マリーには襲われる
全員の夕食が終わって、当番の皿洗いをしていると、マリーが厨房にそっと入ってきた。
「あ、マリーどうしたの?」
振り向くと、マリーは期待に満ちた表情を浮かべて近づいてきた。
「仕事、もう終わりでしょ?」
「うん……これで終わりかな」
皿を片付けて、タオルで手を拭いた。
「私も終わったの。仕事終わりのキスしようよ。今日は一回もしてないでしょ」
「う、うん……ん?」
マリーとキス?
確かにレベッカとのキスよりはいい気がするけど、でもなにかおかしくない?
「どうしたの?」
マリーが不思議そうな顔をする。
「ほ、ほっぺでいい? 唇はちょっと……」
「え?」
マリーがショックを受けた顔をする。
マリーが不安そうに私の顔を見た。
「やっぱり……私じゃ駄目なの?」
「え……そ、そういうわけじゃなくて……な、なんだろう? わ、わかんないけど……」
すると、マリーは手のひらを私の額に当ててきた。
額にひんやりとした感触を感じた。
「熱がある……わけじゃないよね」
「ないと思うけど……」
「でも、なにか変……な気がする」
と、マリーが首をかしげる。
「ご、ごめん」
「謝らなくていいけど、私にキスしてくれないの?」
と、マリーが寂しそうな顔をする。
そういう顔をすると応えてあげたくなるけど、なにかもやもやして踏み切れない。
「な、なにか……駄目みたいで。なんかさっきから私変かも……」
「うん、変だね」
と、マリーが頷く。
「いつものアリスってちょっと違和感を感じるのに、今日のアリスは全然違和感を感じないから」
「違和感?」
聞き返すと、マリーがじっと私の顔を見てから、困った顔をした。
「うーん、様子を見るしか無いのかなぁ……」
「え?」
「とにかく、今のアリス、おかしいから。明日になっても様子がおかしかったら、ご主人様に相談しましょう」
と、マリーが言った。
え、アルフォンスに?
うわ、顔を合わせたくない。
顔がほてるのを感じた。
「あ……ご主人様となにかあった?」
マリーが私の目をのぞき込んだ。
恥ずかしいから、見ないで欲しい。
「な、ないよ」
目をそらす。
「嘘でしょ。アリスの嘘とか子供で見抜けるレベルなんだから、嘘は駄目」
「そこまで言わなくても……」
私の嘘をつく能力はそんなに低いのか。
ちょっと酷くない?
「話したくないなら聞かないけど、寝て起きたらしっかりしてね」
「う、うん」
頷いた。
「じゃあ、とりあえず、頬でも許してあげる」
と、マリーが頬を差し出したので、へっぴり腰のまま軽く唇を触れさせた。
すると、マリーががしっと私の肩を掴んだ。
「え」
「アリス、教えてあげようか。キスって言うのはこうやってやるものだからね」
マリーが私の肩を掴んだまま、唇を強引に押しつけてきた。
「んむぅ!?」
舌を入れてくるつもりはないようだが、背徳感を強く感じて思い切り抵抗した。
しかし、マリーは力任せに唇を押しつけてきて、私が抵抗を諦めたところでようやく唇を離した。
「マ、マリー、ひ、酷い……」
そう抗議をすると、マリーが勝ち誇ったような目で口元を拭った。
「あれ、なんか今日のアリス、すごく虐めたくなる……」
「え? ちょっと、何を言ってるの……?」
「まぁ、今日はこれぐらいで許してあげるけど……明日も戻ってなかったらもっとやっちゃうからね」
と、マリーが黒い笑みを浮かべた。
う……ひ、久しぶり。
「う、うん……」
ぎこちなく、頷いた。




