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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第2章 豪商のお嬢様
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アリスvs4人の少女

 一悶着が終わり、片付けも終わった。

 アルフォンスとクロエには酷いものを食べさせてしまってちょっと申し訳なかった。

 でも、俺たちは毎日あれを食べているんだから、たまにはそういう経験も必要だろう。

 ということで、俺は無理矢理自分を納得させた。


 俺は完全にリラックスするつもりで自分の部屋に戻ってきて、自分の部屋の惨状を思い出した。

 部屋の隅には荷物が積み重なり、ベッドの上でクロエが堂々と寝転がっている。

 俺の寝る場所が無い。


「あー……そっか、クロエがこっちか。ゲストルームの準備忘れてた……」


 自分が寝るためにゲストルームの準備をする気で居たのだが、うっかり寝てしまってすっかり忘れていた。


「えー……今からかぁ……」


 正直、かなり面倒だ。


「だからー、私と寝ればいいじゃない」


 と、クロエが言う。

 その言い方がいたずらっぽかったらなんとも思わなかったが、なにか寂しそうにしているので気になった。


「ん、どうしたの?」


「えー……別に」


 と、クロエはベッドに寝転がった。


 そういう態度を取られると、ちょっと気になる。


 いつもあっちから来るばかりなので、たまにはこっちから行ってみよう。


 ベッドに腰を下ろすと、クロエは部屋の隅で瞬いているランプの光を見ていた。


「どうしたの?」


「んー……」


「元気ないね」


「まーね……」


 と、言ったクロエが突然俺の腕をつかんで引っ張った。


「わっ」


「ほら、仰向けになる!」


 クロエが無理矢理に引っ張るので、不承不承に従った。

 普段なら絶対にのらないが、なんか不自然だったのでのってみたのだ。


 俺がベッドに仰向けになると、クロエはその上から覆い被さってきた。


 いや、ちょ……それは!?


「ク、クロエ……?」


 クロエは俺の上に覆い被さったまま、顔を近づけてきた。


「な……」


「アリス、私の物だよね?」


「え? な、なぜか流れ的に……お、俺は同意してないよ」


 その同意していないという台詞を完全に無視して、クロエがさらに顔を近づけてくる。


「ちょ……駄目って」


「私の物なのに、なんで私がアリスに教えられてるのよ……もう」


 キスしてくるかと思ったら、そのまま脱力して、俺の胸に顔を預けてきた。

 残念なことに俺の胸は大変に慎ましいので、預けられても埋めるなんて贅沢は出来ない。


「ど、どうしたの?」


「もー……私がアリスを助けて面倒見るって言ったのに……」


 そんなこと、言いましたっけ?


「なんで、私がアリスに面倒見られてるのよ……屈辱」


 俺の胸に顔を押しつけたままクロエが言う。


「別にいいじゃん。助けて助けられての相互扶助で健全だよ」


「そうじゃないー! 圧倒的優位に立って、せっかくアリスにいろいろ言える立場になったのにぃ!」


 クロエが俺に覆い被さったままジタバタする。

 刺激が強いから、じっとしていて欲しい。


「い、いやいや、圧倒的優位とか勘弁してよ! マリーとクロエに二人でいじられたら俺持たないから」


「もー、いじってやろうと思ったのにー! いじれないじゃん、こんなの!」


 クロエが都合のいいことを言う。


 ということは、先ほどの流れがなかったら、本当に一晩中クロエにいじられて寝られないフラグが立っていたのだろう。

 怖すぎる。


「はぁ……よかった」


 本音が漏れる。


「なにがよー。せっかくアリスの上に立ってたのに-」


「そんな上下にこだわらなくても」


「こだわるわよ-」


「あー、はいはい」


 なんだかクロエがちょっとかわいく見えてきた。


 手を伸ばして、俺の胸に載っているクロエの頭をぽんぽんと叩く。

 クロエがピクッと反応する。

 そういえば、クロエも敏感族だった。


 頭を撫でてやると、人の上に覆い被さったまま脱力してリラックスしていくのが分かる。


「これ……いいわね。もっとやって」


「はいはい」


 しかし、こんな体勢でありながらエロい気分にならないって、完全に男のエロ心を失っている。

 まぁ、実際のところこの生活で男のエロ心なんか発揮してたらまともにメイドなんてやっていけないが、しかし元男としてどうかという気もしてくる。


 複雑だ……。


 そんなことを思いながら頭をなでなでしていると、扉を叩く音がして、どうぞともなんとも言わないうちにマリーが入ってきた。


「あ、クロエ!?」


 と、マリーが俺とクロエを見て驚いた顔をする。


 クロエは頭だけ動かして、マリーに視線を向ける。


「ふふん。いいでしょう。アリス、もっとなでて~」


「えぇ……はいはい」


 体重が地味にきっついなぁ、と思いながらもクロエの頭を撫でる。


「ちょっと、なにうらやましいことしてるの! アリス、今日のキスもらってないんだけど!」


 と、マリーが本気の顔で言う。


「え……帰ってきたときにキスしたじゃん」


 と、クロエの頭を撫でながら言うと、マリーが不機嫌そうな顔をした。


「あれはお帰りのキスでしょ? 毎日のキスはまだ」


「えー……」


 と、言っていると、マリーがずんずんと近づいてきて、ベッドの横に立った。

 そして、


「いただきます」


 という不穏な台詞を言ってから、顔を近づけてきて、有無を言わさず唇を塞がれた。


 クロエに覆い被されてベッドの上で仰向けになって動けない。

 その状態で、さらにクロエの頭を撫でているというその最中に、唇を塞がれる。


 ちょっと、いい加減にしてもらいたい。


「んー!」


 抗議をするが、全然聞き届けられず、思う存分キスをしてからマリーが顔を離した。


「本当はアリスからやってほしかったんだけどな」


「いや……この状況で無茶を言わないでほしい」


 動くことすら出来ないんですが。


「あー! なに人の頭の上でキスしてるのよ!」


 と、クロエが俺の手を振り払って、胸から顔を離し、ずりずりと上に上がってきた。


「あ、ちょっと、クロエ」


「私もいただきます」


 と、クロエも唇を押しつけてきた。

 しかも、舌まで入れてこようとするので、そこは断固として拒否した。


「もー、ちょっとのりが悪い」


「あの……本当に勘弁して」


 キスが終わっても、クロエは俺の胸に顔を押しつけてきて全然降りようとしない。


「そろそろ……降りてくれない?」


「やだー」


 その様子にマリーも少し怒る。


「ちょっとクロエ、アリスが困ってるじゃ無い」


「いいじゃん、どうせ毎日キスしてるんでしょ? たまには私に貸してよ。二人でアリスを守っていこうって話をしたじゃんか」


「それとこれとは別でしょ。もう、アリスも抵抗しなさいよ」


 抵抗したいけどできないんだよ。


 すると、また扉を叩く音がして、レベッカとコレットが入ってきた。


「アリス、三日分のキス頼むよ」


 と明るい口調で言ったのが、レベッカ。


「私も」


 と一言だけ言ったのがコレット。


 しかし、その二人もベッドの上の状況を見て目を丸くした。


「な……何してるの? マリー、怒らなくていいの?」


 レベッカが不思議そうにマリーを見ている。

 たしかに、レベッカやコレットがこういうことをしたら、マリーはめちゃくちゃ怒るだろう。


「あんまりよくないけど……どかないのよ」


 と、マリーが諦めたように言う。


「おい、お嬢様、アリスはバロメッシュの屋敷の共有財産なんだから、占有は止めてもらえます?」


 物騒な口調でレベッカが言う。

 さきほどのやりとりで大分クロエを嫌っているようだ。


 それにしても、俺は共有財産になった覚えはないんだけど。


 クロエが怯える仕草をしたので、反射的にクロエの頭を撫でる。


「あんた、なんでそのお嬢様をかばうのよ!? まさか……」


 レベッカが意味ありげな目で俺を見る。


「い、いや、それは違う……違わないけど、違う!」


「な、なによ、それ」


 レベッカが動揺した声を上げる。


「ふふーん、アリスは私とマリーの物だからね~。もう、手を出しちゃダメよ~」


 と、クロエが俺の胸に顔を擦り付けながら言う。

 あの、擦り付けるとこ選んでください。

 へんなところに当たらないようにお願いします。


 この体、例の如く敏感なので。


「ちょっと、マリー、このお嬢様を止めてよ! 私たちの取り分がなくなる!」


 レベッカがマリーに向かって怒る。


 取り分って何だ。


「大目に見てあげてよ。お客様なんだから」


 マリーが困った顔をして、レベッカをなだめる。


「そんなのずるい。私とコレットはずっとキスできなかったんだから、まだお預けは酷くない?」


 レベッカが不満を爆発させている。

 

 いつもながら思うが、俺の意思はもはや関係ない。

 さきほどの考察の通り、この女社会では「社会的な常識」という物はほとんど通用せず、ローカルルールがなによりも優先される。

 この屋敷では先ほどレベッカが言ったとおり、「俺=共有財産」というローカルルールが出来上がってしまってる。


 勘弁してほしい。


「ちょっと、お嬢様! どいてください!」


 レベッカが乱暴にクロエの肩をつかむが、クロエはキッときつい目で見上げたまま俺から離れない。


 やめてくれ!

 俺は、平和な日常がほしいだけなんだ。


 こういうの別に望んでないんですけど。


「あのー……俺の意思とか誰も聞いてくれないの?」


 俺が全員の顔を見渡すが、全員にスルーされた。


 本人の意見を聞くという一般常識がやはり通用しない。

 分かっていたけど、つらい。


「ふん。アリスは私とマリーの物だから、他の人が勝手に触れちゃいけないのよ。分かった?」


 クロエが偉そうに宣言する。


「はぁ!? 何を勝手に決めてるの!? アリスは私たちの物なのよ。よそ者が勝手に決めないでくれる!?」


 レベッカが激高する。


 ローカルルールとローカルルールが対立している。


「アリスはどう思ってるの!?」


 と、レベッカが俺を見た。

 初めて、意見を聞かれた。


「え、えぇ……お、俺としましては、どちらのローカルルールにも賛同しがたいんですけど。勝手に所有権を主張するのはやめ……ちょ、クロエ、脇に触らないで……ひゃいっ! は、離れ……ひゅおう!?」


 クロエが人の敏感なところをちょんちょんつついてくる。


「ちょわっ! 無理! そこ無理! やめっ!」


 普通の人でも触られるとくすぐったいところを触るなんて、この体にとっては拷問に等しい。


 む……無理無理!


 足をばたつかせて、クロエを引き剥がし、ベッドの上から起き上がる。


「……っはぁ……っはぁ……、し、死ぬよ。本当に、死ぬよ。呼吸困難で死ぬ……」


 顔をほてらせながら、息を荒げていると、後ろから気配を感じた。

 さっと振り返ると、クロエがまだ手を突き出していた。


「ク、クロエ! いい加減にしてくれる!? 洒落にならないっていってるでしょ!」


「あ……ごめん」


 クロエはそんなに怒られると思っていなかったらしく、しゅんとして手を下げた。


 君ら、この体の敏感さをまったく分かってないな。

 こっちは死活問題なんだぞ。


「で、アリスはどうするの? もちろん、私たちの物よね?」


 と、レベッカが話を再開した。


 その話、まだ終わってなかったの!?


「だ、だからさぁ、そういうの止めようよ。俺は別にどっちの物でもないから。自由意志を尊重してもらいたい……」


「そういう中途半端はダメ」


 と、レベッカが言い切る。


「中途半端って……俺の自由意志は……」


「だいたい、いつでもキスぐらいするって言ってなかった?」


 と、レベッカが俺の目を見てくる。


 やはり、口は災いの元だ。


「あ、あれは勢いで……みんな、いい加減にしようよ。正直、毎日毎日大変だから……」


「するのが大変なら、私からするわ」


 とレベッカが我慢しきれないように、俺の肩をつかむ。

 危ない気配を察して、後ろに下がろうとしたところを手を頭に回されて、がっちり固定された。


 げ。


 と、思う間に目を瞑ったレベッカに唇を押しつけられた。

 レベッカからしてくるときは、いつも素っ気ないキスなのだが、今回はなんだか違う。

 やたらねっとりしていて、ちょっと離したと思ったらまた吸い付いてくる。


「はむぅ……ふみょぉ!」


 俺が一人で変な声を上げているが、それでもレベッカが唇を離さない。

 何度も人の唇を無遠慮に吸い上げてから、やっとのことでレベッカが唇を離した。


 レベッカの息が荒い。


 こ、怖いんですけど。


「あー、私も!」


 と、コレットが手上げる。


 すると、レベッカが俺の肩を無理矢理下に押した。

 コレットと自分では身長差があるので、こちらが少し身をかがませないとキスはできない。

 このレベッカの行動は、コレットともキスしろってことだろう。


 あー、はいはい。


「ええと、コレット……短めに」


 すると、目の前のコレットは不満そうな顔をした。


「なら、アリスから濃厚なのをお願いします」


 あのさぁ、そういうセリフよくないよ。


 って、言っても仕方が無い。


 俺はため息を吐き出して、レベッカにやられたような奴をコレットにした。

 この状態で15分もキスされたら、クロエとマリーに殺される。


 レベッカのを参考に大分がんばったので、唇を離したときにコレットはかなりぽわ~んとした顔をしていた。


「よ、よかったです」


「そ、それはよかった……」


 唇を拭いて、立ち上がると、痛い視線を感じた。

 振り向くと、クロエがきつい視線を俺に向けていた。


 マリーは「しょうがないか」という表情を浮かべているが、クロエの方はそんな雰囲気はみじんもない。


「なんで、そっちとキスするのよ……」


 声が怖い。


「しょ、しょうが無いでしょ、今のは」


「そこはちゃんと拒否してよ」


「いや、無理……」


 なんだこの状況は。

 とくにクロエとレベッカが怖い。


「ご、ごめん……ちょっとトイレに」


 駄目だ。

 いたたまれない。


 俺は部屋を逃げ出した。



○作者のコメント

なんて乱れた世界観の物語だ……

書くときは悪乗りして爆笑して書いてるんだけど、推敲していると「え!? これいいの?」ってなる。


あと、推敲に疲れてとびっきり酷い短編を書いたりしてました。

「居酒屋のバイトのおっさん(57)が前世で俺のメイドだったと言い出した件」

https://book1.adouzi.eu.org/n9222ga/


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