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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第1章 バロメッシュ家
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男モードで男の子たちで会った場合

「あ~、口の中が……なんか気持ち悪い。も~、なんかやな夢見たし……」


 翌日の午前中、俺はブツブツつぶやきながら廊下を歩いていた。


 昨日は本当に酷かった。

 結局、三周ぐらいして順番にキスされた。

 とくにきつかったのはコレットだ。


 この身体は敏感だけど、幸いなことに唇はそれほど敏感では無く、なんとか悲鳴を上げずに済んだ。

 悲鳴とか上げてたら、もっといじられていた気がする。


 というか……あれはいろいろとあかんでしょ。


「はぁ……誰かなんとかしてくれ……」


 やる気が出ないのでゲストルームでちょっと休もうかと思っていると、廊下の向こうから執事のガストンが足早に歩いてきた。


 あ、今日は来ていたんだ。


「アリス、いいところにいた」


 ガストンは足を止めて、俺に振り向いた。


「どうかしましたか?」


 とっさに女言葉で返す。

 ガストンに男言葉を使ったら絶対に眉をひそめられるだろう。


「今日、ジャンたちに給金を渡すことになっているんだが、今忙しくて手を離せないのだよ。これを渡してきてくれないか。それから領収のサインをこっちに」


 ガストンがお金が入っている封筒とバインダーに挟んだ書類を渡してきた。


「え、私がお金を扱ってしまっていいんですか?」


「なに少額だ。問題ないだろう。じゃあ、頼んだよ」


 ガストンはそのまま足早に行ってしまった。

 

「そうか……今日はまたあいつらが来ているのか」


 この前うっかりキスしてしまった光景が脳内にフラッシュバックする。


 男の肌の感触、微妙な表情をするシモンやエリクの顔、そういった物が思い出される。


「うわ……完全に黒歴史……」


 いや、今回は絶対にそんなことにはならない。


 袋とバインダーを持って、玄関を出る。

 そして、建物を回って裏庭に回る。

 

 またしても、大きな話し声が聞こえてきた。

 前回のように木の陰から様子をうかがう。

 

「今日はアリスさん、来ないんかなぁ」


 と言っているのはエリクのようだ。


「どうかな。昨日も来なかったしな」


 と無関心を装っているジャン少年。


「多分、俺が一人になるタイミングを見計らってるんだ。そうじゃなきゃ、きっと忙しいんだ」


 と勝手に盛り上がっているシモン。


 うーん、好き勝手なことを言っている……。

 めちゃくちゃ出にくい。


 木の陰からチラチラと男たちの顔が見える。


 その顔を見ていると不思議な気分になってくる。


「なんで俺はあのときあいつらをかわいいとか思ったんだ……?」


 今見ると、単に芋っぽい男ども三人衆にしか見えてこない。


 男モードの時と女モードの時の感性は全く違うようだ。


「でも、男モードのまま出るわけにはいかないしなぁ……でも、女言葉を使うと、変に流される危険性があるんだよなぁ……」


 小さくつぶやいて、出て行くのを躊躇する。

 うっかり、前回のような変なことをしてしまわないだろうか。


 いや、こんなところでうじうじしていても仕方ない。

 男の心を持ちながら、微妙に女の演技をしつつ用を済ませてさっさとずらかろう。


 覚悟を決めて、物陰からさっと姿を現した。


「あ、アリスさん!」


 一番最初の気がついたのは、エリクだ。


 前回はかわいく見えたのだが、今はただガキっぽいなぁ、と思うだけだ。

 うーん、我ながらこの感性の変化には驚くなぁ。


 やたらうれしそうにしているのが、今の俺にはちょっとイラッとくる。

 喜ばれても、俺男なんだけど。


「アリスさん! お久しぶりです!」


 年長のジャン少年も、ぎこちないながらも精一杯の笑みを浮かべた。

 その美少女を意識した笑い方が、今の俺には果てしなく気持ち悪く感じる。


 GO TO HELL!!


 心の中で親指を下に向ける。

 俺、男なんだよ。


「ア、アリス……」


 口をぽかんと開けて俺を見るシモン。


 おい、なに呼び捨てにしてんだよ。

 アリス様と最大限の敬称をつけやがれ。

 今すぐ蹴り倒してやろうか。

 俺は男なんだ。


「うぐ……」


 好意と興味を全開で向けてくる男子三人衆に対して、ものすごい忌避感が生まれる。

 前回はあんなにかわいく感じたのに、とんでもない落差だ。


 それでもなんとか近づかないと……。


 俺は顔に笑みを貼り付けながら、三人に近づいた。

 かなり不自然な笑みを浮かべていると思うが、三人は全然気がつかない様子でわらわらと寄ってくる。


 う……気持ち悪いから、近づいてくるな……


「い、いや、私今日は忙しくて」


 バインダーと袋を突き出して、男たちを制止する。


「え、そうなんですか? 残念ですね」


 ジャンが笑みを浮かべてくる。


 うーん、ジャンには悪いが虫唾が走る。


「久しぶりって、2・3日しか経ってないと思いますけど?」


 俺は割と突き放すように言った。


「そ、そうでしたっけ」


 しかし、ジャンは照れてるだけだ。

 どうも面と向かって顔を合わせるのが気恥ずかしくて視線をそらしているので、俺の表情をちゃんと読み取ってないようだ。


 やっぱり女の子を相手にするのと、大分感覚が違う。


「あのこれ、お給金です。ガストンさんが忙しいそうなので」


「あ、そうですか。あ、ありがとうございます」


 ジャンが手を出してくるので、その手に触れないように袋を突き出す。


「こっちがエリクさんのお給金で、こっちがシモンさんですね」


 ひょいひょいと残りの二人にも袋を渡す。


「あ、ありがとうございます」

「ど、どうも」


「あとこちらにサインを」


 バインダーを突き出して、三人分のサインをもらう。


「では、これで」


 軽く頭を下げて、その場を去ろうとすると、ジャンが呼び止めた。


「あの……アリスさん」


 呼び止めるなよ……。


 うんざりした気分を表情に出さないようにして振り返ると、ジャンが何かを言おうとしていた。


「なんでしょう?」


 結構冷たいな、と自分でも感じる口調で聞く。


「そ、その……嫌でなければ……今度のお休みに一緒に買い物でも……」


 ジャンが精一杯といった感じで俺に目を合わせないで言う。


 シモンとエリクが、驚いた顔でジャンを見ている。


 ジャンは二人にも内緒で俺を誘う計画を立てていたらしい。


 でも、誘われても困る。


「ああ……すみませんね。私の休日はみなさんと違うと思うので、なかなか難しいと思いますよ?」


 と、実質的なお断りを言った。


「じゃ、じゃあ、いつならいいですか?」


 しかし、ジャンが食いついてくる。


 断られていると言うことに気づいてほしいのだが、そういう期待をしても駄目みたいだ。


「それはちょっと分からないですね。まぁ、また都合のよいときにでもお声をかけます」


「ぜ、是非!」


 断られているのも知らずに、ジャンがうれしそうな顔をする。


 うーん、腹が立つ。

 その顔にアッパーを噛ましたい。


 でも、その必死な姿に前の世界の俺の姿が重なってしまう。


 目の前の美少女は本当は全く気が無いのに、気があると思い込んで一喜一憂しているジャン少年。

 そう思うと、気の毒だ。

 でも、気がないものは気が無いんだからな。

 かわいそうだとは思うけど。


「でも、本当になかなかお休みがとれないので、難しいと思いますよ」


「い、いえ、ぼ、僕、待ちますんで……」


 身体を硬くしながらそう言っているジャン少年に、うっかり気持ちが持って行かれそうになる。


 う!

 やっぱり、女言葉を使っていると、つい憐憫の情がわいてしまう。


 期待させるだけむしろ残酷なんだから、さっさと断ろう。


「そんなに熱心にされると……」


 そうつぶやいて、頬がちょっと熱くなるのを感じた。


 うわ、だから駄目だってば!

 やっぱり、女言葉は駄目だ!


「あ、で、では、私はこれで!」


 慌ててバインダーを回収して、後ろに下がる。


「あの、僕は本当にいつでも大丈夫ですから」


 念を押すようにジャンが言う。


「わ、わかりましたから! また!」


 俺はきびすを返して、早歩きで裏庭から逃げ出した。




 その夕方、レベッカが話しかけてきた。


「アリス、ジャンのデートの誘い受けたの?」


「は!? いや、断ったよ。なんで俺が男の誘いを受けないといけないんだよ」


「え? だって、ジャンがすごくうれしそうにしてたよ。エリクとシモンもジャンのことはやし立ててたし」


 と、レベッカが光景を思い出すように視線を上に向けながら言った。


「違うって……。日程合わないから無理って答えたの。都合のいいときにこちらから言うって体のいい断りだよ」


「でも、あいつらそんな風に考えてないよ」


「あぁ……面倒……」


 ガクッと脱力する。


「気のあるような仕草をするからだって」


「今回はそういう仕草はしてないつもりなんだけどなぁ……」


「あいつらのこと、そんなに嫌いなの?」


 レベッカが遠慮するように聞いてきた。


「嫌いって訳じゃ無いけど、男にすり寄られても気持ち悪いってだけ」


 と、切って捨てた。


「あれ……? この前、あいつらにキスしたんだよね?」


 レベッカが特になんの含みも無く聞いてきた。


「ぐっ……」


 思い出したくない物を思い出してしまった。


「あ、あれは黒歴史。あのときの自分はどうかしていた。あれはノーカウントでお願い」


「そうなの? でも、あいつらめちゃくちゃ盛り上がってたよ」


「あ~、いいよいいよ。多分めったに会わないから」


「ちょっと可哀想かなぁ……あいつら」


 と、レベッカがつぶやく。


「いいんだよ。変に盛り上がってる男どもとか、放っておけばいいんだ」


「うわ、アリスって、案外冷たいね」


 レベッカがあきれたように言った。


「ま、男ですからね。男には厳しいんだよ」


 俺はつぶやいてから、そっとレベッカから離れた。


 うん、キスを要求される前にうまく逃げれたぞ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 気もないのに純粋な少年たちが目の前にあったらもて遊ぶー!好きー! アルフォンスの旦那も同じことやっているんですが、続けたらそのうち食われそうですね。 食われたら終わりですが。
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