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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第3章 元の世界に帰れる方法?
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ダニエル

 俺はソファに座って、ダニエルと向かい合っていた。

 建物の様子に驚いたものの、家の中に入るときれいに掃除されていて居心地のいい空間だった。

 ここがダニエルの家で間違いが無かった。


「よく来てくれたな! おい、マリー、早く飲み物を!」


 ダニエルが奥の部屋にいるおばちゃんメイドに声をかける。

 偶然の話なのだが、ここのメイドの名前もマリーらしい。

 ダニエルが名前を呼ぶたびに、つい辺りを見回しそうになってしまう。


「はいはい、どうぞ、お坊ちゃま」


 おばちゃんメイドが割と無造作にレモン水のような物と紅茶を持ってきた。


「坊ちゃんは止めてくれよ。客が来てるんだ」


「はいはい、お坊ちゃま」


 おばちゃんメイドはお盆だけ持ってそのまま下がっていった。


「ったく、同じメイドでもこうも違うかね」


 と、ダニエルがレモン水を飲みながら、俺の方を見た。


「でも、気兼ねがなくていいと思いますよ。うちだと、アルフォンスとメイドではもっと距離感があるので」


「そら、距離感が出るくらい若くてかわいいのを雇ってるからだろ。うちのマリーは実家に居た40年選手だからな」


 とダニエルがつぶやく。

 あんまり、マリーマリーと言わないでもらいたい。


「それにしても、アルフォンスはいいよな。あいつは長男であんなでかい屋敷を中心街に持っていて、しかもかわいいメイドに囲まれてやがる。こっちは三男坊だから、土地や建物なんか継げないし、ここだって借家だぜ。まぁ、周りと比較すれば、まだ庭があるだけましだがな」


 と、ダニエルが皮肉げに言った。


 あぁ、そうか。

 貴族の屋敷らしくないと思ったら、やはりここは借家だったんだ。

 ダニエルは、実家から使用人と一緒に出てきて、ここを借りて住んでいるようだ。


「アルフォンスって……恵まれてる立場なんですかね?」


「恵まれてるに決まってるだろ。俺の境遇を見てみろ。まぁ、これでもいい方だけどな」


 と、ダニエルが首をすくめた。


「でも、アルフォンスとダニエル様はご友人なんですよね?」


「ああ、そのつもりだ。向こうがどう思ってるかしらないが」


 と、ダニエルが少し皮肉っぽく言う。


「アルフォンスも普通に友達だって言ってましたよ。でも、そんな差があるんですね。サロンでは全然感じなくて……むしろダニエル様の方が洗練されている感じがありました」


「ははは、褒めるのがうまいな」


 サロンではダニエルは洒落者っぽかったが、家だと少し雰囲気が違うようだ。

 自虐的なところが覗いたりする。


「いえ、普通にそう思ったんですよ。てっきり、アルフォンスが地方貴族の芋野郎で、ダニエル様が洗練された都会の貴族なのかと思いました」


「そりゃアルフォンスがかわいそうだな。あいつだって、そこそこモテるんだぞ」


 む。


 なんか、もやっとした。


「そ、そうですか」


「さて、それじゃ、作戦会議としようか。どうやって、アリス様を高く売りつけるか大作戦。作戦会議1回目だ」


 と、ダニエルが水を飲み干して、マリーさんにおかわりを要求した。


 思わず、俺は立ち上がった。


「持ってきます」


「お、おいおい、嬢ちゃんは客なんだからゆっくりしてな」


「でも、なんか手伝わないといけない気がしてきて……」


「いいから座りなって」


「は、はい」


 不承不承座ると、奥からマリーさんが出てきて、コップをがしっとつかんで無言で下がっていった。

 うん、さすが長い間メイドをやっていただけあって貫禄がある。


 アルフォンスやクロエの屋敷のようなところで、うちわを仰ぎながらまったりしていればいいかと思ったが、この雰囲気だとちょっと違うな。

 まさか、ダニエルとおばさんメイドの二人しかいないなんて。

 ちょっと気を使うかもしれない。


 まぁ、それでも、マリーたちが居ないだけでだいぶ楽だろう。

 おばちゃんのマリーは居るけど。


「しっかし、それで元男ねぇ……」


 と、ダニエルが正面から顔を見つめてきた。


 不意打ちだったのでびっくりした。


 ぬあお!

 やめて!


「そ、そういう風に見ないでもらえますか!?」


「あん? どうした?」


「適当に視線を外しつつ話をしてくださいよ! そんなに真っ正面から男の人に目を見られると、この身体がめちゃくちゃ正直に赤面するんですから! ほんと、やめて!」


「お、おいおい。なんだそれ。元男なんだろ?」


 と、ダニエルが笑いつつも、じっと顔を見つめてくる。


 顔が赤くなる。


 それを感じて視線をそらしたくなるが、視線をそらせず……


 ペチン


 俺は自分で自分の頬を強めに叩いた。


「いつっ……」


 それをきっかけに視線を外した。


 ダニエルがめちゃくちゃ人の顔を見てくるから、こちらが顔を背ける。


「なにやってるんだ?」


 と、ダニエルが笑う。


 ジロジロ見てくるな、この人……。


「この前サロンで説明しませんでしたっけ? 感覚が完全に女の子なんですよ。しかも、めちゃくちゃ敏感なんで、そういう風に見ないでください。惚れるから」


 すると、ダニエルが爆笑した。


「はっはっはっ! なんだそれは! はっはっはっはっ!」


「ちょっと、笑わないでください! 不愉快な!」


「はっはっはっ……す、すまんな」


 ダニエルが笑いを押さえ込む。


「いろいろ大変なんですよ。感覚がいきなり変わるし、男に近づかれると勝手にドキドキするし、たまに変なモードに入るし……なので、いじらないでください」


「それはいじれということか?」


 と、ダニエルがまだ小さく笑いながら聞いてきた。


「違います! ってか、もう男言葉にしようかな」


 俺は疲れてつぶやいた。

 どうも、普通に女の子を演じていると、ひたすらいじられる気がする。


 リラックスしに来たのに、なんか結構疲れるな……。


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