会話
クロエとマリーと雑貨屋巡りを楽しんだ後、屋敷に戻った。
そして、着替えもする前に、アルフォンスの書斎を訪れた。
「ん? どうした? お前から来るのは珍しいな。……なかなか似合っているな」
さきほど買ったばかりの服をさりげなく褒めた。
む……男のくせに褒めるのうまいなぁ……もぉ。
「そ、それほどでもないけど、き、気に入った? ふ、ふふん」
ちょっとうれしくなった。
「知ってると思うけど、今日クロエの家に行ってきたんだけど」
「そうらしいな。レベッカから聞いた」
アルフォンスは特に気にしていない様子で頷いた。
「アルフォンスがどこまで知っていたかわからないけど……クロエとはキスとかしたことあって……」
アルフォンスの動きが一瞬固まった。
「お前……片っ端から……」
「い、いや、ほら、昔に自分はよく暴走していたじゃん! あれとか諸々でなんかそんなことがあったりして……」
「あぁ……そういえば、最初の頃はお前はよく暴走していたな……。最近はおとなしいが」
「それで、なにかおかしな仲になっていたから……。アルフォンスと結婚するからそういうことはもうしないって宣言してきた」
「あぁ……そうか」
アルフォンスが曖昧に頷いた。
「……あれ? あんまりうれしくない?」
「嬉しくないというか……。お前がそんなところとも関係しているとは思わなかったから……」
あ、あれ?
関係を断ち切って好印象を狙ったのに逆に印象が悪くなってしまった。
「そ、そっか。言わない方がよかったかな……」
「その話をするなら、俺としては使用人の男達の方が気になる。特にジャンと仲が良かっただろ」
「あ、それも言い忘れていた。この前偶然ジャンに会ったから、婚約のことを伝えて置いたよ」
「そ、そうか。諦めていた様子か?」
「ものすごく気落ちしていて、むしろこっちが驚いちゃったくらいだけど」
「そうか……。一つ不安が消えたな」
アルフォンスの表情が少し和らいだ。
おっと。
懸案だったクロエの事がスルーされてしまって、半分忘れかけていたジャンの件の方がインパクトが大きかったようだ。
「あとはマリーも抑えてくれそうだし……。自分で言うのもなんだけど、やたら広がっていた変な関係を整理してるから、あんまり心配しないで」
「俺もお前が浮気しようとして相手に粉をかけているとは思っていないさ。お前の暴走や向こうの勝手な片思いで変な関係になってるだけだろう」
「ま、まぁね……」
「他にもやっかいな関係はないだろうな。女同士のじゃれ合いまで文句を付ける気はないが、男相手は俺も困る」
やはりアルフォンスは男のことを心配している。
「うーん……」
そう言われると思いつくのは、セクハラしてくるダニエルとかギュスターヴだ。
でも、アルフォンスの友達もでもあるし、ちょっといいにくい。
それにそもそもそういう関係になっていたわけではないし、まぁ大丈夫だろう。
「まぁ……そんなにないと思うけど」
「そうか。それならよかった。お前は片っ端からひっかけるからな」
「あはは……」
「残るは王子か……」
アルフォンスが頭を抱えた。
「うん……。そ、そうだね……。とりあえず、それだけ片付けばすっきりかな……」
「手間がかかる……。いや、それだけ手間がかかるいい女ということか」
「そ、それって褒め? それとも皮肉?」
「褒めてる」
「そ、そっか……。うん、割と嬉しいかも……」
アルフォンスがあっけにとられた。
「……え?」
「いや……いきなり女の顔をしたからな……。なんでもないさ」
アルフォンスは適当にごまかした。
「そのうち手紙が来るだろう。それまで待とう」
「そうですね」
そんな感じで話は終わった。




