


 と、ダニエルが聞く。


「あぁ。時計職人の仕事を見たことがあるが、歯車を一枚作るだけでもかなりの時間がかかっていた。今回は仕組みもよくわからないものを、試行錯誤しながら部品から作っていくのだろう? 歯車一つであれだけの時間がかかるんだ。2年や3年は余裕でかかると考えておくべきだ」


「ま……それくらいは覚悟しなけりゃならんか……。でも、運が良ければもっと早くできるだろう」


「だが、金はそれだけ確保しておけ。いいところまでいって資金が途切れたら台無しだぞ」


 ギュスターヴが指摘する。


「たしかに」


 ダニエルがまた頷く。


 俺は変態紳士がまともな主張をするのに驚き続けていた。


 俺が住んでいた日本ならモーターとかギアとかを通販で買ってくることもできるが、この世界ではそんなものも無いのだ。

 ちょっとした機構を作ろうとしたら、歯車一つから作れないといけない。

 考えてみると、どれだけの手間と時間と試行錯誤が必要なのか分からない、非常に気が遠くなるような作業だ。


「金と人脈か……よし、なんとかしようぜ。俺たちの未来のために」


「あぁ。俺もお前に協力するよ」


 ダニエルとギュスターヴが盛り上がっている。


 たしかに、仲のいい友人同士なのだろう。

 と、表情を緩めると、ギュスターヴがこちらに視線を向けてきた。


「楽しいおもちゃも居るしな」


 変態ーーーーー!!!


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