アリスのオークション
ダニエルとアルフォンスが口げんかしているのをぼーっと眺めていると、別の男が顔を突っ込んできた。
「お、なんだ、なんの喧嘩だ? おぉ、アルフォンス、この娘が例の異世界からやってきたという娘か? なるほど、これは確かに見事な銀髪だな。ほぉ、これは……誇張だと思ったが本当に整った顔だな」
その男が、俺の顔をジロジロみる。
黒毛混じりの金髪で、かなり濃い顔の男だ。
「あ……え……?」
事情を知っているのはダニエルという男だけじゃないのか!?
あきらかにこの男も俺の事情を知っている。
「あぁ、ジョゼフか。いま、アルフォンスが異世界から来たこの娘を4200エリスで雇ってるって言うから、俺が3万5千で雇うからよこせって言ってたんだ」
ダニエルが、その濃い顔の男に説明する。
「そういうことか」
そのジョゼフという男が、じっと俺の方を見つめてきた。
「ふーむ……俺も好みだ。俺は3万8千だそう」
その男は俺の顔を見ながらそんなことを言った。
え、この男も?
さすがに全然知らない相手に雇われるのは怖いんだけど。
「おい、ジョゼフ、お前まで参戦してくるな!」
アルフォンスが悲鳴を上げる。
「畜生、お前もその気か。なら、俺は3万9千!」
ダニエルが答える。
すると、先ほどやってきたと思われる、別の年配の紳士も顔を突っ込んできた。
「なるほど、これが噂の」
おい、どこまで噂が広まってる。
すでに知人数人レベルじゃなくなってるんじゃ無いか?
「ア、アルフォ……ご主人様! どこまで話をしたんですか!?」
声をかけると、アルフォンスはダニエルとの言い争いを止めて、こちらを見た。
「ま、まぁ……いいだろ」
「よくない!」
叫んだが、もう遅そうだ。
年配の紳士は俺を見て、なにか納得したように頷いた。
「よし、では私は5万だそう」
は!?
この人まで俺を雇う気なの!?
「ちょっと、自重してくださいよ! 相場が崩れる!」
ダニエルが文句を言う。
いつ俺の価格は相場になったんだ。
ってか、なんだこの流れは!?
「あら、こちらが例の? なかなか……というか、ずいぶんとかわいらしい娘ね。あぁ、かわいいわぁ」
派手な衣装を着たおばちゃんまで顔を突っ込んできた。
このおばちゃんまで、俺の正体知ってるの!?
「私なら8万出すわ。2ヶ月でいいから」
おばちゃんは、勝手に俺の髪の毛を触りながら言った。
うわ、勝手に触らないでよ!
おばちゃんをそっと振り払う。
「ちょっと、相場壊さないでください! いま、せっかく俺が4万以下で粘っていたのに」
ダニエルがまた叫ぶ。
「期間限定もあるのか。ではわしの方は、一月でいいから12万でどうだ」
年配の紳士が言う。
「馬鹿ねぇ。私なら2週間でいいから、2週間で10万出すわ。まずはうちに来てくれないかしら?」
おばちゃんが言う。
「おいおい、ちょっと金満家の方々、我々小規模地方貴族の懐事情を考えてください! そんなポンポン値段をつり上げないでいただきたい!」
ダニエルが叫ぶ。
その横で、アルフォンスの顔色がだんだんと悪くなってきている。
「大丈夫ですか? なんか……具合悪そうですね」
「あ、当たり前だ。うちではそんな金額出せないぞ」
と、アルフォンスが心細い声を出す。
「そんなに出せとかいいませんよ」
「でも出さないとよそに行くつもりだろ……?」
アルフォンスが悲しそうな顔をする。
え、その顔は卑怯なんだけど。
金はほしいが、さすがに恩人をそこまで苦しめたくない。
「うちなら1週間限定でいい! なにとぞ!」
「あぁ、こうなったら三日でいい! うちだ! うちに来てくれ!」
後ろで見ていた野次馬まで集まってきて、いつのまにか完全にオークションになっている。
「な、なにこれ……?」
「頼む! うちだ! うちに来てくれ! 最初はなにとぞ、うちに!」
「おい、勝手にオークションをやるな! 俺だって参戦するぞ! 俺なら二日でいい!」
どんどん人が群がってきて、どんどんとんでもないことになっていく。
ん?
「なんか……雇うと言うより、いくら払うから何日来てくれって話になってる……?」
とつぶやいて、ダニエルに視線を向けた。
「ああ、俺は普通に雇うつもりだったが……他の連中は客人として来て欲しいみたいだな」
と、ダニエルが俺に説明した。
「客人?」
「あぁ、知らないのか。俺を含めたこういう連中って言うのは、自分の屋敷に高名な人物を宿泊させてコネを作るのが、一種の勲章なんだ。その後の出世につながる可能性もあるしな」
ダニエルがあけすけに説明してくれた。
「な、なるほど。なんか聞いたことがある気が……。でも、高名じゃ無いですよ」
「他の世界から来たってだけでずいぶんな価値だ。見た目も、この通りだしな」
とダニエルがウインクをする。
だから、それはやめてほしい。
しかし、この流れなら願ったり叶ったりだ。
「なぁ、アルフォンス……」
アルフォンスに話しかける。
「な、なんだ?」
アルフォンスは飛び交う価格が気になるらしく、そちらに耳を傾けている。
「恩もあるし、マリーたちとも離れたくないから、派遣契約にしない?」
「なんだそれは?」
アルフォンスが俺に目を向けた。
「つまり、誰かに呼ばれたらそこに数日行ってお金を頂いてきて、そんでアルフォンスと私で山分け。メイドの方の給金は日割り計算でいいから」
「なるほど。まぁ、完全によそに行かれるよりはその方がいいが……」
アルフォンスが考え込む。
「じゃあ、それでいいですよね?」
「あぁ、仕方ない」
その様子を見ていたダニエルが頷いた。
「よっしゃ。そう来たか。よし、今の金額は全部帳消し! この他の世界から来た『英雄』の少女を1日単位でレンタル! 最初のレンタルは……よし、三日! 三日間のレンタル価格は1000からスタート!」
ダニエルが勝手に仕切る。
サロンに集まっている面々はノリが良いらしく、それに即座に参加した。
「二千!」
「三千!」
「五千!」
「ぬるいわっ! 三万!」
「まだまだですな。最初の来訪はうちです。五万!」
すごい勢いで跳ね上がっていく。
やはり皆最初と言うことにこだわっているようで、誰も引かない。
「す……すごっ!」
俺はうめいた。
五万なんて、日本円換算で50万円ほどだ。
三日で50万とかおいしすぎる。
「な、なら俺は……」
なぜか、アルフォンスまで参加しそうになっている。
慌ててアルフォンスの腕をつかんだ。
「ちょ、なんでアルフォンスまで参加してるわけ!?」
「そ、そうなんだが、ついな……」
アルフォンスが上げようとしていた腕を下ろした。
目の前のダニエルは、時々値段を言っている。
「毎月はきついが、一度きりならかなりいけるぜ……。よし、6万2千! ちっ! じゃあ、7万! 10万超えたか……よし、12万!」
さすがに値段も落ち着いてきて、15万あたりをちょろちょろと移動している。
参加者も半分以下になってそろそろ決まりそうだ。
15万って……日本円で150万円だ。
ちょっと感覚がおかしくなってくる。
「え……こ、これ、現実?」
「15万1000!」
「15万1500!」
すでに値上がりは限界のようだ。
「15万1500……他にいらっしゃいませんか?」
ダニエルが周りに声をかけるが、なかなか声が上がらない。
なるほど、これで決まりか。
俺は15万1500と言った年輩の紳士に目を向けた。
すると、その紳士の後ろの入り口の扉が開いた。
「ん?」
入ってきたのは、これ見よがしな豪奢な衣装に身を包んだ、俺と同じような年頃の少女。
俺と同じような銀髪で、身長は俺よりも少し高い。
自信に満ちた整った顔で、部屋の中を見回した。
そして、人だかりの中心にいる俺に視線を向け、眉をひそめた。
その少女は近くの男に声をかけ、こちらを見ながら話を聞きはじめた。
このサロンにいるのは、アルフォンスのような20代後半から60代と思われる年配の人たちだ。
その少女だけがやけに若い。
「あの人は……? なんか場違いな気がするけど」
ダニエルに聞くと、ダニエルは少女を見て眉をひそめた。
「あぁ……豪商のお嬢様だ。面倒だから、あんまり関わらない方がいいぞ」
「え、そうなんですか」
もう一度少女に視線を向けると、その少女は見下すような表情で俺を見ていた。
え、やばくない?
「私も参加するわ」
少女の言葉に、サロンの面々が一斉にそちらに注目する。
注目された少女は、ふっと笑いを浮かべた。
「50万」
少女の凜とした声が響いた。
当然の如く、その金額に続く人は現れなかった。
この小説は切れ目無く続くので章分けが難しいのですが、一応ここまでを1章とします。
すでにこの時点で16万文字を超えているという……
書き始めたときは30万文字ぐらいの作品を書こうと思っていたのですが、16万文字時点でまだ女性キャラ3名しか出てない。
最低で女性キャラも10名ぐらいは出したいので、あと最低女性キャラ7名。
そして男性キャラもまだ何人も居る。
いったい、いつになったらエンディングを見れるのか? 文字数は何文字になるのか?
先は遠い……




